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”バズらせる”は時代遅れ

「バズらせるコンテンツ」というのが一時期、デジタルマーケティングで流行りました。

そもそも「”バズらせる”という発想そのものが古くなっているのではないか?」というと言い過ぎかもしれませんが、最近になり、”バズらせる”という発想自体が見破られるようになってきているように見えます。

私の本業は、コンバージョンを最適化するサービス「Sprocket(スプロケット)」を運営する会社のCEOですが、常にユーザー行動の変化の早さを感じています。

今回は、”バズらせる”ことへの消費者の変化を感じた事例を取り上げ、その先にある新たなトレンドについて解説したいと思います。

まず挙げたい事例は、年始のブログでも取り上げた「マリトッツォ」は、「2021年ヒット商品ベスト30」の6位にランキングされたローマ発のシンプルスイーツです。

そのヒットの要因となったのは、マリトッツォそのものよりも、SNSで盛り上がった「○○トッツォ」というSNS大喜利でした(太字は筆者、以下同)。

人気が一過性で終わらずに一大ブームへと膨らんだのは、消費者が驚きを込めて“魔改造”と評するほど、アレンジの程度が大きくなっていったから。パンをメロンパンなどに替えるのはまだ軽微な部類で、パンや生クリームとは全く違う食材で作るところも現れた。「次はどんな姿で出てくるのか」と、消費者の期待は高まった。魔改造の象徴的な例が寿司の持ち帰り販売店、古市庵の「すしトッツォ(まぐろ)」だ。シャリと海苔(のり)で漬けマグロなどを挟んでいて、マリトッツォとの共通点は中身の具がこんもりと挟まれている点にとどまる。それでも、「21年9月に期間限定で発売したところ、売り上げ全体に占める割合は金額ベースで従来比約30倍」(古市庵)と好調。当面は販売を続ける予定だ。「マリトッツォ」という言葉の響きの良さも手伝って、「店は自由にアレンジしたものに『○○トッツォ』と名付けて、消費者もその目新しさを喜んで受け入れた」(ぐるなび)といえる。

空前のマリトッツォブームはなぜ起きたか 簡単アレンジで祭りに|日経クロストレンド

肉トッツォ、どらやきトッツォ、すしトッツォ──SNS上では、さまざまな「○○トッツォ」が登場し、さらに企業がブームに乗っかる形で商品を展開し、大きな盛り上がりを見せました。

似た事例として、伊藤園「お~いお茶 濃い茶」のSNS大喜利があります。きっかけは、商品パッケージをリニューアルしたときに付けた「体脂肪を減らす」と書かれたシールです。その盛り上がりを取材した記事では、次のように説明されています。

 リニューアル直後の19年8月、一般ユーザーの上げた投稿が、7万5000件を超える「いいね」を獲得した。投稿の内容は、ハンバーガーやラーメンなど脂質の高い商品に、この濃い茶に付いているシールを貼り、自分の食事が体脂肪を減らすかのように見せたもの。商品とは直接関係ないものの、このユーモラスなツイートがバズったことで、「濃いお茶は体脂肪を減らす」というイメージが浸透した。一部のユーザーからは、濃い茶のシールは、高カロリーなものを食べる際に罪悪感を減らす「免罪符シール」とも呼ばれているそうだ。

お~いお茶 濃い茶、中身変えずに29カ月連続で前年同月比増|日経クロストレンド

マリトッツォ、伊藤園「お~いお茶 濃い茶」のいずれの事例も、企業側がマーケティングとして”バズらせる”という意図をもってやったわけではありません。自然発生的にユーザーがSNSで勝手に盛り上がったというものです。

カップヌードルがNo.1エンゲージメントを獲得

こうしたSNSでの盛り上がりをうまく促したのが日清食品「カップヌードル」の施策かもしれません。公式Twitterアカウントが発信した「チベットスナギツネ」のメッセージは、約9万件のリツイートと約25万件のいいねを記録しました。同施策は、「2021年国内広告・PR施策のエンゲージメント数ランキングTOP10」で第一位となりました。

記事では、次のようなSNS投稿の裏側を明かしています。ポイントは、「バズらせる」ための施策ではなく、あくまで一連の仕掛けをユーザーの発見に委ねているところです。

実はTwitterへの投稿を担当している宣伝部がこの施策を知ったのは世に出るわずか数週間前。しかもメディア向けのプレスリリースではフタ止めシールの廃止によって年間33トンのプラスチック原料を削減できることなど環境問題への取り組みとして紹介されており、フタ裏のイラストには一切触れられていない。つまり、この仕掛けが消費者の間で話題化するかどうかは宣伝部に委ねられたというわけだ。
(中略)
発表と同時にツイートでフタ裏のイラストを面白おかしく伝えるのかと思いきや、全く触れていないのだ。しかも、いずれのツイートも至って真面目な内容になっている。そして、同社が冒頭の「遭遇率は6%」のツイートを発信したのは約2カ月後。なぜこれほどの間が空いているのか。そのヒントは、冒頭のツイート自体にあった。

