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職務質問ってなに?その要件は?元警察官がわかりやすく解説

職務質問をテーマにお送りします。

私は都市部の県警で約8年警察官として勤務し、そのほとんどをパトカー勤務員として過ごしました。

警察官=パトカーというイメージが強いかもしれませんが、実はパトカーというのは誰でも乗れるわけではありません。

”交番の警察官”と”パトカーの警察官”というのは市民から見れば同じ警察官ですが、内部的に見るとその違いは明確にあります。

警察の内部的な話をすると、パトカーに乗るということは交番の警察官よりも仕事ができる警察官という証であり、それ相応の実績が求められるポジションなのです。(すべての警察官に当てはまるわけではありませんが…)

つまり、警察官なら誰でも簡単にパトカーに乗れるわけではなく、交番で実績を挙げた警察官能力が認められた警察官でなければパトカーには乗れません。

もし、警察官志望者の方で「警察官になったらパトカーに乗りたい!」と考えているならば、まずは交番で結果を出すことを目標にしてください。


そして、パトカーに乗っている警察官が最も熱を入れなければいけない仕事の1つが職務質問です。

パトカーに乗っている警察官はとにかくこの職務質問での検挙実績が必要であり、幹部からも数字が求められる部分です。

そのため、パトカーに乗るからには職務質問で結果を出さなければいけませんので、職務質問の腕を磨くのに必死になります。

職務質問は一般の方にも広く知られている職務ですし、YouTubeで検索すれば職務質問の動画はたくさん出てきます。

警察24時でも鋭い洞察力で薬物使用者を検挙するシーンを見たことがある人は多いでしょう。

しかし、職務質問という言葉は当たり前のように知っていても中身について詳しく知っている方は意外と少ないと思います。

そこで今回は職務質問に焦点を当て、

・職務質問とはなにか?

・職務質問の要件は?

・職務質問はどこまで許されるのか?拒否したらどうなるのか?

などを元警察官の視点でわかりやすく解説していきます。

是非最後までご覧ください。

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職務質問とは?

まずは職務質問とはなにか?について解説していきます。

職務質問とは”未然に犯罪を防止することを目的とした職務”で、走行している車両や歩いている人に警察官が声をかけていくものです。

「職務質問をされたことがある」という人もいるでしょうし、「職務質問をしている警察官を見たことがある」という人もいるでしょう。

警察24時でも必ずと言っていいほど取り上げられるものなので、職務質問がどんなものかは皆さんもご存知だと思います。

職務質問のすごいところは

・なにもないところから犯罪を検挙する

・顔や動作を見ただけで犯罪の匂いを察知する

・犯罪が起きる前に検挙することができる

といったことが挙げられます。

凄腕の警察官であれば次から次へと犯罪を検挙していきますし、さらにすごい人だと1日に3件の犯罪を職務質問で検挙する警察官もいます。

このような凄腕の警察官は普通の警察官にはない嗅覚を持っており、一緒にパトロールをしていても全然ついていくことができません。

警察24時で検挙シーンが放映されている警察官は本当にすごい人たちなのです。


職務質問は警察官にしか許されない職務ですし、警察官にとっての最大の武器とも言われています。

逆に言えば、警察官になったからには職務質問は絶対に避けて通れない道です。

警察官志望者の中には「職務質問って難しそう」「人と話すのは得意じゃない」と思っている方もいるでしょうが、警察官として必須スキルとなりますので、今回の記事を少しでも参考にしてもらえればと思います。

職務質問の要件

六法

職務質問は「警察官なら誰でも無制限にできるもの」というイメージが強いと思いますが、実はそうではありません。

職務質問も立派な法的根拠を必要とする職務であり、無制限に行っていいものではないのです。

職務質問というのは「こういう状況なら職務質問をしてもいいですよ」という要件が決まっているので、警察官はその要件に従って職務質問を行わなければいけません。

少し難しい話になってしまいますが、職務質問の法的根拠は下記の通りになっています。

警察官職務執行法第2条第1項
警察官は異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

職務質問を条文で見ると非常にわかりづらい内容となっていますし、初めての方にはよく理解できないと思います。

これをわかりやすく表現すると

”警察官は合理的に見て不審な動きをしている者犯罪について知っていると思われる者停止させて質問することができる”

