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MANABIYA Report vol.36【奥井希さん】

2020.9.26(土)19:00~21:00
びぃぷらす
よかったら入りませんか ~まちを楽しめば、まちは楽しい~
流しのこたつ 奥井 希さん

1.はじめに

「流しのこたつ」

ヘンテコな名前ですね。もちろん褒めてますよ(笑)
僕が流しのこたつに出会ったのは2018年の夏でした。
まちなかで“こたつ”を出す違和感!
そして、こたつに入ったときの安心感!
とても面白い体験でした。

今回はいろいろなまちに出かけ、こたつを広げてみんなで楽しむ。そんな“遊び”をしている奥井希さんをMANABIYAにお招きしました。“まちに魅力がなくなってきた“と言われますが、それは私たちが”遊び”を消費していただけかもしれません。奥井さんのお話を通じて、私たちが“まちで遊ぶ”ことについて学んでいけたらと思います。

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2.私らしく“まち”で過ごすために

(1)「面白そう」からやってみた
大阪市内に住んでいた奥井さんはお外遊びが好きで、仲間と難波宮で朝日をみながら朝ごはんを食べたり、中之島公園でピクニックなどをしていました。私たちは、大人になると友達と会うとき、日時を決め、お店を決めてから出会うことが当たり前になっていました。でも、奥井さんはもっと自由にふらっと遊びたいという思いがあったそうです。
そんな奥井さんがいつものように外で友達と遊んでいる中で出会ったのが当時家具づくりをしている大島さんでした。あるとき、大島さんから奥井さんに「ゲリラこたつしよう」と誘われたそうです。大島さんの提案に面白がって乗っかった奥井さん。作る人「おーしまくん」、流す人「おくいさん」からなる『流しのこたつ』が誕生しました。

(2)一人で流す基本装備
「流しのこたつ」は奥井さんが一人で流せることが大前提です。そのため、基本装備はコンパクトになっています。まず肝心の“こたつ”ですが、初代は折り畳み式でキャスターが付いたものでした。そして、布団はふとん圧縮袋に入れて持ち運ぶそうです。外では空気を吸う掃除機が無いので、手動の空気抜きで圧縮させるそうです。そして、どうやって暖を取るか?ですが、昔懐かしい(といっても、ほとんどの人は使ったことないと思います。僕もない・・・)豆炭あんかを使っています。電気を使わず、長持ちする豆炭あんかは流しのこたつにぴったりですね。ただ、一酸化炭素を出すので換気は心がけましょう。

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(3)楽しすぎた初体験
大島さんが作った「おもちゃ」を手にした奥井さん。ホームグラウンドの中之島公園でさっそく試してみました。そして、伊丹にある「クローズドカフェ」オーナーなら面白がってくれるのでは?と、店先にこたつを広げていいかお願いしました。

カフェの前でこたつを広げた奥井さん。その光景が面白く、通りすがりの人が声をかけてくれたり、オーナーさんが投稿した写真を見て、興味津々で駆けつける人たちなど、見知らぬ街で楽しい交流が生まれました。また、カフェで忘年会を予定していた楽団の人たちがこたつを見つけ興味深々。奥井さんが「流しのこたつ」をしていると伝えると、「流し」なら音楽が先輩だということで、こたつの隣で流しの演奏が始まりました。思いもよらぬ「流し対決」に奥さんのテンションも上がったそうです。

そんな楽しすぎる流しのこたつ初体験をした奥井さんは、いろんなところでこたつを広げたいと思うようになりました。

3.自分遊びができるまち

(1)常識というルール
「流しのこたつ」とは別に、奥井さんは「大阪市内で焚火が出来ないか?」という実験もされたそうです。その実験の旗振り役はPUBLICHUCKパイセンの笹尾さん。笹尾さんは以前、MANABIYAにも来ていただき公共空間の私的利用についてお話をしていただきました。

いろいろと明文化されているルールを調べ、大阪城公園で人に迷惑が掛からない場所を見つけ、そこで焚火を楽しみました。焼き芋を焼いたりしてひとしきり楽しんでいると、警察がやってきたそうです。

