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西浦先生のインタビューから考えた

専門家が発信するのはありがたいことだと思っています。

会議で発言したことが歪められて報道されたり、政治家や官僚の都合の良いように「間を取る」ことがされたりするからです。

8割おじさんのいう8割はどこから出たか

特に、8割おじさんこと、北大の西浦先生は毀誉褒貶がSNS上に出ていますが、ご本人が直接答えているから、まだ、伝わっているのではないかと感じます。

だから、このインタビューは読みがいがあるのです。

8割減というのは3月の初めから私が主張し続けている数字です。厚労省の内部でも、「接触を断つことで感染の流行は止まるんですよ」と話していました。

なぜ、8割なのか。欧州のデータから6割という数字も出ていたそうです。

1人当たりが生み出す二次感染者数というのは、欧州では平均で2〜3人と言われています。これを再生産数と言います。この数が1を割ると、流行が収まっていきます。

これを引用して、50〜67%、つまり半分から3分の2と数字が出ています。しかし、西浦先生は日本独自の状況をシミュレーションに含めていました。

背後ではもう少し詳しい再生産数のデータを作っています。医療と性風俗には残念ながら介入ができないと仮定して、一般の人口でそれを補填して、二次感染の平均値を1より下げるにはどれぐらい必要か見て、正確に言うと79%という数字が算出されました。

日本独自の数字である8割

シミュレーションは、前提となる状況の設定がどの程度現実に即しているかで信頼度が変わります。欧米と日本の違い、日本政府の要請の強さなど、そして医療の状況と夜の街の問題。このシミュレーションは、日本だから見なければいけない問題を反映していると言えるでしょう。

政治家や官僚は、なるべく楽観的な数字、言いやすい数字を求めます。彼らが大事にするのは「根拠なき安心」です。でも、それに対抗するシミュレーションデータは、より現実を反映していることを示さなければなりません。

西浦先生の戦いが、政治家や官僚との間で継続して繰り広げられてきたことが、このインタビューからわかります。

80%だったら診断されていない人も含めて感染者が100 人まで戻るまでは15日間、それに感染から発病、診断など目に見えるまでの時間が15日加わり、1か月間だという話をしました。
それが、もし65パーセントだったら、感染者の数が減るまでに90日かかります。90日プラス15で105日かかるんです。あまりにも長くかかる。

8割だから1ヶ月で済むものが、65%だと3倍以上懸かる。それを示しても、官僚は数字をねぎりたがります。

緊急事態宣言の裏での暗闘

実際に緊急自体宣言が出される4月7日の朝、この件に関して政府から宣言を諮問される諮問委員会の尾身茂会長と、やはり委員会に入っている東北大の押谷仁先生から、それぞれものすごく早い時間に私に電話がかかってきました。

8割おじさんというのは、押谷先生が名付け親だそうです。押谷先生が西浦先生のデータを強く押してくれています。

尾身先生も官僚の小細工に気付いて、西浦先生に問い合わせています。

不思議なことに「基本再生産数が2.5として、医療機関や性風俗のことを考えると、80%減でないと2週間で減らない」というシミュレーションの資料を作っていたのですが、私の知らないところで諮問委員会の資料の数値が書き換えられていたのです。
基本再生産数が2.0と、私が作った資料より感染力を低く見積もっての数字になっていたので、「これで大丈夫なのか?」という問い合わせを事前に尾身先生からいただきました。

このシミュレーションの資料を書き換えたのは誰か。是非、犯人探しをしてほしいところですが、マスコミはそういう風には動きません。

なぜこんなことが行われたのかについては、西浦先生は答えていませんが、ここに至るまでの官僚の捏造・改竄や政治家の自分勝手な発信が、冒頭で紹介した専門家会議のnoteでの発信や、ツイッターアカウントの設置になっているのではないかと想像します。

