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びすノート

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びすマニアの方々のために。
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2014年6月の記事一覧

びす不調

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 びすはたいてい、私の机の上の隅にちょこんと座り、ひげを震わせている。たぶん無線LANでなにかの情報をやりとりしているのだ。
 ただ、今日はひげが見えない。というより、顔が見えない。
 ネズミ用マスクとネズミ用ゴーグルをしたびすは出来損ないのエイリアンのようにしか見えない。
「インフルエンザかい?」
「熱があるでチュー。喉が痛いでチュー。伝染しちゃいけない

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耐震強度

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 ひさしぶりに杉並区から回覧板メールが届いた。
「杉並区では、大規模地震を想定し、区内の住宅の耐震検査を実施することにいたしました。ご協力をよろしくお願いします。」
 珍しくまじめな文面だ。
 びすがなんだか悲痛な顔をしている。
「耐震検査っておまえがするの?」
「ねずみには無理でチュー」
 チャイムが鳴った。
 玄関を開けると、熊が立っていた。
 右手を

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工場再生

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 夜中。
 潰れたはずの工場からかすかな灯りが漏れる。戦時下の灯火管制のように。
 機械の低いうなりが聞こえ始める。
 おそるおそる近づいていく債権者。
「ちくしょー。誰だ、ふざけたことをしやがって」
 バン、とライトを点けると、そこには無数のネズミがいた。
 主人を亡くした電子ねずみの群れだった。
「うわあああ」
 あまりの恐ろしさに債権者は腰を抜かした

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モノクロの記憶

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 チャイムが鳴り、玄関のドアを開けると、虚無僧が立っていた。
 頭にかぶっている深編笠は天蓋と呼ぶらしい。
 天蓋の奥から、
「バックアップし申す」
 というくぐもった声が聞こえた。
「はい?」
「消したくない記憶を話すがよろしい。拙僧がいつまでも語り伝えましょうぞ」
「そういわれてもなあ」
「なにか、あるであろう」
「父の話でもいいですか」
「もちろん」

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派遣総理

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 政府の非正規雇用解消運動は失敗に終わった。
 財界はそんなことは最初からしたくないのだからいくら笛を吹いても誰も踊らない。
 いたるところ派遣社員だらけで、正規雇用の社員はかえって肩身が狭く、偽装派遣を装う始末だ。
 次に打ち出された政策は、非正規雇用促進運動である。みんな派遣なら、それはそれで公平だろうという三方一両損のような考え方だ。
 まず最初に官

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深川平均225

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 郵便受けに手紙が入っていた。
 ほとんどの通知がメールで来る中、いまどき手紙とは珍しい。
 びすの目が赤く光った。
 スキャンしているらしい。
「なんでチュか、これは」
「あなたは深川平均225に選ばれましたって意味わかんないよなー」
「225という数字がひっかかるでチュー」
「どうして?」
「日経平均って言葉があるでチュー」
「東証第一部の株価の平均だ

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痛いご主人

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 ぎっくり。
 本棚の下から二段目に本を戻そうとして腰をやってしまった。
 あいたたたた。
「たたたた、大変でチュー。大変でチュー」
 びすがあわててあたりを駆け回る。でもあいにくびすの小さな体ではなにもできない。
「たのむ。救急車を呼んでくれ」
「すぐ呼ぶでチュー」
 入院するほどでもないので腰を固める処置を受け、私がタクシーで自宅に戻ってくると、見知ら

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ひまつぶし

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「ひまつぶし、食べようか」
「……それは何料理でチュか?」
「ジャンルはなんだろう。和食?」
「和食にもいろいろありまチュ」
「うーん。どちらかというと、魚系?」
「ひまを潰すでチュね」
 びすの目がキラキラ輝いた。ひま、という名前の魚を検索しているのだろう。
「困ったでチュー。ひまという魚はいないでチュー」
「じゃ、ひまそうな魚かな」
「検索できないでチ

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共存

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 杉並区高円寺図書館の改装が終わった。
 長い長い改装だった。どこをそんなに改装したのだと思い、散歩がてら見に行くことにした。
 びすがポケットに潜り込む。
 外はいい陽気だ。
「あれ、どこが変わったんだろう」
 とつぶやいてから、私は入り口の横にごく小さなミニ入り口がついていることに気づいた。
 ポケットから顔を出したびすがさっそくミニ入り口に飛び込む。

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不条理

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 目覚めたら天井がない。しかも体が動かない。
「なんだこれ」
「しっ、静かに」
 とびすの声が脳裏に響く。文字通り、響きわたる。
「よく目を開いて上を見てほしいでチュー」
 青空。
「寝ているうちに、どんどん体が大きくなっていったでチュー」
 視界いっぱいに広がる青空のなかにびすの姿はない。はて、どうやって声をかければいいのだろう。
「寝室を突き破り、家を

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ゴミ不況

「ゴミ回収にご協力ください」
 というメールが杉並区役所から来た。
 どうせまた分別を細かくするんだろと憂鬱な気分でメールを開いたら、おもわず瞳孔が開いてしまうような内容だった。
「びす、大変だ大変だ」
「どうしたでチュー」
「杉並区がゴミ回収をしろってさ」
「住民の回り持ちでチュー。順番が来ただけでチュー」
「知ってたのか」
「杉並区の動きはいつもウォッチしているでチュー」
「このメールじゃ、明

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