残酷な社会を生き延びるためのキャリア戦略は、どう考えればよいか?
・・・というタイトルの書籍を企画しました。
=== 書き出しここから
理科系の東大生たちに講演をする機会がありました。ユニークな経歴を持っていて、いくつかの IT ベンチャーでエンジニア・研究者の採用実務に携わってきた私には、「キャリア戦略」をテーマにした刺激的な講演を期待されていたので、喉も裂けよとばかりに自分のキャリア観を熱く語ったところ、講演後の質疑応答の時間に、一番前の列に座っていた真面目そうな学生からこう質問されました。
「コンサルに行ってから事業会社に行った方がいいでしょうか? 事業会社に行ってからコンサルに行った方がいいでしょうか?」
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この本は「最適なキャリアパスなんて存在しない」と、若者の幻想をぶった切るキャリアの解説書です。
なぜこんな夢のない本を書いたかというと、前途有望な若者ほど極端な理想を追いたがるから。万人に適用できる分かりやすい正解なんてそもそもこの世に存在しないのに、それを導くための模範的な解法を追いたがるなんて、無意味にもほどがある。
そんな無意味な願望をへし折るために、「身もふたもないけど本当のこと」を書きたかった。だから、この本を最後まで読んでも、キャリア構築のための明快なソリューションなんてどこにも出てきません。
それなら、この本を読むことに何の意味があるのか?
読者はキャリアに関する切実な課題を解決したくて本を手に取るはずなのに、ソリューションがないことを冒頭で宣言されたら、これ以上読み進める意味などないのでは?
確かにそうかもしれません。だから、分かりやすいソリューション(という幻想)を知りたい人は、「こうすればキャリアがうまく伸びる!」と鼻息の荒いビジネス書を読む方が、ずっと御利益が大きいでしょう。
幸いなことに、その手の本は書店にズラリと並んでいます。パラパラとページをめくると、
「自分の値段を把握しましょう」
「市場価値を意識しましょう」
「価値をあげるために希少なスキルを磨きましょう」
などなど……判で押したように同じことが書かれてあります。
もちろん、これらがすべて無意味とは言いません。こうした見方を持つことが大事な場面もあると思います。ただ、これを「模範的な解法」と考えることには慎重である方がいい。なぜなら、そんな当選確実の宝くじがあるなら、キャリアで悩む人など世の中にいないはずだからです。
でも、くよくよ悩んでいる人には、身もふたもない正論よりも、イージーな幻想を誰かから与えられる方が精神衛生上いいかもしれない。だから、もしそれを望んでいるなら、他のビジネス書を読んでください。この本を読んでもますます混乱するだけです。
さて、「確実なソリューションはない」という前提から出発すると、「こう考えればキャリアを伸ばせる確率が高まるはずだから、運が良ければ見通しよく仕事人生を送れる・・・・・・かもね」という漠然とした諦めを受け入れる準備が整います。もしそれを違和感なく受け入れられるなら、キャリアに対する見方も相当変わってくるでしょう。
そして、そういうふわっとした諦めを受け入れようとするアプローチを「戦略」と呼んでいいなら、この本には確かに「キャリア戦略」のことが書かれてあります。それも、残酷な事実を後ろ向きに見つめ直し、それでも社会をサバイブするための前向きな戦略のことが。
遠回りで、消極的で、歯切れが悪いことは百も承知しています。
でも、「後ろ向きに前向きな姿勢」を保つことが、長いキャリアを快適に過ごすためには重要だったりするのです。本当に、身もふたもないけれど。
===ここまで
どうですか? 読みたくなりませんか?
これを出版社に持ち込もうと考えていた時期がありました。書き出しだけを少し書いたままお蔵入りしていたのですが、ふと読み返して自画自賛、これがめっぽうおもしろい。ネットで反応が良ければ、これを心の糧にして本気で書き始めようと思いました。
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