ということになります。

つまり、逆に言えばこの要件に該当しない人への職務質問は法的根拠に欠けることになり、本来であれば違法な職務質問となってしまいます。

さらに言うならば、不審というのは「警察官の主観的な視点だけでなく、客観的に見て不審であること」が必要となるので、実は警察官の主観だけで判断してはいけないものなのです。

それは一般人から見ても不審だと思える者がいたら職務質問をしてもいいという意味になりますので、そう考えるとよほどの不審者でなければ職務質問ができないということになるでしょう。

※ただし、現実的には警察官の知識や経験をもとに職務質問をすることは可能。「警察官の過去の経験から考えて不審だった」という理由の職務質問は問題ない。

では、実際のところ職務質問を行う警察官はこの法的根拠や要件を考えているのか?ということですが、残念ながらほとんど気にしていません。

もちろん法的根拠が実在することは理解していますし、要件があることもわかっています。

ところが、警察学校でこれらの要件について勉強するものの、現場に出てからは職務質問に関する教養がほとんどありません。

そうなると現場に出たら上司や先輩のやり方をマネするしかなくなってしまうので、深く考えた上での職務質問ができません。

現実的な話をすれば、今回紹介したような法的根拠や要件を満たした職務質問が実在する一方で、まったく適当に職務質問をしている警察官がいるのも事実です。


そもそも条文に書いてあるような客観的に見ても明らかな不審者なんて中々いません。

犯罪を隠している人が堂々と不審な動きをするわけがないし、悪いことをしている人は警察に捕まらないように生活しているはずです。

覚せい剤の使用者は歩き方や顔つきに症状が出るので見ればわかりますが、それ以外ではそうそう外見だけではわかりません。

よって、各個人の警察官が職務質問をする明確な理由がなく、なんとなく職務質問を行っているのも多いのが現実なのです。

これが違法な職務質問と言われれば確かにそうなのですが、警察としては「検挙すればそれでいい」「検挙したやつが正義」という考え方なので、この辺はあまり変わっていかないことかと思います。

さらに言えば、現場の警察官は検挙ノルマが課せられているため、いちいち深く考えて職務質問する余裕がありません。

警察官のノルマについてはまた別の記事で書きます。

職務質問はどこまで許される?