社会的な注目を浴びる責任ある仕事をしている中ではありますが、Twitterを楽しくやっています。そうすると、ありがたいことに、「こんな話があったぞ」「このデータはあなたの考えではないよね」と問い合わせや確認の連絡が届くようになりました。
なぜそんな嘘が出回っているのだろうと考えた時に、背後にどういう人がこういう仕掛けをしているか、罠のようなものまで見えてきたのです。そこで、自分で打ち消す発信を始めました。

官僚の「間を取る」精神が危ない

2.5と2で、どの程度シミュレーション結果が異なるか、研究者ならばすぐにわかることでしょうが、資料を整え、政治家が決断しやすい方向性を補佐する役割の官僚には、ちょっとした違いにしか見えないのかも知れません。

個人的に官僚の資料作りで驚いたことがあります。ある政府の会議で、コンピュータ開発の方向性を審議していて、8ビットか4ビットかで議論になった時に、次回の会議資料で6ビットという「間をとった」数字が出ていて、専門家が驚いたという話です。ITに詳しい方ならわかると思いますが、二進法の世界に6はあり得ない数字です。でも、それを平然と資料に記載する官僚という存在があるのです。専門家が激怒したことは言うまでもないのですが、会議に同席する政治家は気が付きもしなかったのです。

もし、6ビットと言う報告書がそのまま出ていたらどうなったのか。

まあ、そんなことはあり得ませんが、そうなるかも知れないような改竄を加えかねないのが官僚というものだという感覚が、私の中には刻み込まれています。

専門家の発信は、専門家自身を守る

西浦先生の主張は当初から全く変わっていません。

それなのに、自分の都合がいいように言い換えたり、引用したフリをして別のことを言う人が絶えません。

人との接触が6割、7割減少でいいなんて、少なくとも私は言ったことがありません。
「すぐ休業補償をしてハイリスクの場所を閉じることはすぐやってください」ということもずっと言っています。

こんなこともありました。

すでに流布してますが、まあとんでもない話です。

西浦先生もインタビューの中で触れています。

モーニングショーのコメンテーターが、休業要請を2週間程度見送るように7都府県知事に打診した西村康稔経済再生担当相から聞いた話として、まるで私が、休業補償を遅らせていいように専門家として助言したかのようなコメントをしたこともあります。
放置していたら私のせいにされたと思うと、危険を感じます。

休業補償に対して敏感になっている国民が、その責任を西浦先生に求めたらどうする気なのか。一部の過激な人が西浦先生に危害を加える危険性すらある話です。

でも、何者かが専門家に責任を押し付けようとしていたり、自分の意図とは違う報道がなされたりすると、肝を冷やすことがあります。

自分の身を守るために、政治家や官僚に利用されないように、政権の御用聞きに責任転嫁されないように、自分で発信することは重要だと言えます。

8割減らすと言うのはどう言うことか

西浦先生は、まだ一般には広がっていないが、その瀬戸際であると指摘します。確かに、私の知り合いにも、そのまた知り合いにもまだ出ていませんから、実感として、もう少し大丈夫かなと思いますが、それでも、夜の街に出歩かないようにしなければいけない時を引き締めています。

馴染みの店も休みになりましたしね。

こういう犠牲の中で求められている「8割減少」というのは、どの程度のことなのでしょうか。西浦インタビューの中でいちばんの驚きかも知れません。

携帯電話のデータで一つ、わかったことがあります。3月28日、29日の人出を前年のベースラインと比較したのですが、小池都知事が「感染爆発・重大局面」と記者会見された後の週末に東京では雪が降って、すごく寒くてみなさん出歩くのを控えました。その時の人出が8割減ぐらいです。

誰も見当たらないくらいの世界でした。新宿でも閑散を超えて、怖いくらいの静けさでした。

あの時は寒いからみんな外に出ないし、電車も乗らずに東京はゴーストタウンのようになりました。平日もあれに準じるぐらいに、社会機能維持のために働きに出る人ぐらいに抑えれば、流行は止められます。

