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「新しい生活様式」は誰が考え出したのだろう

緊急事態宣言が5月末まで延期されました。

そこで発表された専門家会議の「新しい生活様式」に関する提言が話題です。でも、それは、専門家会議の仕事なのでしょうか?

専門家会議と諮問委員会

専門家会議は、感染症対策の専門家であって、社会活動や新しい生活様式を考える専門家ではないはずです。

専門家会議は、どこに設置されているかというと、新型コロナウイルス感染症対策本部の元です。(PDF

その目的は、「新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行う」ことにあるとなっています。

これとは別に、基本的対処方針諮問委員会があります。メンバーは専門家会議と重なります(PDF)が、弁護士など医学以外の専門家もいます。

政府対策本部が基本的対処方針を定め、また、その内容を変更しようとする際の諮問を受けること

そう考えると、専門家会議の提言を受けて、政府が何か行動指針を決める時には、こちらの委員会で図るわけです。実際、そう運用されていますが、どうも報道では目立ちません。尾見茂さんはこちらの会長でもありますが、専門家会議の副座長の肩書きばかり報道されますし、総理会見の時も、そう紹介されています。

でも、あれは、諮問委員会長だから、総理と並んでいるはずなのです。

基本的対処方針と新しい生活様式

両者の役割分担は、専門家会議が知見を提示し、それを受けて、新型コロナウイルス感染症対策本部の長である首相が判断し、諮問委員会がその判断を諮問しているという流れになっています。

首相は専門家会議による最新の感染者数の状況や医療体制に関する分析結果を得て、宣言の延長幅や対象区域などの判断材料とする。決断した宣言の変更内容を諮問委にはかる。諮問委が妥当だと判断すれば政府は国会に報告し、対策本部で最終決定する。

官邸のコロナ対策本部は、基本的対処方針(PDF)を発表しています。

いわゆる「新しい生活様式」もこの基本的対処方針の一部という位置づけです。

そう考えていくと、行動様式の提言の内容は、専門家会議ではなく諮問委員会のもとで決定されたわけなのに、そこの役割を曖昧にして、専門家という言葉に押し付けている人たちがいることが気に入りません。

どうして、こういうところを曖昧なままに進めているのでしょう。そういう曖昧さが不信感を生むのではないかと感じますし、そういうことが多い今回の政府事務方に疑問があります。

コロナ対策の事務方は厚労省ではない

コロナ対策は厚労省が進めていると思いがちですが、新型コロナウイルス対策本部は、内閣官房におかれ、その庶務は厚労省他が応援して内閣官房が行っているわけです。

お役所の庶務は、単なる事務手続きではなく、運営の全てを指します。例えば、こういう時に提出される資料や、提言の文言は、庶務のうちなので、たたき台となるものは内閣官房で書いているはずです。

そして、その文案に関係省庁で手を入れたり、直接手が入れられない場合も修正依頼を出したりしながら、まとめられ、そこに謎の文言がねじ込まれて、後の予算案提出の手掛かりになったりするわけです。

つまり、専門家会議の提言や、コロナウイルス対策の細かい文言は、内閣官房が庶務の一環として制作していると思われます。

そこに厚労省の意向が入っていることは、西浦先生の発言などから感じられますが、大きな方向性は、内閣官房が作っていることを意識しておいた方が良いと思います。

内閣官房は省庁よりエライ?

内閣官房というのは、内閣を補佐する独立した組織としての役割を担う人たちよりも、内閣が組織されるたびに新たに各省庁からスタッフが集められ、その省庁からの出向者が省庁のためになるように振る舞うために、混沌とした場所になりやすい部門でした。

ところが、安倍政権が長期化したことで、内閣官房づとめが長期化する人が増え、出向元よりも内閣のために振る舞うことが優先される組織に変わってきています。また、内閣のために振る舞った結果、出向元に帰った後の人事が優遇される事象も増えています。省庁の人事権を握っているのが内閣府だからです。

医療研究予算も厚労省から内閣府へ

さらに、内閣府にひもづいた組織が増えているのですが、医学系で最もわかりやすいのは、現在の医学研究予算は、厚労省のもとにあるのではなく、内閣府が主管であるAMED(日本医療研究開発機構)が握っているという事かもしれません。

