なぜ外国人は職務質問を受けやすいのか?経験談を含めて元警察官が徹底解説
はじめまして、元警察官の藤田悠希と申します。
note初投稿となります。
私は都市部の県警で約8年間警察官として勤務し、警察人生のほとんどをパトカー勤務員として過ごしました。
パトカーに乗っていたときは重大事件の検挙、危険な現場への急行、職務質問、交通違反の取締りなど幅広い業務を行い、警察官として様々な経験を積んできました。
これまで自分の経験談などをブログやツイッターで発信してきましたが、これからはnoteでも情報を発信していこうと思っています。
noteではブログでは書かないような時事ネタや法律解説、警察官時代の裏話などを中心に投稿していく予定です。
是非今後ともよろしくお願い致します。
さて、今回は以前ツイッターでも話題になった警察官による外国人への職務質問について書きます。
このツイート及び記事を読んで、元警察官として「確かになぁ。なるほどなぁ」と思いました。
警察官が外国人に対して差別を行おうと考えることはありませんが、過剰な職務質問が差別と捉えられても仕方ない部分があります。
もちろん私自身も何度も外国人には職務質問をしたことがありますし、正当な業務としてやらなければいけない場合もあります。
差別をするつもりはまったくないんだけど、そう思われてしまうのが難しいところで、「外国人に職務質問をする」というのは意外とデリケートな問題なのです。
そこで今回は
・なぜ外国人は職務質問を受けやすいのか?
・外国人に職務質問をする理由は?
・実際に警察官時代はどうだったのか?
などを紹介し、外国人への職務質問について解説していきます。
なお、この記事は外国人への差別を表するものではありませんし、警察の業務を批判するものでもありません。あくまで私の経験談を含めた話ですので、その点に留意してお読みください。
そもそも職務質問ってなに?
職務質問は一般的にも広く知られていることですが、みなさんは職務質問についてどこまでご存知でしょうか。
職務質問というのはパトロールをしている警察官が街行く人たちを見分け、声をかけることによって未然に犯罪を防止するものです。
薬物使用者を検挙する警察24時をイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。
その職務質問は警察官職務執行法という法律に規定された警察官の正当業務なのですが、「できること」と「できないこと」がはっきりしています。
職務質問に関する詳しいことはまた別の記事で書きますので、今回は職務質問についてわかりやすい表現でざっくり解説します。
職務質問とは警察官職務執行法第2条という法律に規定されているのですが、この法律の条文をわかりやすく表現すると
警察官から見て、変な動きをしている人やその場に似合わない人がいたら声をかけてもいいですよ。声をかけるときには動いている相手を停止させても大丈夫です。承諾を得れば所持品も確認できます。場合によっては任意同行をすることもできます。だけど、あくまですべて任意だから気を付けてね。
という感じで、警察官はこの法律を根拠に職務質問が行えるわけです。
基本的に職務質問は変な動きやその場に似合わない人などの要件が必要になってくるので、"誰でもいいから職務質問をする"ということはできません。
要件の一例ですが、薬物の影響でフラフラしている人や警察官を見て顔をそらす人などはとても怪しく、変な動きをしていると言えますので、職務質問の要件に当てはまります。
なので、原則としては「外国人だから」という理由で職務質問をするのは合理的ではありませんし、要件に該当しません。
警察官だからといって無限に職務質問ができるわけではないことは意外と知られていないのではないでしょうか。
「じゃあ要件に当てはまらない人には警察官は声をかけられないの?みんながみんな怪しい動きをしているわけじゃないでしょ?」と思われるかもしれませんね。
実は警察官が声をかけるのは職務質問だけではありません。
職務質問という手法を使わなくても市民に声をかけることは可能です。
詳細に解説するとかなり長くなってしまうので、職務質問については別の記事で詳しく解説したいと思います。
なぜ外国人は職務質問を受けやすい?
では早速本題ですが、なぜ外国人は職務質問を受けやすいのか?
最初に言っておくと、"外国人だから職務質問を受ける回数が多い"というのは結構事実だと思います。
「外国人だから怪しい」「外国人だから危ないものを持っていそう」ということではなく、外国人が職務質問を受けやすいのは単純に警察官が声をかけやすいからです。
それは日本で中・長期間生活する外国人は必ず在留カードというものを所持していなければいけないというところに起因します。
↑出入国管理庁のHPより引用
この在留カードは
・氏名、住所、生年月日
・日本に在留する資格
・在留期限
などが記載されており、中・長期間日本に滞在する外国人は必ず所持・携帯していなければいけないものです。
たとえ家の近くのコンビニに行くだけでも所持していなければいけません。
外国人からすると少し面倒なことですが、身分を証明するために必ず所持しておく必要があります。
そして、この在留カードの在留期限が切れると不法滞在(オーバーステイ)ということになり、違法な状態で日本に滞在していることになります。
この不法滞在はもちろん法律違反であり、警察官が発見すれば逮捕することになるので、警察官が外国人によく職務質問をする理由はこの在留期限を確認するためというところがかなり大きいです。(もちろん理由はこれだけではありません)
実際、不法滞在で逮捕される外国人は多く、中には「10年以上在留期限が切れていた」というケースもありました。(よく見つからずに生活できたなぁと感心したほどです)
警察官としては在留期限が切れている外国人を見つけたら逮捕しなければいけないので、外国人に職務質問をする際は必ず在留カードを確認します。
警察官からすると「在留カードを確認する」という大義名分がありますので、日本人と違って外国人の方が職務質問しやすいのは間違いありません。
もちろん中には薬物を売買している密売グループの外国人もいますので、そういう観点で職務質問をすることもあります。
在留カードがすべてではありませんが、外国人にとっては在留カードの存在が職務質問を受けやすい大きな理由の1つになっていると言えるでしょう。
ただし、繰り返しになりますが「外国人だから」という理由だけで職務質問をするのは職務質問のルール違反になるので、いいことではありません。
厳密に言えば違法なのですが、それくらいのことで裁判になることがないので、職務質問のルールに関しては警察官側もあまり気にしていないのが現実です。
在留カードの確認は要件に当てはまる?
