「みんなが自分のため」にせめぎ合った先にある面白さ。『どうでしょう』から考える、面白さの作り方。
他人には絶対に真似できない、ミスターのダジャレのおかしさ。
たられば:
よろしくお願いします。
藤村:
よろしくお願いします。
(拍手)
たられば:
僕は普段は、編集者をやっています。Webサイトの記事なんかも作っておりますので、今日は藤村さんにインタビューをして、そこからいっそ本を作るぐらいの勢いで語っていただければと思います。決めたテーマが、「面白さを作るのに必要なこと」です。皆さんも「自分が面白かったらいいな」と思うことあるじゃないですか。
なかなかテレビ番組だとか、Webサイトを作る機会はないと思うんですけど、ちょっとした冗談だとか、メールだとか、面白いシチュエーションを作るために必要なものは何なのかというヒントをですね、僕が知るかぎり一番面白いものを作れる人に聞く機会があるぞと気付いて。
藤村:
その「面白い」っていう意味合いとしては、笑えるとか、そういうことだけではなくて、一般的にいえば、例えば、みんなでちょっとしたご飯会でも開こうでもいいし、何人かでどっか出掛けようでもいいし。その時に面白いっていう、どうやったら面白くなるかっていうか、そんなことですよね。
たられば:
そうですね。そんなことです。
藤村:
それは単に笑ったとかいうことじゃなくて、非常に記憶に残ったっていうことだよね。
たられば:
そうですね。たぶん大事な人に手紙を書く時とかも、ちょっと面白いこと入れたいなとか思うんですよね。
藤村:
なるほどなるほど。アメリカンジョークとかではないですね。
たられば:
違います。
藤村:
それを勘違いしちゃってね。ちょっとしたジョーク入れなきゃダメだみたいにね。
たられば:
そうですね。
藤村:
あれスベりますからね。たいがいスベりますから。ウチのところでミスター水曜どうでしょう・鈴井貴之さんが、じゃあ面白いこと言ってくれっていって、ダジャレをやらせて今までウケたためしがないんですね。
たられば:
そうですね。
藤村:
あれは180度回って面白いんですよ。ミスターさんのダジャレだけここで連発されても、皆さん絶対、冷ややかな笑いになりますよ。笑い的にはそれぐらいです。これを、「ははは」って笑ってる人と、それを必死に考えるミスターっていう状況を含めると、外の方で大爆笑が起きてるわけですよね。
たられば:
あれ、やっぱり必死に考えてるんですね。
藤村:
必死に考えてるんですよ。
たられば:
必死が面白いと。
藤村:
だからそういう意味では状況として、面白いという。ダジャレはひとつも笑えないけどっていうことはありますよね。
たられば:
なるほど。一所懸命考えて出てきたものが、結果、スベるところまで行く。
藤村:
スベるところが面白いっていうね。こっちも、そういう期待なんか誰もしちゃいないっていう。ただ当人は笑わせようとはしてますよ。それが大事なんですよね。
たられば:
本人だけは、一周回っちゃダメなんですね。
藤村:
本人は後悔ですね。一周回るっていうことは。「言うんじゃなかった……」って、後悔したミスターの顔まで含めての笑いです。
たられば:
毎回、次こそ笑わせてやろうと思って考えてるんですか?
藤村:
考えてますよ、あの人。そこら辺は逆に面白いですよね。あんだけ全員が「ははは」っていう苦笑いでやってるのに、「よし次こそは」みたいな。
たられば:
繰り出しても、繰り出しても。
藤村:
ただ、その代わりあの人が強いのは、ダジャレを連発できますからね。
たられば:
連発しますよね。スベってもスベっても立ち上がる。
藤村:
ああいうのを連発でやられると、人ってちっちゃいパンチでもずっと打たれてると、こっちもダメージ食らってくるんです。
たられば:
笑わざるを得ないっていう。
藤村:
そうですね。そういうところがミスターさんのダジャレ。
たられば:
なかなかミスターさんの笑いを一般の方でやってみろっていうのも酷な話ですけど。
藤村:
やっぱりそこを勘違いしちゃいけないってことですよね、皆さんはね。
たられば:
そうですね。
藤村:
例えばこういうところで、笑いをテーマに「皆さん笑わしてみましょう」なんて言って、先生かなんかが、「例えばこんな時の話題には、こんなふうに切り返す」みたいなのやるじゃないですか。やってごらんなさい、大失敗しますから。それが笑いの講座ではないんですよね、きっとね。
たられば:
なるほど、面白いですね。要するに単発のセリフだとか、その単発のフレーズで笑わせようとするんじゃなくて、もうちょっと深い話がこれから繰り出されるということですね。
藤村:
そういうことです。
西表島のガイドは、本当はロビンソンではなかった?
