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漫才論| ⁵⁶かまいたちの「タイムマシンがあったら」は名作漫才❓

M-1グランプリ2018で披露されたかまいたちの「タイムマシンがあったら」というネタをみていて思い出したのが,チュートリアルの「バーベキュー」のネタです(M-1グランプリ2005で披露)

どちらのネタも「発想」が素晴らしく,名作漫才の片鱗があるものの,「荒削り」というか,本ネタとは関係のないギャグのようなボケが結構入っていて,むしろそれが本ネタの邪魔をしているという印象を受け,どちらもそこまで評価されませんでした

しかし,「発想」は本当に素晴らしいので,こういうネタが評価されないまま忘れ去れてしまうのはものすごくもったいないことだ思います。そういう理由もあって,チュートリアルの「バーベキュー」のネタのカバー漫才をシリーズで書いています

かまいたちの「タイムマシンがあったら」に関しては今回,かまいたちによるセルフカバー漫才台本という形で書いてみました。本ネタとは関係のないギャグは省き,オチも変えています。このネタはもっと評価されるべきネタだと思います

濱家:タイムマシンで過去に戻れたとしてね
山内:うん
濱家:もしも何か一つだけやり直せるとしたらやりたいことありますか?
山:過去に戻ってやり直したいこと?
濱:一つだけやで
山:ポイントカード作りますね
濱:ポイントカード?
山:コンビニの
濱:どういうこと?
山:コンビニで買い物するたびにポイント貯められるんですよ
濱:知ってるわ。ポイントカードは知ってんねん。「『タイムマシンで過去に戻ってポイントカードを作りたい』とはどういうことや」と聞いてんねん
山:誰にでもあると思うんですけどね
濱:うん
山:一番最初に「ポイントカード作りますか?」と聞かれた日あるじゃないですか
濱:ありますよそりゃ
山:あの日のこと覚えてる?
濱:覚えてるか!「あの日のこと」と言うほど大切な日でもないしね
山:ぼくはあの日なんとなく断ってもうて
濱:まぁそれはよくあることや
山:そこから毎回「ポイントカード作りますか?」と聞かれるんですけど,今作ったら「今までのポイントなんか損した気分になる」っていう変な意地張っていまだにポイントカード作れてないんですよ
濱:その気持ちは分からんでもないけど
山:このままやったら「一生ポイントカード作られへん」ということやろ?
濱:それはおまえ次第やろ
山:だから,最初に「作りますか?」と聞かれたあの日に戻ってね
濱:うん
山:「はい!作ります!」って言いたい
濱:しょうもなすぎるやろ。もったいないわそれは
山:ポイントがやろ?
濱:違う違う違う
山:ちゃうの?
濱:タイムマシンの使い方がや
山:タイムマシンの使い方がもったいない?
濱:「タイムマシン使えるたった一度のチャンスをポイントカード作るために使うなんてもったいない」言うてんねん
山:ええやん別に。俺がタイムマシンどう使おうと
濱:ええけど,もったいないのよそれは
山:ほなおまえ何すんの?
濱:ぼくはね,学生時代に好きだった子に告白できなかったから,過去に戻って告白してみたいんですよ
山:そっちほうがもったいないですよね〜
濱:何がや
山:「告白してみたい」なんてたま〜に思うことちゃうの?
濱:何年かに一回くらいですよ
山:ぼくの「ポイントカード作ってたらな」はね,レジに行くたんびに思うんやから
濱:そやけど,それやったら今すぐカード作ったらええやないか
山:今さらどの面下げて「作ります」って言えんねん
濱:そんな大袈裟な話ちゃうやろ
山:ぼくはやな,10年以上もコンビニで毎回お弁当二つレジに持って行って,「こっちチンして,こっち捨てといてください」言うてる客みたいなもんやねん
濱:・・・・・・
山:今分かりにくく説明したんですけどね
濱:なんでそんなことすんねん。「例え」というのは分かりやすく説明するためにあんねん
山:それやのにここへきて,急に「こっちのお弁当も捨てません!」言うたら店員さんに変な目で見られるやろ
濱:その変な例えはもうええねん
山:なんで?
濱:あのな,おまえがポイントカード作るかどうかなんて誰も気にしてないのよ。今作らんと今後のポイントがもったいないことなんねん
