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アニマルウェルフェアと奈良のシカ

国内最大の訪日外国人向けプライベートガイドツアー『Japan Guide Agency』を運営する、JGA株式会社 代表の藤原です。Japan Guide Agencyでは「あらゆる体験をすべての人に」をパーパス(目的・存在意義)に掲げ、全国で訪日外国人向けガイドツアーを開催しています。

奈良公園のシカはもはや野生動物といえないのではないか。

欧米圏で高まる動物福祉への配慮

近年特に欧米圏においてアニマルウェルフェア(動物福祉)に対しての配慮が強まっています。観光関連施設においても、動物の生態に配慮しない展示飼育を行っている動物園や、イルカショーやアシカショーを行っている水族館などは欧米系の旅行予約サイトではアニマルウェルフェアの観点から掲載がNGになっていたりします。

その一方で、動物とのふれあいを楽しみに来日する外国人旅行者は年々増加している。都内のフクロウカフェやうさぎカフェは常に賑わっているし、温泉猿で知られる長野の地獄谷野猿公苑もそのアクセスの悪さにも関わらず多くの観光客が毎年訪れています。シカで知られる奈良公園や宮島などは文化遺産よりも鹿とのふれあいを求めて来訪する旅行者も多いのが現状です。

観光資源としての野生動物たち

地獄谷野猿公苑の猿や奈良公園・宮島のシカたちが動物園の動物たちと異なるのは、それらが野生動物である点です。

水族館や動物園、動物カフェにおいて動物たちは完全に人間の飼育下におかれているため、アニマルウェルフェアの観点から飼育者の責任が問われるのは当然といえます。しかし野生動物のアニマルウェルフェアについては責任を負う自治体や組織が存在しません。

完全な野生動物であれば問題がないことも、野生動物でありながら、一定程度人間の手が介在しており、且つ観光資源としての役割を担ってしまっているところに難しさがあります。

いっそうの訪日外国人旅行者増加が見込まれる現在において、こうした野生動物の扱いを問題とする声が今後海外からあがってくる可能性にどう対処していくべきでしょうか。

奈良公園のシカは野生動物?

奈良公園に生息するシカは国の天然記念物に指定された野生動物であり、飼育動物でなく所有者もいない。奈良公園には常時1200~1300頭のシカがたむろして観光客を楽しませています。

これらシカたちの保護活動は現在、一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が主に担っており、日々巡回パトロールや負傷疾病鹿の救助、オス鹿の除角、妊娠・出産前後のメス鹿の一時保護などを行っています。また人に危害を加えたり、近隣の農作物を荒らしたりするなどしたシカは公園内で運営する保護施設「鹿苑」の特別柵内に収容・飼育されています。

「奈良の鹿愛護会」の運営は完全に民営ですが、予算は奈良県奈良市春日大社などが拠出しており、また加えて補助金のほかしかせんべいの売り上げやイベント、収入、そして寄付金などから成り立っています。

「奈良の鹿愛護会」では10人足らずの職員が24時間態勢で年間1千件超の出動に対応しており、奈良公園のシカは野生動物でありながら、こうした涙ぐましい保護活動のおかげで、観光資源として多くの観光客との間でぎりぎりの均衡を保って共生しているといえます。

奈良公園内は慢性的なエサ不足状態

しかし、そんな奈良公園内のシカたちは慢性的なエサ不足状態であり、その多くが栄養失調状態といわれています。一般に野生鹿の成獣オスの体重は50キロほどですが、奈良公園内のシカの体重は30キロ程度で体長も小さい。

奈良公園は、近鉄奈良駅のすぐ東側に広がる興福寺の敷地から春日大社、東大寺、それら神社仏閣背後の若草山、春日山などの森林地域を含む、東西4キロ、南北2キロ、全体の面積は660ヘクタールを超える日本最大の都市公園ですが、現在生息する1200-1300頭のシカの食料供給に十分ではありません。

奈良公園の中で育つ芝草生産量で生息可能なシカの頭数は約780頭といわれ、現在生息する500頭近くのシカたちにたいして、芝草以外の草木の量を含めても、慢性的にシカのエサが不足しているといわれています。

栄養状態が悪いが寿命は長い奈良のシカたち

奈良公園のシカといえば鹿せんべい。多くの鹿が人懐っこく近寄ってきて、鹿せんべいを差し出せばお辞儀をして食べていきます。エサ不足の奈良公園にあって、この鹿せんべいがシカたちの命をつないでいます。

鹿せんべいの材料は小麦粉と米ぬかであり、草のような植物性繊維は少なく、ミネラルなど栄養素も偏っています。鹿せんべいばかり食べることで鹿の栄養状態は悪化し、健康が損なわれる恐れがあります。実際、コロナ禍で観光客が減り、鹿せんべいを与えられなくなっていた期間はシカの健康状態が総じて良くなっていたようです。鹿せんべいによって腸内細菌のバランスを崩したシカがゆるいふんをするが、コロナの時期はゆるいふんがかなり減っていたそうです。

しかし、その栄養状態の悪化とは裏腹に、奈良公園内のシカの平均寿命は20年に達し、野生鹿に比べて不思議と長生きする傾向にあります。

奈良公園のシカは、山野の野生鹿と違ってハンターに追われることもなく、怪我や病気になると人が治療してくれます。妊娠鹿も保護され無事に出産するまで世話を見てくれます。公園内で観光客から与えられる鹿せんべいによって命をつなぐ最低限のエサの確保も容易です。

責任者不在の観光資源

アニマルウェルフェア(動物福祉)は飼育下にある動物を対象としたものであり野生動物に対しては適用されません。

人からエサをもらって食べるのが当たり前になり、慢性的に栄養状態が悪化したまま長生きする状態を野生と呼ぶのかはかなり疑わしいですが、野生動物である奈良公園のシカにはその飼育状態を監督するべき責任者は存在しないのが現実です。

長い歴史のなかで現在の均衡状態に落ち着いたことは理解できますが、この歪な共生関係が是正される時期がくるのはそう遠くないでしょう。観光資源として奈良公園のシカから恩恵を受けている限り、誰かがその責任を負う覚悟が近いうちに必要になるように思います。



参考書籍:


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社名:JGA株式会社
静岡県知事登録旅行業 第2-706号
本社:静岡県静岡市清水区江尻東2-67-3
設立:2013年
​資本金:1,000万円
代表取締役:藤原 一成

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