たられば:
楽しくなってきました。さてでは、まず最初に用意してきた質問なのですが、おそらく『水どう』ファンは聞きたいだろうと思うことから。『水曜どうでしょう』シリーズで藤村さんが一番面白いと思うシリーズは何ですか?
藤村:
それぞれに味わい深いものがあるんですけど、これは何度か言ってますけども「激闘! 西表島」が何回見ても面白いなっていう。最初から最後まで面白いと思いますよ。
たられば:
それはシチュエーションの勝利ですか? キャラクターの勝利とか設定の勝利とかいろいろあると思いますけど。
藤村:
そういう意味でいうと状況ですよね。最初はスペインに牛を追いに行くっていう壮大な状況設定があって、それで大泉くんが打ち震えながら、「そうか、いよいよやるか」っていう、そういう状況。あれも状況としても面白いんじゃないですかね。
でも面白いことなんか一言も言ってないんです。笑えるようなことなんて別に言ってない。「これは緊張するなぁ、よーし」なんつって。「うおぉ」なんてやってるじゃない? あれ、我々からすると面白くてしょうがないわけですよ。「こいつ虫を追うのに何を震えてんだ」って思うわけじゃないですか。それで企画を発表して、「虫……?」なんて言って。
たられば:
牛の予定が虫に。
藤村:
そうそう。それで「虫追い」なんて言って。大泉さんも本当に「拍子抜けっていうのは、ああいう顔を言うんだな」っていう。どこに何を求めていいのかわからないっていう顔があるじゃないですか。あれ彼、別に面白いこと何も言ってないですよ。
状況として今まで「牛を追って、なんなら多少ケガくらいしてやろうじゃないか」くらいに思っていたら、「虫を追います」って言った瞬間に、彼の魂は抜けたと思うんですね、一回。
たられば:
それは、計算していたんですか?
藤村:
それは計算というか、そういう状況になるために、わざわざクワガタの角を牛に似せてとかやっているわけです。
たられば:
なるほど。「これはあいつ、魂抜けるな」と。
藤村:
「牛だと思いました」「いや、クワガタです」って言うと、やっぱり別に笑うでもなく、僕らもそれで爆笑をとるつもりでやってるわけじゃないんです。ボケとかツッコミじゃなくて、そいつの魂を一個一個抜いていくっていう作業。大泉くんはあんな拍子抜けする企画発表に対してツッコむ気力もなくなっていたはずで。
これが逆に、お笑い芸人の方だったら、「そういうのも何とか拾ってかなきゃいけない」と思っていますから、「いや、そんなこれ、牛の角だと思うじゃないですか、クワガタだと思いませんでしたよぉ」って言っちゃうと思うんですよ。でもそれはあまり期待はしてないし、そんなことやったって寒いだけだって思っている。だから大泉くんの対応は正しいですよね。牛とかクワガタとかいうよりも、ひたすら「虫……なのか?」っていうように、そんな小ネタなんかどうでもいいっていう彼の態度みたいなね。
たられば:
そこで、全力でがっかりさせてやろうと。
藤村:
がっかりっていうか、本当あれは「あらかた魂抜いてやろう」っていう姿勢です。人を一回地に落とすためにはどうしたらいいのかっていうね。
たられば:
そういうことを考えてるんですね。
藤村:
それで「虫だ」って言って、僕らも本気にカブトムシとかクワガタとか捕りたかったんですよ。
当時『ムシキング』が流行ってて、『ムシキング』はゲーム上でやってるけど、実際に「鈴井さん、オレのクワガタと戦わせましょう」なんて話してたんです。「それは楽しいなぁ」「昼間になったら、やっぱり昼寝でもしましょうかぁ」つって。「大人の夏休み」っていうコンセプトだったの、僕らの中ではね。
たられば:
最初は。行く前は。
藤村:
そうそう。最初、行く前はそれでいいだろうと。波の音でも聞きながらなんて言ってた。西表は『水曜どうでしょう』レギュラー放送終わってからのやつなんで、なるべくどうやって力を抜いたらいいだろうっていうことを考えてはいたんですよね。
で、行ってみたら、「ロビンソン」っていうおかしなおじさんが、またおかしなことを言ってずいぶん盛り上がっちゃった。着いて話すなり「虫は面白くねえ」って言い出して、「他の面白いもの」をどんどん紹介してくる。そしたら状況的に、「このおやじが面白いって言ってんだから、おやじに責任全部なすりつけりゃいいんだ」って。
会場:(笑)
藤村:
おやじは「面白い」って言ってんだからって。普通、提案者って真摯な態度で提案するじゃないですか。「こうした方がいいですよ、ああした方がいいですよ」って言う。
でも一応こっちもテレビのロケだし、昆虫採集したいっていう話でオファーをしている中で、でもロビンソンが「自分は昆虫採集でももちろんいいんだけれども、でっかいウナギとか捕る方が面白いよ」って言った時に、テレビ側があっさり目的を変更するとは彼自身もあんまり思ってなかったはずなんですよ。
