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小川哲「ゲームの王国」を読んだ。

 1000枚以上ある長編SF小説。
 挑戦的なSF小説のなかにまるまるカンボジアの現代史が入り込んでいるという贅沢な作りだ。
 上巻がクメール・ルージュによる虐殺の歴史であり、下巻は近未来に飛ぶ。クメール・ルージュの記憶は全巻を通して、重い主題となっている。現代史といえども、ただ歴史を記しただけではなく、泥を食べ、泥を操る農民や、13年間沈黙を貫いたあと歌手になる男、輪ゴムで人の生死を占う者など、不可思議な人物が多数登場する。
 主人公はふたり。どちらも神童としてクメール・ルージュ時代を生き抜き、生き残るために、決定的な対立関係に陥る。だが、ふたりは幼い頃に一度だけオリジナルのゲームを戦っており、そのときの記憶を人生で一番愉しい記憶としている。
 ひとりは大学教授になり、もうひとりは政治家になる。大学教授は自分の研究成果のすべての成果を投入したゲームを制作し、政治家はルールを変更してカンボジアを正しい国家に変革しようと企てる。
 魔術的なリアリズムが息づいている不思議な小説。オススメ。

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