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【ショートショート】先生のプレゼント

 遠隔で温感のコントロールをする。これがあたしの所属する研究室のテーマだったが、正直なところ、どうでもよかった。先生とつながっていたいがために、院生をやめられなかったのである。
 今日も先生は多忙だった。午前中は、新しく院生になった女の子に遠隔コントロールを体験させるべく、1時間の体験コントロールを行った。私はモニタリングを行いつつも、嫉妬心でどうにもならなかった。
 体験を終えた女の子は上気した表情で目覚めた。ひゃあ。またライバルが増えてしまったよ。それから新しいベッド型の実験機の導入立ち合いがあり、午後からは2件のzoom会議をこなした。
 午後4時、
「奈央ちゃん、今日はもう上がっていいよ。実は君の家にも新しい実験機を送っておいた。誕生日、おめでとう」
 と先生は言った。嬉しい。私の誕生日、覚えていてくれたんだ。私はすっ飛んで帰った。今までのベッドを畳み、すぐに実験機を設置した。
 その夜、先生がやってきた。といっても遠隔だ。先生自身はどこか遠くにいる。先生は薔薇の花束をくれた。部屋が芳醇な香りに包まれる。
「先生、すごいです。これ。この匂い」
「そうなんだ。ようやく遠隔で匂いを制御できるようになったよ」
「先生、おめでとうございます」
「奈央君もおめでとう」
 その夜、私は先生の匂いに包まれ、先生の体温を感じながら眠った。痺れるような快感だった。先生は香水をくれると言ったのだが、私が断ったのだ。
 温感、嗅覚コントロール、この先、どこまで進化していくことやら末恐ろしい。そして差し当たっての問題は、次に先生がいつやってきてくれるかということだ。私はますます研究にはげまなければならないだろう。

(了)

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