たられば:
ロビンソンも。
藤村:
ロビンソンさんも。普通の人間はそうなんですよ。
たられば:
そうでしょうね。
藤村:
あれがフラっと観光に来たお客さん相手だったら、「こういうのあるよ」とか言える。でも曲がりなりにもテレビ局の取材でしょ。その時にロビンソンはガイドとして、こういう面白いものありますよっていう提案をしたわけですよね。
で、提案をした中で、ディレクター陣が「それはいいですね。虫のことは忘れて全部そっちやりましょう」とか言ったら、やっぱり彼も今度は、針のむしろの上に置かれるわけですよ。よかれと思って提案したのに、「テレビのやつら全部乗っかってきたな、これ」って。
たられば:
それは、藤村さんとしては「よし、次はこいつ(ロビンソン)を針のむしろに乗せてやろう」と思うわけですか。
藤村:
乗せてやろうというか、こいつに全部責任おっかぶせてやろうと思って。
会場:(笑)
たられば:
おそろしい……。
藤村:
そうするとロビンソンはもう死に物狂いでね。自分で言っちゃったもんだから、絶対楽しませなきゃいけないという非常に強い使命感を持った。あの時点でおかしな歯車が回りはじめたんですよね。
たられば:
ちょっといいですか。ロビンソンさんには事前にアポを取ってたんですか?
藤村:
取ってないですよ。
たられば:
え……。
藤村:
旅行会社を通して「ガイドさん誰かお願いします」っていう話はしていて、本当は最初、物静かなガイドさんを当ててくれてたんです。
で、僕は別にそれでもいいんですけど、その物静かなガイドさんはウチの番組を事前に見て、「これはダメだ」と。「私には太刀打ちできない」ということで、面白いおやじがいるんで、ロビンソンさんをと。ガイドさんで仕事回したらしいです。
会場:(笑)
藤村:
ロビンソンもさ、うかつだから「どうせ大したことないよ」なんて言って。それまでも、何回も別のテレビ局が取材に来たらしいんですけど、勢い込んで取材させたところで、向こうは四角四面に事前に全部決めてるし。ガイドったって案内して、あとはアテンドするだけの話だったんですって。
それで実際放送してみたら、せっかく大きいテレビ局でやったのに、沢山人が来るかなと思ってたらほとんど来なくて、「番組を観て来ました」なんて人はひとりもいないという時点で、ロビンソンは確かにテレビを甘く見てたのかもしれない。まさか北海道のローカル番組で映したら、台風のごとくお客さんが来るなんて……。
たられば:
ロビンソン、一躍スターになりましたからね。
藤村:
藩士が大挙して押し寄せて、「いいからコンクリの港で寝させろ」とか、わけのわかんないことを言うやつが大挙して毎年来るようになっちゃって。
会場:(笑)
藤村:
でも当初、そうは思ってなかったんで、ロビンソンは軽い気持ちやってたんでしょう。大きいウナギがいるとか、「最近オレ、こういう網作ったんだなんて言って、これで魚向こうから追ってやるんだ」って。「お、それ面白いな、よし、全部こいつに責任おっかぶせよう」と。で、まぁ僕ら盛り上がってて、その時点で状況ががらりと変わるわけですよね。
面白さを作るためにする準備は、崩れることが前提。
たられば:
今日を通したテーマのひとつなんですけど、「準備をするかどうか」という話を聞きたかったんです。面白いものを作る時に準備をするのか。準備するんだったら、どこまでどんな準備するのかっていう。『水曜どうでしょう』のロケを見ると、準備してるのかしてないのか、よくわからないんですね。
藤村:
面白いための準備っていうことでいうと、例えば、街ブラの企画にしても、面白いおばさんを捕まえてくるとか、この人だったら盛り上がるでしょうみたいなおばさんを置いとくとか、そういうことが考えられるでしょうけど、我々はもちろんそんなことしないですね。
我々の準備っていうのは基本的に「行程を決める」。それはわりと真面目にやってますよ。飛行機から何からね。特にヨーロッパに行くとか、カブでどっか行くとかなったら、もちろんルートは全部決めてます。決めてるし、一応の計算はしますよね。このぐらいのところで宿はここ、とか。でも、それは基本的に崩れる前提の準備っていう。
たられば:
く、崩れる前提の準備。
藤村:
そうそう。「準備した通りにやる」っていうことに、どうしても意味を見いだせないというか。
だって、一日一日行程が決められてて、その計画通りに行ったんであれば、僕なんか逆に「それどこが面白いの」って思っちゃうから。それが崩れる瞬間であるとか、崩れてもそれを何とかリカバーしようっていうことが面白さになってくるわけじゃないですか。
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