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谷戸の主役は?

※本記事は、藤沢市市民活動支援施設情報誌「F-wave」2022年11月号の特集記事を転載したものです。紙面全体は以下のリンクよりご覧いただけます。

藤沢市のまんなかに、ホタルが見られる場所が!?

小田急江ノ島線六会日大前駅から西に車で5 分。住宅街を抜けると、のどかな風景が現れました。車を降りてさらに歩いて進むと、木々の間にこぢんまりとした田んぼがあります。「同じ藤沢市内なの?」住宅地から道を一本入っただけで、普段の市街地での生活では感じられない空気が漂います。

ここは石川丸山谷戸です。小学校で習う社会科の副読本「ふじさわ」にもある古くからの原風景、初夏にはホタルが見られる自然豊かな谷戸が、藤沢市のちょうどまんなかにあります。

見学に伺った日は秋晴れで、丸山谷戸援農クラブ( 以下、MYEC)のメンバーが地域の親子連れと一緒に稲刈りをされていました。MYECは、「良い汗を流そう」という趣旨通り、全て機械を使わず手作業で稲刈りをされていました。

そんな石川丸山谷戸ですが、活動開始前の25 年間は放置され、田んぼは荒れて多くのごみが不法投棄されていました。また、この土地の地権者はMYECではなく、本来は勝手に出入りして自由に活動することができません。地権者が団体メンバーではない市民活動は全国に多くありますが、どの団体も継続的に活動することに困難を抱えています。

今回は、継続的に活動されているMYEC代表の樋口さんに、支援施設サポーターがお話を伺いました。

「田んぼをやってみたい」から「谷戸を守りたい」へ

今ではホタルをはじめとする生きものの宝庫となっている石川丸山谷戸ですが、ホタル保全のために活動がスタートした訳ではなく、「田んぼをやってみたい」という気持ちがきっかけだったと樋口さんは振り返ります。

農業経験がなく、失敗もあり、たくさん苦労したけれども、苦労よりも「サラリーマンの競争社会から一歩外れて活動できることが楽しかった」そうです。

活動初期は農薬を使っていましたが、谷戸と対話をしていくうちに無農薬で手作業の農業へと辿りつき、昔ながらの景色が残るようになりました。「やってみたい」という気持ちはやがて「自然( 谷戸) を守りたい」という気持ちになり、その純粋な気持ちが地権者に伝わっていくことで、谷戸での活動への理解と団体への信頼を得ていきました。

「礼を尽くす姿勢」から信頼関係が生まれる

地権者から信頼が得られる理由は他にもたくさんあります。

「人様の土地をご厚意で使わせて貰うのだから、大人数で勝手な事をとならないよう、地権者さんのお気持ちを第一に、を心掛けている」、「作業をする事前に何人で行いますとお伝えしている」、「収穫祭などの際に地権者さんと交流をする」、「地権者のものだから、勝手に敷地内の栗を拾ったり、柿をとったりはしない」。

これらの礼を尽くす姿勢や気遣いの積み重ねがあって信頼関係ができあがっています。さらに、地権者による「石川丸山蛍保存会」が設立され、クラブも会員として加入、協力しています。

「自分たちが主役ではない、愚直なまでに礼を尽くす姿勢」に、私たち支援施設サポーターも心を打たれました。

谷戸のこれから

設立から約16 年を経過したMYECですが、他の市民活動団体と同様、会員の高齢化という問題に直面しています。

「地域の小学校と連携して単発ではない年間を通じたイベントを開催することで、これからの子どもたちに谷戸への関心を持ってもらいたい」と希望を樋口さんは語っていました。

また、藤沢市が2015 年に、「自然環境の保全と谷戸全体の利用をし、次世代に引き継ぐ」ことを目的に『石川丸山緑地保全計画』を策定したように、この谷戸の貴重な自然環境に対する関心は高まっています。

市街化が進む地域の中にこれだけの環境が維持・保全されていることは大変素晴らしいことです。ただ、多くの人が長年にわたって努力して実現していることを忘れられてはならないと、取材をしていて感じました。今後、この地域がどう変わっていくのか、大きな関心をもって見守りたいと思います。

団体紹介

丸山谷戸援農クラブ(MYEC)
【設立】 2006年
【代表】 樋口 弘之 さん
【連絡先】0466-83-2374 ※担当:岩村さん
藤沢市石川丸山谷戸地区の休耕田を地権者と共に復活させることを中心に、里山の保全と地域の活性化を図っている団体です。石川丸山谷戸の畑、田んぼでの農業や、田んぼ周辺の林の手入れなどに取り組んでいます。

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