「何してんの?」
不審な行動に対して問いかける警察
「“やきいも”です」
当たり前のように答える奥井さんたち
「やっ、焼き芋か~」
意表を突かれ、若干和む警察

奥井さんたちは、自分たちで調べたルールを説明し、ルールの範囲で行っていることを説明しました。でも、それに対する警察官の答えは、

「今大阪市内で焚火したら常識としてあかんのや」

という言葉でした。おそらく、誰かが通報して警察もしょうがなく出動したと思います。そして、指導をしに来た手前、“世間の常識“というルールを持ち出したのかもしれません。もしかすると、「問題を起こさないでくれ」を言いたかったのかもしれません。

そんなやり取りをきっかけに奥井さんのなかで、

・誰かの常識は本当に常識?
・やっていいことわるいこと
・周りが許されること許されないこと

が世の中にあることを知り、ネガティブじゃない程度に周りが許してくれる公共の使い方というものを深めていくようになりました。

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(2)“こたつ“を通してみた”まち“
奥井さんは“こたつ”をもって各地に出向きました。そして、まちの片隅でこたつを広げ、いろいろな人とコミュニケーションをとっていきました。

①動物園でお客さんから動物のように見られる
場 所:王子公園
園の人:断る理由がない。とりあえず注意だけはされた。
周りの人:物珍しそうに見られた。

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②日本一路上販売が売れる町のこたつ
場 所:小倉駅前
誘った人:小倉のお友達から「面白そうだから来ない?」
周りの人:入らずに差し入れをくれる人がいた、入ってくれる人もたくさん

③下関のゲストハウス前
場 所:ゲストハウス前の路上
お願い人:ゲストハウスのオーナー「面白そうだからおいてもいいよ」
周りの人:車夫さん(人力車を引く人)にめっちゃ見られた

④ストリートにまみれる
場 所:三角公園
周りの人:ストリートの子たちは周りで勝手にスケボーとかラップとかしだす

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⑤大阪の中心でこたつをかこむ
場 所:梅田の阪急と阪神をつなぐデッキ
誘った人:奥井さん自身(東京からの友達を全力でもてなすため)
周りの人:帰宅時間のため、ワーカーはそそくさと帰る
     隣でストリートライブしている人に警察の取り締まりなど確認
     ブルガリア人の観光客が面白がって参加する
     言葉は通じないが、楽しくお酒を飲む

⑥人通りのないお外あそび
場 所:那智勝浦
誘った人:マグピク(マグロの切り身をもってピクニック)に参加
周りの人:人がいない・・・・
     景色が最高で素敵な写真が撮れた

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⑦初めて注意される
場 所:グランフロント大阪と大阪駅をつなぐデッキ
誘った人:MANABIYAの打ち合わせ
周りの人:40分ほどして警察官に注意される
そそくさと退散したが、なぜダメなのか?を話し合えばよかった。

⑧ゲームセンター前でフィーバー
場 所:梅田、ナムコ前
周りの人:若い子たちが面白がって入ってくる
男子高校生と女子高校生の反応が違って面白かった
若い子たちが周りの若い子を誘って、勝手に盛り上がっていた

4.楽しく過ごす環境づくり

(1)害がないと思ってもらう
路上でこたつを広げるには、それなりに通りすがりの人の目に留まります。その時、ネガティブな印象にならないように奥井さんは二つのことに気を配ってらっしゃいました。それは“看板”と“声掛け”です。看板には自分たちが何者か?何をしているかを伝えるメッセージを書いています。そして必ず「よかったら入りませんか?」という言葉を書きます。それは、通行者に対し害のない集まりで、よければ握手しましょうと手を差し伸べている状態。オープンな場の意思表示です。また、目が合う人に対しできるだけ“声掛け”をしてまちの人とコミュニケーションをとるようにしれているそうです。