冒頭で職務質問について「誰にでも声をかけられるわけではない」「要件がないと職務質問はできない」と解説しました。
では、在留カードを確認するために外国人に声をかけるというのは職務質問の要件に当てはまるのか?変な動きをしていない外国人にでも職務質問できるのか?という疑問が出てきます。
普通に歩いている外国人なら怪しいところはないし、職務質問の要件には当てはまらないはずなので、在留カードの確認目的で職務質問をするのは違法ではないのか?と考えられます。
実際のところ、これはかなり難しい問題です。
厳密に言えば、普通に歩いていてなにも怪しくない外国人に職務質問をするのは違法な職務質問に該当するかもしれません。
職務質問の要件がない相手には職務質問ができないからです。
では、職務質問の「不審者」という要件に該当しないと警察官は職務質問をすることが一切できないのか?というと、もちろんそんなことはありません。
職務質問の要件を満たさなくても警察官は市民に声をかけることが可能です。
それは職務質問ではなく、防犯パトロールのための声かけというものです。
これなら、なにも怪しくない外国人に声をかけること自体はまったく問題ありません。
この防犯パトロールのための声かけというのは警察法2条という法律が根拠になっています。
警察法2条には警察官のやるべきこと(警察の責務)が規定されているのですが、その中には
警察官は犯罪の予防や秩序の維持に取り組んでね。そういうことが警察官の役目だからね。
と書いてあります。
つまり、警察官は犯罪の予防や秩序の維持のために市民に声をかけるということが可能であると考えられており、これは職務質問とは明確に異なります。
※警察法2条を使った声かけが完全に合法であるという判例は恐らくないと思いますが、警察官の職務としては問題ないと思われます。なので、警察法2条を使った声かけは職務質問とは明確に区別する必要があります。
わかりやすく比較すると
・見た目からして怪しい人→職務質問
・怪しくないけど声をかけたい人→警察法2条を根拠にした声かけ
という形になります。
ですので、警察官が市民に声をかける=すべてが職務質問ではないということを覚えておいてください。
警察法2条を使えば、「在留カードの期限が切れると犯罪になってしまいます。気を付けてくださいね」と外国人に声をかけることができ、違法にもなりません。
警察官がこのような声のかけ方ができれば問題はないですし、外国人からしても不快な思いは少ないでしょう。
それでも警察法2条の声かけは職務質問ではありませんので、所持品の確認はできません。
よって、「持ち物を見せてください」「在留カードを見せてください」というところまでは言えないものです。
もし、ここで外国人が驚いた表情をするようであれば不審な動きにあたりますので、そこから職務質問を開始し、所持品の確認を求めることは可能です。
つまり、最初は防犯パトロールの声かけ→相手が少しでも不審な動きをすれば職務質問開始という使い方ができるのです。
残念ながらこの職務質問と警察法2条の声かけの使い分けについてはすべての警察官が理解しているわけではありません。
これは私が長年パトカーに乗って日々職務質問をしていたからこそ理解していることですし、最前線で戦ってきたから駆使していた戦略でもあります。
この使い分けを理解しておらず、最初からすべて職務質問を使っている警察官も多いと思います。
↓警察法2条を根拠にした声かけに関する参考記事
市民への外出自粛要請に関する警察官の声かけについては警察法2条を根拠にしているとのことでした。
https://www.kanaloco.jp/news/government/entry-331536.html
警察官時代の実体験
ここまで職務質問について軽く紹介し、外国人が声をかけられやすい理由についても解説しました。
繰り返しになりますが、もっと職務質問について詳しく解説した記事を後日投稿しますので、興味のある方はそのときにご覧ください。(職務質問の要件などは面白いです)
ここからは警察官時代の実体験について紹介していきます。
「外国人は警察官から職務質問されやすい」とされている問題は私の経験からしてもほぼ事実と言えます。
先ほども解説した通り、日本に中・長期滞在する外国人=在留カードの携帯が必要になるので、警察官としては声をかけやすいのです。
これは日本人に対して、意味もなく「免許証を確認させてください」というのと同じです。
多くの外国人が在留カードを携帯しており、在留期限も問題ないのですが、現実としては不法滞在している外国人も後を絶ちません。
そのため、警察官としてはなによりも在留カードを確認したいと思っており、それに伴って持ち物の確認なども行おうと考えます。
中には「たまたま在留カードを家に忘れてしまった」という外国人もいます。
