アバターとジェンダー、多様性とミスiDにまつわる私自身の話

男女である前に人なんだけど、でも社会や他人から男性or女性orそれ以外として扱われてきた、生きてきた、その背景の上に今日のその人や私がいるということ、そしてバーチャルだと(いやほんとはネットにいる全員がそうなんだけど)余計にそれがわからないから相手に接する時より深くそのことへの配慮が必要だということ、そのひとりひとりの配慮の上に初めて成り立つ「バーチャルに性別は関係ない」だと思う。少なくとも私のバーチャル観はそう。

やっぱり私の頭の中に常にあるのは、ポケコロで女児になりすました大人が逮捕されたニュースで

事件内容を見ればこれは別に必ずしもアバター起因とは言い難い、他のどのSNSでも起こり得る犯罪だけど、でも生身の自分とは違うものを着て匿名になるということは、やっぱり実名・生身であったら起こりにくい種類の暴力や搾取が発生する可能性があるということをこの事件は端的に示していると思うし、その被害者と加害者、どちらにも自分が扱われ得るということは常に頭の中にあるし、女性に見えるアバターの姿で暮らしている私も「もしかしたら相手は私のことを男性だと思っている女性かもしれない」と考えて、その上で怖がらせないこと、害意がないことが伝わるようにと思いながらコミュニケーションを取っている。

と元々女性として生きてきた私であっても、これがバーチャルアバターの姿でネット上に存在する上での最低限必要な配慮だと思っているし、少なくとも私の身近にいるバーチャルの人、私から見えているバーチャルの人は性別関係なくそういう態度の人ばかりだなと思っているけど、でも界隈にある「メス堕ち・メス化」って言葉だったりとか、たまに「(普段は男として生きているから女の子にこんなことは絶対言えないけど)今は女の子の姿だから女の子同士ならこんなこと言っちゃっても許されるよね!」みたいな態度を感じる人だったりをたまに見るとやっぱり暗い気持ちにはなったりすることはあるし。(これは私とSNSで繋がってる人誰のことでもないのでどうか「暗に自分個人のことを指して言っているのかもしれない」とは思わないでください)

それでも私は自分の身体的な性別によらず自分の好きな見た目を選び取れる世界の方が良いと思うよ。
「生身の女性として生きる様々な不都合を回避できる立場でありながら、バーチャルで女の子の楽しいところだけを搾取するのは狡い」って言う見方があるのはすごく理解できるし私もそう思ってしまいそうになる時が全くないとは言い切れないけど、でも私がそれを主張したくないのは、やっぱりもっと女の子達が楽しく幸せに生きられる世界になるためには、男の子が男の子でいないといけないの呪いからも自由になっている必要もあるということを強く思うから。
女の子が女の子である呪いが解かれていない現状があるのは確かだけど、だからこそそれを理由に男の子が男の子である呪いから解かれようとすることを止めてはいけないと私は思っているわけで。「自分はまだ呪いから解かれていないのに、お前だけが性別の呪いから解かれようとするのは狡い」と互いが互いに言い合っていたのでは一生何にも変わらないから。
だから私はいわゆるバ美肉文化が根付きつつある中でそれに加えて、どうすればバーチャルアバターやVRをより女の子達のためのものにもできるかな、そのために自分に何ができるだろうということを考えて自分なりに実践に移してきたわけで。

「多様性を大事にする社会にしましょう」って口で言うだけなら誰にでもできる。でもそれを本気で実現させようと思ったら、「一個新しいルールを作ってそれに全員従わせる」では到底解決し得ない、そこからあぶれてしまった人達をどうするのかその度に考え続ける必要があるし、「そんなことで傷つくお前がおかしい、自分の方が100%正しい、はい論破」の態度でもダメ、「こんなに傷ついた人がいます。じゃあもう二度と傷つく人が出ないようにそれに関しては一律禁止しましょう」の態度でもダメ。主義や生きてきた背景がまるで違う者同士で、それでもどうやったら極力お互いが大切にしていることを犠牲にしないででも傷つけあわないで一緒に暮らせるのか考え続けないといけない、自分の考えていることや大切にしていることをどんなに辛くても怒りで溢れていてもそれが相手にきちんと伝わるように丁寧に伝え続ける努力をしなければいけない、なんで相手が今傷ついているのかどんなに耳が痛くても耳を傾ける努力をし続けなければいけない。
それは全然綺麗事じゃない互いのドロドロに向き合い耳を傾け続けなければいけない本当に険しくてハードな道のりだけど、それでも私は自分もあなたも健やかに生きられる世界の方が良いに決まっていると思っているこの気持ちに嘘がないし、その覚悟があるからこそ多様性を掲げるミスiDにアバターの姿で出ていて、今日までここから降りなかったのはそういうこと。

だから私自身もその覚悟を問われていると思うし、多様性を掲げるミスiDプロジェクトに対してもどこまで本気でその覚悟があるの?私とどっちが本気?っていう気持ちで対峙している。

アバターの姿でミスiD出るの、ごっこ遊びと思われてるかもしれないし馬鹿じゃないの?って思われてるかもしれないけど私は最初からずっと本気だよ。

ほんとは覚悟なんかなくたって好きに生きられた方がいいに決まってるけど、でもその一番最初を走ろうとするならそこにはやっぱりどうしても覚悟が必要だし、でも私はいつか女性がズボンを履くぐらい男性がスカートを履くことも誰でもバーチャルアバターで自分の好きな姿で生活できることも創作できることも、全部普通のことになればいいと本気で思ってるよ。だから今あらゆる意味で私がここにいる。