見出し画像

「海坂藩大全」上巻を読んだ。

 藤沢周平の「海坂藩大全」の上巻を読み終えた。一種のアンソロジーである。昭和48年から52年にかけて書かれた海坂藩ものの短篇を収録している。
 収録作は「暗殺の年輪」「相模守は無害」「唆す」「塩田伝五郎置文」「鬼気」「竹光始末」「遠方より来る」「小川の辺」「木綿触れ」「小鶴」の10作。
 いろいろな短篇集に収録されている作品の中から、①海坂藩、海坂と明記してある②五間川が流れている③色町として染川町があるという三つのいずれかの条件を満たしたものを集めているそうだ。
 藤沢周平といえば海坂ものと言われるだけあって、珠玉の名作集である。
 印象深いのは、冒頭の「暗殺の年輪」だ。全体に暗鬱な雰囲気が覆うが、終わり方は悪くない。
 侍と一口にいっても、禄高の高い上士と足軽のような下士にわかれるが、藤沢周平が描くのは下士の悲哀が多い。「暗殺の年輪」でも、上士やその子弟たちのいやらしい陰謀が描かれる。
 海坂藩は決して理想郷ではなく、陰謀の坩堝だ。それを外部の目から暴く「相模守は無害」も面白かった。

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。