短歌ほめほめ

何となく人の短歌を褒めたくなったのでやりま〜す

星色のインクが欲しい。飲み干せば冷たく燃える星になれそうな。

西見伶

星色のインクという造語がきれいですね。それを使って何かを描くのかと思いきや「飲み干す」と来る。意外な展開が面白い一首です。飲み干した結果どうなるのかというと、「冷たく燃える星になれそう」。これもまた面白いですね。「冷たく」と「燃える」は一見すると兼ね合わない言葉のように感じますが、星というものには確かに冷たい感覚を持ちますし、でも(恒星なら)燃えているわけで、冷たく燃えるの表現も的を射ているわけです。
そしてこの歌は倒置法によって成り立っています。先に「星色のインクが欲しい」と言い切るところでグッと掴まれるわけですね。「ほし」の韻もリズミカルで良いです。

細くあめ さわさわ肩に触れてから告白みたいな逗留をする

雨宮琴陽

細くあめ が提示され、初句で切れています。細い雨ではなく「細くあめ」であることがポイントだと思いました。「細くあめ(が〜〜)」降っているのか、別の何かなのかはわかりませんが、何かしらの動作を一字空けが想起させます。そのあと、「さわさわ肩に触れ」るんですね、雨が肩に落ちることをそのように表現することの面白さを感じます。その後、「告白みたいな逗留をする」んですね、逗留とは「旅先で、ある期間とどまること。滞在。」とあります。告白みたいな逗留、とても素敵だと思いませんか。「さわさわ」「肩」「から」とaの韻を踏んでいるのも良いと思いました。

世田谷はきみの街だよ 穏やかな空気が今は染みて痛いけど

楠木かな

世田谷といえば治安のいい穏やかな街の印象があります。「世田谷はきみの街だよ」のきみの街、というのは例えば引っ越してきてしばらくたった頃、みたいなイメージでしょうか。この歌も倒置法で作られていますね。主体が「だよ」と言い切っているところが素敵です。しかし「空気が『今は』染みて痛い」とありますね。かつては痛くなかったわけです。つまり、主体と「きみ」との間に何かあったと推測されます。何があったのかまでは語らずとも、方向性を示唆できている点がお上手だなと思います。

宛先に二度と入れないメルアドさ、予測変換でなら飼っていい?

又ぺるぷ

二度と入れないメルアドだったり、誰かの名前だったり、そういったものが予測変換に残っている光景を上手に想像させてくれる短歌だなと思いました。また、「予測変換でなら飼っていい?」という表現も独自のもので良いなあと思います。シンプルな口語で作られたわかりやすい短歌ながらも、「予測変換で飼う」という、ちょっとした狂気も孕んだ良い歌です。

真っ直ぐに進めないってとこ以外、君はほとんど光だったよ

真ん中

カニか!?カニの話か!?と一瞬思いましたがカニはほとんど光ではないと思われるのでおそらく違うでしょう。「君」は「真っ直ぐに進めない」けれどそれ以外は「ほとんど光だった」。主体にとって君は光のような存在なのでしょう。光、希望と言い換えてもいいでしょうか、である「君」が紆余曲折してしまっているところが想像できて好きな点です。
光って反射しない限り真っ直ぐ進むはずなんですよね、しかし「ほとんど光」な「君」は真っ直ぐ進めない。そんな光景が面白いなと思いました。

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