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(2)広がるこたつ仲間
2019年には「流しのこたつ」を題材として公共空間の利用について学ぶpublicship schoolという企画がありました。10名の参加者に大島さん手作りのこたつを用意し、それぞれが大阪のまちでこたつを広げ、流しのこたつを体験しました。僕も参加者の一人でしたが、まちに止まり木して、まちを観察することが出来て本当に楽しかったです。
このスクールを経て、いろんな地域にこたつが巣立っていきました。いろんな地域にこたつがあることで、こたつ仲間が住んでいる場所でまたこたつ遊びしよう!という関係性が広がりました。

(3)まちのスキマに団らんの風景(開けた実家)
奥井さんは「こたつは“知らない人”とまちで話すツール」とおっしゃいました。通常は家の中にある“こたつ”が外にあることで驚き目を引く、そしてその場を運営している奥井さんが「どうぞ」と心を開いている。そうすることで知らない人をお客さんとして家に招き入れるような環境が出来上がっています。

では、その知らない人とは・・・・?
奥井さんは二つの軸で“知らない人“を区分してくれました。一つの軸は分かり合えるかどうか、もう一つの軸はコミュニティに近いかどうか。
“流しのこたつ”で出会う人は“コミュニティに遠くて分かり合える人“として区分されました。そしてその反対に位置する人”コミュニティに近くて分かり合えない人“に対してどのように振舞うか?「すばらしい活動と思ってもらわなくていい、ほっといて欲しい」そう思ってもらうためにどうすればいいか?奥井さんのこれからの課題だそうです。

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最後に、この活動を通じて2つの視点を教えていただきました。

①無意識にやってはいけないと思っている思考を疑う
②普段出会えない人との出会いから他者への想像力を育てる

「“流しのこたつ“を通じて、何か新しいことをしようとしている人のハードルを下げたり、そういった人たちに対し、周りがそっと見守れる許容度を持ってほしい」と奥井さんはおっしゃいました。

外(まちなか)で開かれた態度でいること
社会の許容度が広がることにつながればいいな

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5.感想

「がんばって」は誉め言葉?
僕の中でずっと気になる言葉がありました。それが「がんばって」です。流しのこたつを数回したときによく言われる言葉です。興味津々で話をしてくれる通りすがりの人、一通り話をした後、入りませんか?と誘うと、「私はいいです」と断り、別れ際に「がんばって」って言われることが多かったです。この「がんばって」という言葉に何となく疑問を持ちました。「がんばって」って私は興味ないけどまあ頑張って、とも取れます。なんだか、頑張ってってめちゃめちゃ他人行儀やなーと思うし、本当に「頑張って」って思ってるの?って思っていました。

でも、奥井さんたちから「“がんばって”は誉め言葉ですよ」って言われました。その時は何となくしっくりこなかったのですが、レポートを書く中で奥井さんが目指そうとしているもの、それは僕自身も実は目指そうとしているものに気づかされました。
どういうことかというと、

「そっとしといて」の文化

みんなでこたつをしよう!ってわけではなく
みんなで路上のみしよう!ってわけでなく
みんなでスケボーしよう!ってわけでもない

みんながしたいことをできる“まち”
まちに思いやりを持てる“人たち”

思い思いにまちを使うけれど、同調圧力はなく、排除の理論もない。そんな“まち“を目指しているんだと思います。その中で、「がんばって」は相手を尊重している言葉だと思えるようになってきました。

面白かったら参加する。
もっと面白いことがあれば、他の事をする

僕の中では、奥井さんが事例として挙げてくれた三角公園がまちの多様性を表す一つの形なのかな、と思いました。そして、それは『文化』だと思いました。

周りに配慮しつつ、自分たちがしたいことを出来る人たち。それは“明文化されたルール“ではなく“心の中に持っている文化“

つまり“見えない常識”なんだと思います。

奥井さんが焚火で警察の方に言われた“常識的に考えて”。その“常識”を書き換える必要がある。常識を書き換えるには、それぞれの人の中にしみ込むように新しい常識を植え付けていく必要があると思います。

それは即効性のあるものではなく、じわじわと更新されるもの。

もしかすると、奥井さんや僕たちのゴールは焚火をしている人を見て、「がんばって」と言ってくれる警察官に出会えることかもしれません。(う~ん、それは難しいかな~(笑))

全部で5038文字でした。(タイトル除く)

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