フェイクスピアを観てきた。

高橋一生が主演、脇を固めるのが白石加代子、橋爪功、村岡希美、川平慈英、伊原剛志、前田敦子。もちろん野田秀樹もキャストとして出演する。久しぶりの野田地図の新作、NODA・MAP 第24回公演。東京芸術劇場(芸劇)のプレイハウス。

私が事前にインプットした情報としては、

・フェイクスピアと言ってもシェイクスピア作品のオマージュではない

・野田秀樹が30年前に出会ったあるコトバの一群が舞台に放たれる

・不謹慎な題材、という指摘を受けている

・公演開始数日後、白石加代子が舞台上でセリフを完全に飛ばして台本持ちながら演じた回があった

という程度。そしてTwitterなどにあふれる絶賛のコメント。終幕が近づくと涙無くして観られないという内容、らしい。

いわゆるネタバレのレビューは一切読まずに観劇した。野田地図ではいつもそうしている。ただし、今回だけは、レビュー読んでから行けば良かったなぁと思った。あぁ失敗した。ついでに終演後のロビーに展示してあるはずの舞台パースを観てくるの忘れた。あぁなんてこった。

ということで、徐々に完全にネタバレになりますので、読みたくない方はお帰り下さい...。

1幕2時間

ロビーで人が密になることを避けるため、途中に休憩を入れなかった。そのためか、無理やり詰め込んだ2時間に感じた。彼らが若かったころ(夢の遊民社の時代)は休憩なし2時間半がデフォルトだったから、この長さに収めるのはちょっと無理したんだろうなぁ。きっと。

中盤。場面転換が無く、長いシーンが数カ所あった。演者はもちろんだけれど観客の集中力が要求されるシーン。照明は暗めで、いわゆるピンスポも照度を落としていたそんな中、「映画でスマホ」ならぬ「劇場でスマホ」問題が勃発。何人かがスマホの画面をつけて時間を確認しているではないか...

開演前、Cocoaを作動させるためにスマホの電源を切らずマナーモードにしろ、とアナウンスがあった。芸劇は携帯電波のジャミングがついているから着信音がすることは無い。が、画面を明るくすることを遮る装置では無い。

時間を気にするな、気になるなら腕時計しろ、スマホを見るな!

頼むわー。集中力切れるわ。

規制退場

終演後規制退場になる、というのは開演前のアナウンスで知った。けれどその方法があまりにも合理的で整然としていて、感動レベルだったので、敢えて、書く。

「ご退場ください」とプラカードを持ったスタッフが通路に立った。つまりその列より後ろの列の人は帰って良いという意味。アナウンスは一切ない。

終演直後でまだ余韻に浸りたいのはやまやまだが、順番に席を立つ必要がある。ここで急かされたらもっと後味が悪かったと思う。プラカード、有能。

女優・前田敦子

野田秀樹の舞台に立つ女優さんは、ハイトーンでロングトーンを強要されることが多い。今回ロングトーンは無かったように記憶しているけれど、ハイトーン絶叫系は、いつもの通り要求されていた。

AKBで口パクしていたアイドルが、あの声量を出せたことに、ただただ驚いた。人は何歳からでも成長できるのだな。

終演後にパンフレットを読んだら、ワークショップに参加できるだけで嬉しかった、まさかキャストに成れるなんて思っていなかった、という趣旨の記載があった。ワークショップで気に入ってもらえたということなのだろう。

野田地図にまた来て欲しい。そうでなくても、舞台女優として活躍して欲しい。

声が高くて一本調子で聞き取れない、と書いていた人がいたけれど、それこそ野田秀樹の演出だと思う。野田秀樹自身ができなくなった発声を前田敦子にやらせている(に違いない)、並び立つシーンもあったから。

なぜ、今、このテーマ?

閉塞した世の中で「頭を上げろ!」前を向いて歩け、そういいたいのはよくわかるのだけれど、このコロナ禍で、かつ東京五輪をやると言っているわけですよ。なぜこのテーマを今、舞台にする必要があったのか。野田地図正規公演として。もやもやする。いったい、なぜ。

「頭を下げろ!」

序盤。高橋一生演じるmonoが、白石加代子演じる皆来(みならい)アタイに対して、かなり唐突に「頭を下げろ!」と命令した。言われた方は土下座して謝罪するわけだけれど、その口調が。

最近高橋一生がテレビドラマ『天国と地獄』で演じた、綾瀬はるかと入れ替わったとき(ある意味女役)の口調を連想させて、ついでに、脳内で女性言葉に変換されてしまった。

つまり、「頭を下げて!」で、それってCAの「Heads down!」なわけだ。航空機の緊急事態の時の衝撃回避姿勢をとるよう乗客に命じる、あれ。

なぜ恐山のイタコのシーンで航空機が墜落するの? 911でビルに突っ込んだ飛行機の話でも始まるの? と思ってしまった。

実際には御巣鷹山の近くに墜落した日本航空123便墜落事故がモチーフだったわけだけれど。

初日開幕メッセージで野田秀樹が「久しぶりにストーリーを捨て置いたようなところがあるこの芝居」と書いている。ということは、つまり、最後のシーンで、ボイスレコーダーに残された言葉をそのまま舞台で再現することが目的で、着地点だけ決まっている舞台だということ(極論)。

制御不能になった機内で、機長は、途中から「頭を上げろ!」と言うようになる。副操縦士たちを鼓舞するためなのか、自分を勇気づけるためなのか。劇中では、息子に対するメッセージと言う位置づけになっている。でも、『表に出ろいっ!』とのつながりの方を連想してしまった。

星の王子様

誰もが知っているあの小説なのだけれど、実は私は読んだことが無い。機会が無かったから。良い機会だからすでに注文済みなのだけれど、これ、作者のサン=テグジュペリが小説家でありルポ作家であり飛行機の操縦士で、第二次大戦中に偵察機で出撃したところ、狙撃され墜落し戦死している。...ということを、観劇後に知った。

ついでに、この日航機の事故が、米軍の訓練機によるミサイル誤射が原因である説が、いまだに存在していることも知った。

整備不良や金属疲労による機体損傷で、垂直尾翼が無い状態で迷走していたこと、シミュレーターで再現したら、経験豊富な操縦士チームが、皆効かない操縦桿を操作して次々に墜落させていったこと、もしも機体損傷を認識できたとして海水着陸を試みたとしても、生還は不可能だったこと、なども検証されている。

作者が狙撃されて戦死したことよりも、『星の王子様』の原案となった体験(フランス-ベトナム間最短時間飛行記録に挑戦中、機体トラブルでサハラ砂漠に不時着し、徒歩で生還した)を重視しての引用なのかしら。

もう1度観たい?

前売券はほぼ完売している(平日夜なら若干発売中)。

無理して時間作ってまで立ち見で観る元気は、無いな。白石加代子の怪演はともかく、高橋一生の名演技は確かにもう一度観たいけれど。




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