ラジオ小説であり群馬小説でもある「ラジ&ピース」。

 絲山秋子は芥川賞作家である。2005年に「沖で待つ」で受賞した。受賞前の仕事は住宅設備機器メーカーの営業職であり、躁鬱病で休職、退職した。躁鬱病をテーマにした小説には「逃亡くそたわけ」という傑作がある。
 東京生まれの東京嫌いで群馬県に定住し、ラジオ高崎でパーソナリティをつとめている。
 図書館でむかし読んだ「ラジ&ピース」を見かけ、再読してみた。当時は絲山さんの経歴を知らなかったので読み飛ばしていたが、読み返すと私性が色濃く出ている作品だとわかる。
 主人公は、ちょっと癖のあるフリーランスのアナウンサーである。東京生まれにかかわらず東京嫌いで、地方のFM局を転々としている。ある日、リスナーの「恐妻センター前橋」と親しくなり、日帰り温泉に出かけたりするようになった。前橋に行くときの描写がこんな感じである。
「この街は何も入っていない冷蔵庫によく似ている。それは野枝の心そのものである。/こんなにさびれた県庁所在地がどこにあるだろう。」
 かなり辛辣だが、群馬愛、ラジオ愛に満ちた小説だ。

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