医療分野ではこれまで研究開発を文部科学省、厚生労働省、経済産業省がバラバラに支援し基礎研究から実用化までの一貫体勢が存在せず、臨床研究や治験のための研究体制にも不備が存在し、医薬品開発は盛んであるが日本の医薬品・医療機器の貿易赤字額は拡大傾向にあった[5]。これらの問題の解決のため、医療分野の研究開発を総合的に推進する司令塔機能として日本医療研究開発機構が設立されることとなった

これにより、厚労省よりも内閣府が医学研究予算を握ってしまい、医学系出身ではない官僚が、研究の方向づけにまで口を出すようになったというのは、コロナウイルスでも影響しています。

この話題があったことは、コロナウイルスで忘れられているかもしれませんが、登場人物は同じだったりします。

大坪氏の処分は時間の問題だったともいえるが、兼任していた内閣府の役職は外されたものの、厚労省の大臣官房審議官(危機管理、科学技術・イノベーション、国際調整、がん対策、国立高度専門医療研究センター担当)の席には、すんなりと戻ってしまった。

コロナウイルスで予算も大幅に変更

実は、今年からAMEDの理事長も変更され、日本の健康・医療戦略も大きく変更したところです。

新型コロナウイルス感染症に対して、基礎研究や診断・治療薬・ワクチン等の研究開発、BSL4(Biosafety Level4=危険性が極めて高い感染症の病原体を最も安全に取り扱う設備を有する)施設等の感染症研究拠点への支援、アウトブレークに備えた研究開発基盤やデータ利活用を推進する。

予算がつけば、そこに研究が集まるので、コロナ対策研究がここから一気に進むだろうと思います。日本の研究者がコロナ研究をしていないことが3月に批判されていましたが、年度が変わって予算が新たになれば、日本でもできるようになるわけです。

内閣官房が提示する「ニューノーマル」

こう考えていくと、専門家会議が提言した内容については、「専門家の視点」で重点が示され、それを生活や業界に展開したのは、庶務を営む事務方だろうということが予測されます。

さらに言えば、そこに至るのは、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(PDF)に書かれていることだということも読み比べればわかります。

会議の建て付けを考えれば、専門家会議の提言ではなく、諮問委員会の諮問内容を吟味するべきだと思うのです。

この、元知事で医学者でもある米山さんの指摘は一読の価値があるものです。

他ならぬ専門家会議の報告書によって示された客観的なデータと事実から合理的に考えれば、私は、①「国の共通目標」をReに改め、②迅速にReを推計・発表する体制を整え、③症状のある人には迅速にPCR検査を行って症状に応じて直ちに療養・治療できる体制を構築した上で、④継続的にRe<1.0である事が確認された地域から順次「行動変容」の緩和を進め、4月上旬程度の「自粛」「感染症対策」を継続しながら、経済・社会活動を再開し、「今迄の生活様式」を取り戻すこと――が、最も合理的な政策であると思います。

この点は、さすがだと思いますし、共通目標のデータはReであるべきだというのは、西浦先生も指摘していることですが、役人や政治家が、この再生産数を理解してくれないことから「8割おじさん」になったわけです。

だから、米山さんが指摘する疑問はもっともだと思う一方で、

5月1日の報告書の提言と、5月4日に発表された「新しい生活様式の提言」は、こうした最終的な目的を見失い、最初からこの最終的な目標を放棄しているともとりうるものです。あくまで一時的なものとして提案されていることを祈りますが、仮にそうではなく、恒久的なものとして「新しい生活様式」を提言しているなら、政府も、専門家会議も、最早その任にあらず、職を退くべきだと私は思います。

この点においては、専門家に帰するよりも、こうした資料作成(PDF)をした内閣官房に疑問を呈するべきではないかとも思うのです。

これを見ると、かなり8割達成されている感じもしますけどね。

内閣官房がこの国をどうしたいと思っているのかはわかりませんが、安倍首相の立て付けも、この事務方がしているのだとしたらば、考え直した方がいいかもしれませんね。










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