平日であの光景が起きるには、欧米のようにロックダウンしないとダメだと感じました。

西浦先生の決意と「不都合な真実」

西浦先生がなぜ戦うのか。自分を守るためもあるでしょうが、研究者としての決意があるからのようです。

今回の流行で3月19日の専門家会議の提言あたりから、心に決めて一人で挑戦していることがあります。
「Risk Informed Decision(リスク・インフォームド・ディシジョン)=リスクを説明した上での決断」というのをやりたいと思っているのです。

リスクコミュニケーションという言葉もありますが、さらに一歩進んだ行動のように思います。

それは、このデータの公表に関係しています。

FireShot Capture 191 - 「このままでは8割減できない」_ - https___www.buzzfeed.com_jp_naokoiwanaga_covid-19-nishiura

死亡予測や人工呼吸器の数を上回る重症者の数が出るなど、怖い予測が今までよりも多かったのですが、意外にスルーされてしまった。科学的なエビデンスに基づいて、現時点でどれぐらいが亡くなると予測され、どれぐらいが重症になって、人工呼吸器やICUのベッドなどがどれほど足りなくなるかを示しました。

重症患者が増えれば、あっという間に人工呼吸器が足りなくなることがわかります。

やはりこのデータの公表は官僚から猛反対を受けたそうです。

これまでのように厚労省が言うことを聞く学者に作らせた都合の良いデータではなかったからです。

しかし、「不都合な真実」こそ、我々に必要なものであることを、すでに私たちは知っています。こういうリスクを明確に伝えて、行動変容などの決断を迫ることを、西浦先生は目指しています。

あの頃は焼夷弾のように海外からの輸入感染者たちが日本に帰国していることはわかっていたので、それを念頭に流行予測をすると、今のまま輸入感染者を丸腰で受けていたら大変なことになってしまうのは明らかでした。
みんなに真剣に行動を考えてほしかったんです。

専門家の声を受けて、私たちはどうすべきか

他にも、多くの示唆を西浦先生が述べておられます。

長いインタビュー記事なので、読むのは大変ですが、その労苦に対する記事です。

私たちは何をすべきなのか。そのヒントに満ちています。

例えば、こんなことも話しています。

企業の方にも訴えたいのですが、この行動制限は長期化します。家にいながらできることや、オープンエアでできることを開発するなど、ビジネスが持続できるような至急の開発に協力してもらいたいです。

この状況に適合した企業が、ポストコロナ社会、アフターコロナ社会、どっちかわかりませんが、そういう社会に生き残っていくのでしょう。

ピンチをチャンスに変える行動変容が求められていると思います。

私たちが大変と言っても、家にいられるわけです。テレワークとか言いながら、仕事をして給料も出ています。

でも、西浦先生は家にも帰らず、国からお金をもらわず、活動しているのです。

1回だけ3月の中旬に会えました。2月の前半から厚労省に詰めています。厚労省近くのホテルを転々として、いつも空いているところはないか探しています。
(ホテルの手配も)自分でやっています。私も含めて、専門家はほぼみんな無報酬でこの仕事をしています。謝金を受け取れるのかもしれませんが、専門家として政府や国からの独立性を保つ意味もあります。

これが専門家の気概と言うものなのでしょう。

これに答えるには#西浦ネロ、とか言っているだけではなく、8割削減を実現することなのではないでしょうか。

西浦寝ろ、僕大好きなんです! Twitterの人たちのリテラシーの高さに結構、驚いているのです。
みなさん、家にいても流行対策の報道ばかり見ているから、私よりよく知っている人もいます。それぞれの疑問に答えていると時々寝られなくなるのですけれども、みんなが「寝ろ寝ろ」と呼びかけてくれながら、「科学君」として正しいことを返していくことができる。
「寝ろ寝ろ」と言われながら、みんなに知識が入っていくプロセスを楽しんでいます。


サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。