このような場合、注意だけで済ます場合もありますが、疑いが晴れなければその外国人の家まで見に行くことは全然あります。(ただし、その場所からあまりにも家が遠い外国人は確認できません)
警察官からすると「在留カードの期限が切れていることを隠しているのではないか」と疑うのが当然ですので、在留カードをたまたま忘れてしまった場合でも疑いを晴らすのは時間がかかります。
よって、在留カードを持っていなければ犯罪の嫌疑があるという点から外国人には声をかけたくなるのが警察官の特性です。
警察官時代の同僚でも「ひたすら外国人に職務質問しよう」という警察官はたくさんいました。
ひどい人だと普通の主婦として生活している外国人にも在留カードの確認を求めている人もいました。
なので、外国人に声をかけると「また?!なんで日本の警察はそんなに声をかけてくるの?!」と怒る人も珍しくなかったです。
このような怒りの声を聞いたとき、心の中では本当に申し訳ないと思っていました。
なぜなら私は「外国人だから職務質問する」というのは大嫌いで、あくまで不審者にこだわって職務質問をやりたい派だったからです。
しかし、上司がやれと言ったらそれに従わなければいけないのが警察組織ですので、こういった職務が警察官に冷めた理由の1つでもありました。
結局は実績のため…?
では、なぜ警察官はそこまで在留カードの確認にこだわるのでしょうか?
もちろん、大前提として不法滞在やその他の犯罪に関わる外国人を検挙したいという気持ちはあります。
実際、外国人の犯罪で多いのが不法滞在であり、それは在留カードの有無によって判明することです。
凄腕の警察官で不法滞在を連続で検挙する人もたくさんいました。
確かな腕を持った警察官が確かな目で外国人に職務質問をし、犯罪を見抜いて検挙するのは物凄くファインプレーだと思います。
さらにそこから在留カードを偽造する犯罪グループの検挙に結び付く例もあるので、外国人=在留カードというのは1つ大事なポイントになることは間違いありません。
しかし、先ほども紹介したように「外国人を見たら職務質問をしよう」という残念な警察官がいるのも事実であり、私自身これは間違いだと考えます。
結局のところ職務質問をする地域課の警察官は検挙実績が必要なため、声をかけやすい外国人を狙うというのがどうしても出てきてしまうのです。
極端な話、1000人の外国人に職務質問をすれば1人くらいは在留カードの期限切れの疑いがある外国人はいるでしょう。
だからその1人の可能性に懸けるためにひたすら外国人に職務質問をするという状況が生まれてしまうのです。
そんな理由で職務質問をされる外国人はたまったもんじゃないでしょう。
警察官に職務質問をされて怒る気持ちも十分に理解できます。
なにも不審点がないのに「ただ外国人だから」という理由で職務質問をされて不快な気分になることは間違いありません。
この警察官の検挙実績が求められる構造自体が変わらないと外国人への過剰な職務質問はなくならないと思いますし、今回ネット上で話題になったような事例もまた出てくるでしょう。
元警察官として、ただ単に現場の警察官を批判するつもりはありません。
このような記事を書いている私ですら在留カードを確認するために数え切れないほどの外国人に職務質問をしてきました。
実際のところは上司から「なんでもいいから実績をあげてこい」と言われてやっている警察官が多いですし、なにも言い返せない上下関係の厳しさやその苦労は痛いほどわかっています。
ただ、今回のように一人の警察官が行った職務質問が大きな問題へと発展する可能性があるわけなので、組織としてもっと職務質問に対する教養を強化するべきなのではないかと思いました。
まとめ
今回は「なぜ外国人は職務質問を受けやすいのか?」というタイトルでお送りしました。
今回解説した内容をまとめると
・外国人が職務質問を受けやすい1つの理由は在留カードにある
・在留カードの期限切れは逮捕の場合もある
・警察官としては在留カードを確認する名目があるため外国人には声をかけやすい
・検挙実績のためにひたすら外国人に職務質問をする警察官もいる
・凄腕の警察官が確かな目で外国人の犯罪を検挙する例もたくさんある
となります。
誤解をして欲しくないですが、外国人への職務質問がすべて検挙実績のためとは言いませんし、すべての警察官が在留カードの確認を目的とした職務質問をするわけでもありません。
また、すべての警察官がひたすら外国人に職務質問をするわけでもありません。
先ほども説明した通り、外国人の犯罪を見抜いて何度も検挙をあげる凄腕の警察官もいます。
「外国人だから犯罪を犯しやすい」なんてことはまったくありませんので、その点は誤解がないようにお願い致します。
あくまで今回は私の経験談を含めた一例を紹介したまでですので、参考として頂ければ幸いです。
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