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井上志摩夫全集「巷説天保六花撰」を読んだ。

 色川武大の別名、井上志摩夫。全集の第4巻「巷説天保六花撰」は講談をもとに書かれた作品を集めたようだ。「巷説天保六花撰」、「お白粉悲剣」、「無惨白虎隊」、「鬼っ子彦六」、「海道一の流れ星」、「命が惜しゅうござる」、「和泉屋次郎吉」の6編を収録。
 「巷説天保六花撰」は天保年間に流行った富籤を題材にして天保六花撰のメンバーたちが活躍する物語。語り手は御家人くずれの直次郎である。近江屋に押し入るが、その背後には水戸家の暗躍があり、無関係なひとびとが次々と殺されていく。
 「命がおしゅうござる」は赤穂浪士もの。大石内蔵助の一子、主税の物語である。主税が一夜をともにした女に討ち入りの話をもらしてしまい、逆上のあまり同僚を斬り殺し、女も殺そうとする。調べてもそんな話は出てこない。
 鬼っ子彦六は塚原卜伝の子供という設定だが、実在ではないと思われる。偉大な親をみてひねくれてしまっている。
 実在、非実在、いずれにせよ、内心にくったくを抱えた人々の物語へと変貌させているところが、色川武大的である。

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