はてな4

そんな職務質問ですが、大前提として任意での手段しか許されません。

職務質問に関しては警察官からなにも強制することはできませんし、無理矢理行うことも禁止されています。

厳密に言えば、職務質問を拒否することも可能です。

実際、私自身も数え切れないほど職務質問をしてきましたが、中には「任意だろ?拒否する」と言ってくる人はいました。

しかし、職務質問が任意だからといってすべて拒否されていては意味がないので、ある程度の実力行使が許されています。

実力行使とは任意の範囲で有形力を行使することを意味します。

わかりやすく言うと、「あくまで職務質問は任意だけど、少しなら強引なこともできる」ということです。

職務質問で許される行為として

・その場を立ち去ろうとする者の前に立ちふさがること

・質問中に動こうとする自転車に手をかけて止めること

・職務質問を拒否する者を説得すること

・質問に答えるよう要求すること

などがあります。

つまり、職務質問中にその場から動こうとする者を止めることができるし、手を使って制止することも可能ということです。

これは裁判の判例でも認められていることなので、職務質問の一環として正当な行為となっています。

職務質問は任意なのに警察官は手を使って止めることができるというのはやや矛盾を感じますが、これは警察官に与えられた権限なので正当な職務です。

実際に私自身も職務質問中に手を使って相手を止めたことがありますし、前に立ちふさがって止めたこともあります。

ただし、相手の腕を強引に引っ張ったり、相手を押さえつけたりするなどの過剰な行為は許されていません。

強制的な職務質問になってしまうと違法になりますので、警察官ならばその線引きはしっかり理解しておく必要があるでしょう。


また、職務質問の特徴として、所持品検査を行うことが認められているという特徴があります。

職務質問を受けたことがある人の中には質問と同時に「持ち物を確認させてもらえませんか?」と言われたことがある人もいるのではないでしょうか。

これを所持品検査と言いますが、所持品検査も警察官に認められた権限です。

中にはナイフや包丁を持ち歩いている人もいますので、職務質問の際に所持品を確認するのはごくごく一般的なことです。

では、所持品検査の法的根拠は?と言うと、実は所持品検査は法律で規定されておらず、条文も存在しません。

そのため、厳密に言えば「警察官は所持品検査をしてもよい」という法律は存在しないのです。

法的根拠がないのにやってもいいというのはまたまた矛盾を感じるところですね。

法律に規定されていないのになぜ所持品検査が許されるのかというと、所持品検査は職務質問の一環として認められているからなのです。

よって、職務質問と所持品検査はセットでやってもいいと考えられており、実際同時に行うことが多いです。

職務質問+所持品検査は警察官にとって大きな武器であり、これによって多くの犯罪が検挙されているのも事実です。

ただし、所持品検査に関してもあくまで任意でしか許されません。

勝手に相手の持ち物を見ることはできませんし、無断で鞄の中身を見ることもできません。

所持品検査も相手の承諾があって成り立つものなので、警察官が強引に行うことはできないのです。

職務質問は拒否できる?

拒否

職務質問の話題において絶対に欠かすことができないのが「職務質問は拒否できるのか?」という話です。

ここまで職務質問について詳しく解説してきましたが、

・職務質問はあくまで任意

・任意だけど逃げようとする人には手を使って止めてもいい

・相手を止めてもいいけど強引なものはNG

ということでした。

ここまで読んでくださった方の中には「結局、任意なのか任意じゃないのかどっち?」と思った方も多いでしょう。

書いている私ですらそう思いました(笑)

職務質問の拒否については色々なところで色々な意見が出ていますが、元警察官の立場として経験談を含めて解説していきたいと思います。


まず、職務質問を拒否した場合、「わかりました。それでは失礼します」とすんなり納得する警察官はほとんどいません。

そんな警察官がいたら弱すぎて少し問題です。

やはり悪いことをする人の中には明確に職務質問を拒否する人がいるので、警察官としては簡単に引き下がるわけにはいきません。

職務質問を拒否された場合、警察官としては「なぜだろう」「なにかあるのかな」と思うのが当たり前です。

そのため、どうしても簡単に引き下がることができず、拒否されても職務質問を継続します。

しかし、職務質問に慣れている警察官だと

①ただ単に職務質問が嫌いで拒否している人

②本当にやましいことがあって拒否している人

の違いは大体わかります。

①の場合は時間をかけるだけ無駄ですので、警察官としてもある程度の時間が経過したら職務質問を打ち切ります。

「職務質問嫌い」「警察面倒くさい」という人はたくさんいるので、職務質問を拒否されることは全然あります。

顔つき話している感じで焦っているのか、なにもないのかというのは大体判断がつくので、疑いがなければ職務質問を継続する意味がありません。

もちろん拒否をされたからといってすぐに終わるわけではないですが、疑いがないのなら早く諦める方が警察官としても効率がいいのです。

先ほども少し説明しましたが、職務質問の要件に当てはまるような不審者なんてのは中々いません。

だから職務質問をかける相手というのは結構適当に選ぶことが多く、確信を持って声をかけることの方が少ないです。(そもそもそれが問題なのですが)

適当に声をかけた相手に拒否をされたところで、いちいち他の警察官に応援を呼ぶことはしませんし、時間をかけることもしません。

なぜなら応援を呼ぶときは覚せい剤などの確信がある場合がほとんどで、どうでもいいような相手に対して応援を呼ぶのはそれだけで手間だからです。

実際、応援に来た上司から「こんなことで呼ぶなよ!」と怒られることもあります。

よって、①の場合は職務質問を拒否しても警察官側が引き下がることは十分あり得ますので、職務質問を拒否することは可能と言えるでしょう。

特に疑いもないのに職務質問を拒否しただけで大勢の警察官に囲まれるならば、それはなにか疑いをかけられている証拠です(笑)

それと自転車の場合は防犯登録番号の確認を拒否する時点で怪しいので、簡単には帰らせてくれないと思います。


そして、警察官が絶対に逃がしたくないのは②本当にやましいことがあって拒否している人の場合です。

「警察官を見て顔をそらした」「覚せい剤の特徴が出ている」などの人を発見した場合、警察官は職務質問を拒否されても簡単には終わりません。

このような人はなにか隠している可能性が高く、見つからないように拒否することが多いので、それは警察官もわかっています。

よって、不審な人が職務質問を拒否すれば応援を呼んで圧力をかけますし、どれだけ拒否をしても職務質問を継続します。

さらに明らかに薬物を使用している状況がわかるような相手であれば令状請求をすることもあります。(令状が発付されれば強制的に色々確認できる)