 「すでに発見された方も多いですが、こちら『チベットスナギツネ』といいまして、遭遇率は6%となっております」

 多くのユーザーが自ら発見したことを確認してからツイートしたのだ。

日清「チベットスナギツネ」ツイートの内幕 遭遇率6%を“衝撃化”|日経クロストレンド

マリトッツォ、お~いお茶 濃い茶、カップヌードル。これらの事例に共通するのは、企業が発信した情報消費の仕方がユーザー(顧客)に委ねられているところにあります。

ユーザー(顧客)からすれば、ある種の「祭り」に参加する感覚、あるいは「遊び」に参加する面白さがあります。

これまでは「マーケティングコミュニケーション」と呼ぶように、マーケティングとコミュニケーションは一つの取り組みとして扱うことが通例でした。しかし、現在は企業が主役のテレビCMなどの影響力が相対的に弱まりました。

その代わりに広まりつつあるのがSNSというネット世界の「場」です。ユーザーが主体となりSNSのような「場」で行われる「祭り」や「遊び」などが広まれば、コミュニケーションはマーケティングの主要素から外れていくのかもしれません。

多くのユーザーを巻き込めるような「場」を意図的に設計・運用することが、マーケターの役割として求められるようになる。そんな変化がこれから起きてくるのではないかと考えています。

「マーケティングバース」ではユーザーが主体となる

「メタバース(metaverse)」という言葉がバズワードとなりました。2021年10月、Facebookが社名をMeta Platforms、通称「Meta」に変更することを発表して以降、大きな盛り上がりを見せています。

メタバースという言葉は、アメリカの作家ニール・スティーヴンスンの小説『スノウ・クラッシュ』の中で初めて使われました。「メタ」(meta=概念を超える、上位概念を指し示す)と「ユニバース」(universe=宇宙)を組み合わせた造語です。

ここまでマリトッツォ、伊藤園「お~いお茶 濃い茶」、日清食品「カップヌードル」の事例を紹介しました。「メタバース」という言葉を借りるならば、ユーザーが主体となりSNSのような「場」で行われる「祭り」や「遊び」は「マーケティングバース(Marketingverse)」と呼ぶべき一つの世界となりつつあります。

これまでのマスコミュニケーションのような一方的なメッセージ発信ではありません。企業はSNSやメタバースという「場」における参加者の一人として、他のユーザーと並列に存在しています。図にすると次のとおりです。

「バース(Verse)」の意味するところは、「ユーザーにとって自由度の高い場が用意されていて、そこで何をするかはユーザーに任されている」という点にあると考えています。(※なお、本稿ではメタバースを"3次元空間"とは定義しません)

マーケティングバースにおいて、”バズらせる”などの企業の意図は逆効果です。「場」に必要なのは、①ユーザーが遊べること②他のユーザに対して遊んでいることを発信したくなること、の2つです。ユーザーの創造性が発揮できるような「場」になっていれば、さらに効果的でしょう。ここにおいてマーケターの役割は、そのような「場」を上手く運営・改善していくことになるでしょう。

マーケティング活動が「コミュニケーションを設計すること」から、「マーケティングバースという祭りや遊びの『場』を設計・運用すること」に変わっていくのではないか?

今回取り上げたマリトッツォ、伊藤園「お~いお茶 濃い茶」、日清食品「カップヌードル」などのデジタルマーケティングの最新事例から、そんなことを考えました。

みなさんは、”バズらせる”という発想は「時代遅れ」だと思いますか?

あとがき

あらためまして、私はユーザーの行動からコンバージョンを最適化するサービス「Sprocket(スプロケット)」を提供する会社を経営しています。

普段からデジタルマーケティングやCVR最適化の最新情報を追っていますが、今まで登場したマーケティングの概念では説明しにくいことが多くなっているように思います。今回は、その新潮流を「マーケティングバース」という新たな言葉・コンセプトに集約してみましたが、いかがでしたでしょうか。

引き続き、デジタルマーケティングに関する最新情報はTwitterなどで発信しておりますので、よろしければTwitterもご覧ください。長文となりましたが、ここまでお読みいただき大変にありがとうございました。

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