山:もったいないのはおまえやて
濱:だから何がや
山:学生時代に戻って告白して失敗したらこいつには何も残らないんですよ。ぼくにはポイントカードが残りますからね
濱:確かに失敗したらもったいないですけどね,当時の感触やと,告白さえしてたら確実に成功してたんですよ
山:それはない
濱:なんでや
山:確実に成功するんやったら当時告白してたやろ。確実じゃないから告白しなかったんちゃうの?
濱:それはあの〜いろいろありますやん
山:図星やろ。ふられる可能性高いのにタイムマシン使うのはもったいない
濱:「確実や」言うてるやないか
山:世の中に「確実」なんてあるか?
濱:そんなこと言うたらおまえも一緒やないか
山:何が
濱:過去に戻ったからって確実にポイントカード作れるとは限らへんやないか
山:確実に作れるやろ。向こうが「作りませんか?」言うてんねんから
濱:・・・・・・。「世の中に『確実』なんてあるか?」言うたのはおまえやないか
山:「恋の話」と「ポイントカードの話」を一緒にすな。それに告白なんかして成功したらそれによって未来が変わって,今出会ってる人と出会えなくなる可能性あるやろ
濱:そんなこと言うたらおまえだって,ポイントカードなんか作った影響で未来が変わって出会えなくなる人がおるかも分からへんやないか
山:おらんやろそんなやつ
濱:おらんか?
山:おまえさっきから反論ズレてんねん
濱:ズレてんのはおまえや。「もしも過去に戻れたらポイントカード作る」とか,「もし告白できても失敗する」とか,「もしももしも」ておまえは現実からズレてんねん
山:おまえが「もしタイムマシンあったら何する?」言い出したんやないか!
濱:・・・・・・。ほんなら現実にできることを言うわ
山:何?
濱:今すぐコンビニ行ってポイントカード作って,ぎょうさん買い物してポイント貯めて,過去にポイントカードを作っていたであろうおまえが貯めていたであろうポイントに追いついたらええねん
山:あのな,今のぼくが買い物して貯めたポイントは過去にポイントカードを作っていたであろうぼくのカードのポイントにも加算されるわけやから,今のぼくがぎょうさん買い物してポイント増やしても,その分過去にポイントカードを作っていたであろうぼくのポイントも増えるわけやから一生追いつかれへんねん
濱:「過去にポイントカードを作っていたであろうおまえ」というのは現実には存在してないんやから,今のおまえがぎょうさん買い物してポイント増やしても,その分過去にポイントカードを作っていたであろうおまえのポイントが増えたりはしないから心配せんでええねん
山:おまえは何を言うとんねん
濱:とにかく,今すぐコンビニ行ってポイントカード作りなさい。ぼくが言いたいことはそれだけや
山:それだけ!?
濱:それだけや
山:これまで散々「ああでもないこうでもない」言うといて,今日言いたことはたったそれだけ!?
濱:ほんまにそれだけ。おまえは今すぐポイントカードを作れ!お客さんもみんなそう思うてるから
山:「それだけ」て。これまでの議論はなんやったんや。あ〜もったいない
濱:「もったいない」て何が
山:時間がや
濱:「時間がもったいない」言われてもやな,散々議論したあげくそういう結論に至ったんやからしゃあないやろ。「話し合い」とはそういうもんや
山:ほんま時間の無駄やった。「もしも」の話ばっかりさせられて。おまえが「もしタイムマシンあったら何する?」って言い出したからや。おまえは泥棒や。時間泥棒や
濱:分かった分かった。ほんなら返すから
山:何を?
濱:時間をや
山:どうやって?
濱:今からタイムマシンに乗って4分前に戻ってやな,俺が違うネタやり始めたらそれでええやろ。そしたら「もしも」の話にもならへんし
山:それやったら,あの日に戻ってポイントカード作るわ

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フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた


あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】