「応援を呼ばれる」「拒否すればするだけ時間がかかる」というのはほとんどがこのような場合だと思います。

ですので、職務質問を拒否できるかどうかはどれだけ疑いがかかっているかによります。

一概には言えませんが、結論としては職務質問は拒否できるというのが元警察官の私の見解です。


なお、職務質問で免許証の呈示を求められることが多いですが、これについては応じる義務はありません。

違反をした場合とは異なるので、免許証の呈示義務はないからです。

逆に制服を着ている警察官であれば、「警察手帳を見せろ!」と言われてもこれに応じる義務はなく、警察手帳を見せなくても違法にはなりません。

警察手帳を見せる警察官は多いと思いますが、これは単なるサービス行為です。

なんなら警察官が氏名を教える義務もありません。

職務質問されたらどうすればいい?

私はパトカーに乗っている期間が長かったので、警察官時代は数え切れないほどの人に職務質問をしてきました。

1か月で考えれば軽く100人は超えています。

警察官時代は当たり前のように職務質問をしていましたが、逆に私自身も警察官時代にプライベートで職務質問をされたことがあります。

やはり職務質問をされるというのは決していい気分ではないですし、どちらかと言えば不快なものだと感じました。

こんなことを当たり前のようにやっていたなんて、なんだか申し訳ない気分になったというのが本音です。

しかし、職務質問は警察官の正当な職務ですし、誰もが職務質問を受ける可能性があります。

もし街を歩いているときや車で道路を走行しているときに職務質問を受けたらどうするべきなのか。

結論から言うと、警察官の態度に問題がなければ素直に応じた方が無駄な時間を過ごさずに済みます。

まず、警察官の態度についてですが、職務質問というのは相手の協力を得て行うものなので、礼を失してはいけません。

相手に対してタメ口を使う警察官は論外ですし、「職務質問なんだから応じて当たり前でしょ」という態度を見せる警察官も悪い例です。

職務質問を深く理解してない若手警察官はよく苦情をもらいます。

これは教養が足りていないので組織の問題でもあるのですが、上から目線で適当な職務質問をする若手警察官は非常に多かったです。

そのため、私ならそんな態度をとる警察官の職務質問には応じようとは思いません。

そんな人に自分の持ち物を見せるなんて、とても納得できることではないですよね。

職務質問の上手な警察官というのは常に低姿勢で、相手を不快にさせないような言動に気を配ります。

私自身も最初から上手な職務質問ができたわけではないですが、数をこなして上達してからはお互い笑顔で終わる職務質問がほとんどでした。

はっきり言って、職務質問で犯罪を検挙できる確率は1%にも届きません。

100人に声をかけたとして、1人も検挙できないのが当たり前です。

だからこそ、相手を不快にさせない職務質問を行うことはとても大事になるのです。


職務質問を受ければ少なくとも数分は時間をとられます。

仮に急いでいたとしても数分を奪われてしまうので、そこであれこれ言うよりも応じた方が手っ取り早いのは事実です。

どうしても職務質問に納得できないのであれば応じる義務はありませんが、そのときは多少の時間がかかることを覚悟する必要があります。

「時間がかかっても全然いい」という方は納得がいくまで警察官と会話を重ねることは問題ありません。

私は納得できる状態で職務質問を受けた方がいいという考えです。

納得できない状態で職務質問に応じて気分が悪くなるのは損ですし、応じられるのに無駄に時間を引き延ばすのももったいないです。

いずれにせよ私は職務質問を受けるのが当然だとは思いませんし、拒否するのが当たり前とも思いません。

もし警察官に職務質問を受けたら、総合的に考えて応じるか応じないかを考えるようにすればよいかと思いますし、気になることがあれば納得がいくまで説明を求めるといいでしょう。

まとめ

今回は職務質問をテーマに徹底解説してきました。

普段なんとなく見かける職務質問ですが、実はこれだけの要素が詰まっているものだということはあまり知られていないと思います。

知識が浅い警察官だと要件を答えることもできないでしょうし、丁寧な職務質問もできません。

だからこそ職務質問に関するトラブルが発生しますし、苦情を受けることもあるのです。

これから警察官を目指す方は是非今回の記事を参考にしてください。

警察官になれば職務質問は絶対に避けられない道ですし、検挙が求められる場面も多いです。

適当な職務質問やめちゃくちゃな職務質問が減り、犯罪検挙のための職務質問が増えていくことを願います。


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