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命を濃くして理不尽な世の中に立ち向かえ

いきなり強い文言のタイトルになったが、中の人は変わりないので驚かないで頂きたい。

先日、前々から気になっていた映画「サユリ」を観た。
当方映画好きの端くれではあるのだが、スクリーンで観るホラー映画は大の苦手である。
ホラー映画を観るとすれば、配信されている作品をスマートフォンの小さな画面で、老眼か?と思う様な距離感で観るようにしている。
しかし、今回該当作品の予告を偶々目にし、恐ろしい映像に混じってとんでもなくファンキーなおばあちゃんが映っていたのが頭から離れなかった。
そんなおばあちゃんが日を経ても脳裏をかすめていたのと、最近体の調子が良くなってきたのもあったので、恐る恐る観にいくことにした。

※以下、作品中呼称を参考にし、上記のおばあちゃんのことは「ばあちゃん」と記すことにする。
また、核心部分のネタバレをしないよう極力配慮し記載するが、何も知らず観に行きたい方は閲覧しない方がいいかもしれない。
というか、原作があるとはいえ、知識ゼロに近い状態で観に行って欲しいというのが本音ではある。


***


公式サイトから引っ張ってきたイントロダクションでは

登場するのは夢のマイホームへと引っ越した神木家。だが、次々と不可解な現象に襲われてゆく。
「この家には“何か”がいる」
神木家を恐怖のどん底に突き落とすのは、呪いの根源、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった……。
という話であれば、従来のスタンダードなJホラーである。ここから驚天動地、予想外の“異展開”が待っている!


とある。
最初読んだ時は「?」だったが、全くもってその通りなのである。


続けて同じく公式サイトのストーリー欄から“異展開”を一部抜粋する。

追い詰められ、テーブルの下に隠れるも怯えたままパニック状態の則雄(注:主人公)。すると、不気味な笑い声とともに、謎の少女が近づいてきた。そこに現れ、救ってくれたのはすっかりボケていたはずの、春枝ばあちゃんであった。
「夢じゃなかったか。すっかり目が覚めてしまったわい。みんな死んだんか?」
「なんやチラチラ見えとったアレが、全部やりおったか?」

そして意気消沈した則雄に発破をかけ、ばあちゃんは「残されたワシらに何ができる?」と問い、さらにこう雄叫びを上げたのだ。
「いいか。ワシら二人で、さっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ! 復讐じゃあ!!!!」


怨霊に対し為す術なく命を落としたり、逃げ惑ったり、祈祷で対抗したり等という展開はよく聞くところだ。
しかし、怨霊に対して「地獄送りにしてやるんじゃ!復讐じゃあ!!!!」は中々聞いた事がない。
というか、怨霊は生前の人や場所等に恨みを持ち、ある種の“復讐”として人間を含めた生き物を襲うのではないか。そんな存在に対して“復讐”を持ってカウンターしていく。発想が斬新すぎる。

そして、ばあちゃんの覚醒シーンと上記台詞を放つシーン、どちらもパンチが強すぎるのだ(個人的に、映画を観たいと思うきっかけになった映像なので、勇気がある方は予告編だけでも是非観て頂きたい)。


***


前半は所謂ホラー演出と凄惨なシーンがこれでもかという位続いていく(注:R15 指定)。
ホラーが苦手な当方は被っていた帽子をより目深にし、チベットスナギツネの様な半目で画面の隅を観ていた。
普通に怖いし夢に出てきそうだな…と途中退出が頭をよぎった位だ。

しかし、例の覚醒シーンから風向きが一気に変わる。


結末に関しては勿論記載する気はないが、覚醒したばあちゃんが放った有り難いお言葉をいくつか羅列したい。
尚、うろ覚えで記載しており正確な文言ではないかもしれないので、そこはご了承頂きたい。

「あれ(サユリ)に対抗する唯一の武器は何だと思う…生命力じゃ」
「よく食べよく寝てよく活きる」
「毎日走り外気に触れ、心の臓を動かす」
「命を濃くして立ち向かうぞ」


少年漫画の修行編の様だが、ホラー映画の文言である。


「内である事は外でもある」
「家はなるたけ綺麗にしろ 家の事を怠ったら承知せん」


修行編の生活パートのセリフの様だが、繰り返すがホラー映画の文言である。


最終的には

「笑え!」
「命無き邪悪な存在など笑って蹴散らせ!」


と爆笑するばあちゃん。頼もしいにも程がある。


ばあちゃんの教えの通り、主人公は命を濃くしていく。
「食べる」「寝る」にもう一つの欲求を加え、三大欲求を巡らせた彼が迎える結末は、是非自身で目撃して頂きたい。
(もう一つの欲求と書いたが、その様なシーンがある訳ではないので安心して頂きたい。寧ろ微笑ましい位であった。)

当方もばあちゃんの教えに則い、恐怖を感じつつ、どうにか笑いながら観続けていたが、途中ふと思った。
「ばあちゃんが則雄に叩き込んでいる信条、うつにならない為にめちゃくちゃ大事な事なのでは?」
と。


勿論、うつは誘引となるストレスや生来の心身状況、抗えない環境変化等、様々な要素が組み合わさり発症する。それは重々理解している。
加えて、所謂「甘え」からくるものでもないということも、無論理解している。

しかし、ばあちゃんの言う「命を濃くする」極意は、決して「サユリ」という怨霊だけに通ずるものではないと思うのだ。
劇中にもあったが、世の中は理不尽。生きている人間達も、一部は魑魅魍魎である。
よく寝てよく食べよく活きて、運動して心の臓を動かす。家を綺麗にし、内と外を整える。そして、笑って邪悪な存在を蹴散らす。
これは、呪われていても呪われていなくても関係ない。
健やかに生きる為の極意だ。

勿論そんな理不尽さや魑魅魍魎から、なるべく身を遠ざけるのが何より大事、とは思うのだが。
呪いも然り。


ホラー映画を観に行った筈だったが、勇気を貰って映画館を後にした。
先にも後にも経験できないであろう、初めての経験であった。
「ばあちゃんはとんでもない事を教えてくれました。それは理不尽な世の中に立ち向かう極意です」と心の中の銭形刑事も言っていた。


ばあちゃんありがとう。
まだ先ではあるけど復職の話がぼんやり出始めた事だし、それまで(無理しない程度に)命を濃くしたいと思います。

元気溌剌!(以下略


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