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藤沢製本は「製本」をやめます──60年続けた本業を撤退した話(1)

京都での創業から、今年で60年。“強くて、美しくて、使いやすい”本作りを出版社と一緒に追い求めてきた『株式会社藤沢製本』は、2023年11月末をもって、工場の製本ラインをすべて停止しました。

紙の出版物の市場が年々縮小していくなか、6年ほど前に経営危機を迎えた藤沢製本。そこから「従来の受注・生産体制を見直す」「拠点を滋賀に集約する」など、できる限りの業務改革を行ったつもりでしたが、本業で未来が開けるほどの状況には至らず、製本屋でありながら祖業でもあり本業でもある「本作りから撤退する」という結論を出すことになりました。

今までお世話になった方、たくさん相談に乗ってくださったみなさまに、まずは感謝をお伝えします。その上でこのnoteでは、製本事業を退く経緯や感じていた構造的な問題、ここ数年で見つめ直してきた「藤沢製本としてのアイデンティティ」のありか、私たちが今後何を引き継いでいくかなどを、数回に分けて記したいと考えています。



藤沢製本、4つの時代

事業転換にあたり、改めて藤沢製本のこれまでを振り返るなか、今回は私たちの歴史を大きく4つのフェーズに分けて、順に綴ることにしました。(これを読んでくださる方の関心も考えながら、あえて苦しかった近年にフォーカスをしています)

① 1963年の創業から、事業拡大を続けた1980年代ごろまで(第2回)

ここでの徹底的な機械化、常に時代に先駆けた設備投資とアイデアにより、京都を中心とする出版社の信頼をいただくことができたと考えています。藤沢製本の歴史の半分は、この拡大期が占めます。

② 出版市場がピークを超えた1990年代から、2000年代ごろまで(第3回)

安定して仕事のあった時代ではありましたが、一方で市場の変化とともに「出版社—製本屋」の関係が変わっていき、だんだん私たちの強みだった大規模生産ラインでは利益を出しづらい構造になりました。ここで有効な手を打てなかったことは、その後の撤退のやはり大きな要因になったといえます。

③ 経営改革を行った2010年代から、2022年ごろまで(第4回)

いよいよ経営が苦しくなり、再生支援を受けたフェーズです。ここでは同時に、自社ブランドの立ち上げなどの新規事業にも取り組みました。次の時代へのタネを植えられた一方で、自社のみならず、製本業界が置かれた状況の深刻さをまざまざと突きつけられる時間でもありました。

④ 製本事業を撤退すると決めた最後の1年間(第5回)

「製本屋としてこの先も生きていける」という手応えを掴むことができなかった藤沢製本は、何度も葛藤した末に、製本事業の撤退を決意します。「もしこうだったら」という振り返りも交えながら、会社が本当に引き継いでいくものは何か考えていきます。

本note連載の目的は、そんな藤沢製本が歩んだ歴史と記憶、抱え続けた葛藤や見えた希望を、次の時代に残すことです。

もう20年以上に渡って右肩下がりの出版・製本業界にあって、いち製本屋に何ができ、何ができなかったのか。私たちが生み出した価値はどこにあって、何がそれを阻んでいったのか——今も答えが出ない部分はたくさんありますが、藤沢製本で見たものや考えたことが、少しでも誰かの役に立てばうれしいです。

全6回を予定していますが、よければぜひ、最後までお付き合いください。

第2回に続きます)


<記事一覧> 

【公開予定】
2023/12/25 第1回(この記事です)・第2回
2023/12/26 第3回
2023/12/27 第4回
2023/12/28 第5回
2023/12/29 最終回

株式会社藤沢製本
1963年京都にて創業。学生参考書や学術書など一般書籍の製本請負を主力とし成長。2019年に滋賀工場に本店移転し、出版や印刷・製本業界の枠を越えて新規事業に取り組む。2023年に製本事業から撤退。

(文責:藤澤佳織、構成:佐々木将史