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MANABIYA Report vol.33【金川圭美さん】

1.はじめに

『金ママ』さんの愛称でおなじみの金川圭美さん。高砂の戎町に「まちの保険室カフェto be」を開いています。まちの保健室カフェは路地裏の奥にあり誰もがたどり着けるような場所ではありません。でも、その場所にはいつもいろんな人がいて、体のことや地域のこと、子供のことなど、いろいろな会話が行き交います。今回は金ママさんに体のことから私たちの生活について話して頂きました。

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2.問いかけ続けて見えてきた「まちの保健室」

(1)自分への問いかけから始まる学び
金ママさんは20年前にアロマセラピーを学ばれたそうです。そして、その技術を活かして地域に貢献したいと思いデイサービスにボランティアとして参加されました。その後、姫路の病院でアロマセラピーのボランティアを募集していたので、その病院に参加することになりました。と言っても、組織づくりから始めないといけない状況だったらしく、アロマボランティアの立ち上げ自体をされたそうです。そうやって病院内での信頼を築いていくうちに、病院内でマッサージの事業が出来るようになってきました。そして、知らず知らずのうちに医療に関わり、患者さんと向き合うことになりました。
しかし、金ママさんの中で大きな不安があったそうです。

疲れて眠れない日々、本当に目の前の患者さんのカラダに向き合えているのだろうか?という思い。そんな思いを持つ中で、金ママさんは2年間『解剖生理』と『東洋医学』を学ばれました。仕事、家事、学びを繰り返す日々。その学びの中で見えてきたことと未だ見えないことがあったそうです。そして、目の前の患者さんのカラダに向き合うため、1年かけて『中医学』を学ばれたそうです。

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(2)心と体に問いかける日々
金ママさんが通っていた病院は脳卒中や脳梗塞、神経性難病など介護を必要とする人たちが入院していました。誰かのために頑張った日々を送りながらも不意に病で倒れ自分の体にさわることも出来なくなった人たち。自分の気持ちを伝えたくても伝えられない人たち。そんな人たちを見て「この人たちはどう思っているのだろう」「何を望んでいるのだろう」と金ママさんは思ったそうです。

私たちは病気だからしょうがないとあきらめ、動けないという固定観念で介護に携わりがちですが、金ママさんは「彼らには感情がある。でも、伝えられないだけ。だったら、こちらが彼らの感情を想像して寄り添ってあげればいい」と考えました。そうやって、患者さんの心に寄り添いながら体のマッサージを繰り返していく中で、驚きの体験があったそうです。

認知症で3年間カラダを動かすことが出来なかった患者さん。ある時、金ママさんがマッサージをしながらその方に「体を動かすつもりある?」と問いかけたそうです。そうすると、「うんうん」という反応が返ってくる。だったら、ということで金ママさんはマッサージの度に体の仕組みをその方に語り続けたそうです。聞いているか聞いていないか反応がないから分らない。でも、患者さんの「出来る」という思いに寄り添い語り続けました。

すると、半年ほどたったある日、不意に患者さんの中指が動いたそうです。その反応を見て患者さんに「動くやん!」と問いかけるとにっこりと笑ったそう。じゃあ、ということで足の方に刺激を与えてみると力強く蹴ってきたそうです。

「人間のカラダってすごいなー」

と感じた金ママさん。金ママさんは僕たちにこう話してくれました。

人はみんな同じではない。病院で先生から病状を聞き決まった流れで治療をうけ死んでいく。本当にそうだろうか?そうじゃない人もいるはず。
人間の生きる力を信じてあげる。なりたい自分になっていく力を人間は持っている。

(3)まちに問いかける場所
金ママさんが医療施設で16年間かけて学んだこと、それは、患者だけでなく家族や医療体制全体をケアすること。そうすることで患者が人間らしく生きていくことが出来るのではないか。幸せに死ぬとは生ききること。つまり、寝たきりになる前にケアすることが大切。そんな場所を目指してまちの保険室カフェを開かれたそうです。流行りの店ではない必要な人がたどり着ける場所が『まちの保健室カフェto be』です。

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3.わたしのカラダにありがとう「カラダのくせの見立て屋さん」

金ママさんは職業をセラピストと名乗っていたそうです。でも、セラピストとは理学療法士など体の治療をする人。体がもつ力を使って自分自身で直していく金ママさんのモットーとは異なります。金ママさんは自分たちのカラダの状態を教えてあげる役割、だから『カラダのくせの見立て屋』と今は言っているそうです。その金ママさんの見立てを少し教えていただきました。

(1)思い込みがカラダをつくる
金ママさんは「私たちの思い込みがカラダをつくっている」と言います。
例えば、血糖値が高い方は糖分を控えようとします。でも血糖値が落ちない場合も。それはなぜか?というと、頑張っている人に起こるそうです。頑張っている人は頑張るためにエネルギーを必要とする。そのために血圧や血糖値を自分で高くしているとおっしゃいました。

肝臓はアルコールを分解する場所としか僕は思っていませんでした。でも、たくさんの機能があるそうです。肝臓はエネルギーをためておく場所。夜、寝ている間に自分の弱った臓器にエネルギーを送り翌朝も元気で過ごせるようにしてくれる機能がある。また、脂分は胃ではなく肝臓で分解したり、薬など外部からの異物に対する抗体反応を示したり、僕たちの体にとって大切な働きをしてくれています。

だから、肝臓に感謝しないといけません。残業で体が疲れているとき。お酒を飲み過ぎたとき。いろんな自分の体に負荷を与えたとき、肝臓に「ありがとう」と感謝してあげることで肝臓は僕たちの体に元気を与えてくれます。

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(2)触れることで出来る日々のケア
わたしたちは体を使って日々暮らしています。だから、日々の暮らしが体に表れているそうです。立った状態で人を見て見ると、どこかに歪みがある。その歪みを直すために他の部位に無理をさせる。その積み重ねが体に障害を与えます。だから、一度立ち止まって自分の体を確かめてあげることが大切。特に大事なのは頭蓋骨と骨盤の中にある仙骨。体を支える大事な部分なんだそうです。実はどちらの骨も常に少しずつ動いているそうです。そして、過度にストレスが加わるとその動きが悪くなり、血管を圧迫し血流を悪くする。だから、お風呂のに入った時など疲れを癒すときに自分の側頭部を優しくなでてあげるなどして、体を緩めてあげることが大切なんだそうです。

肩こりって他の人に肩をもみほぐしてもらいます。でも、金ママさんは肩こりのケアは自分で出来るとおっしゃいます。肩こりの原因の一つに肩甲骨の歪みがあるそうです。その肩甲骨のつけ根は鎖骨や腕の骨のつけ根と一緒になっているそうで、そのつけ根は体の前面にある烏口突起という部分なんだそうです。だから、毎日烏口突起のあたりをさすってあげたり温めてあげるだけで肩甲骨がゆるみ、肩が楽になるそうです。

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(3)体への感謝が幸せのスタートライン
 金ママさんは体の仕組みにとても詳しい方です。体の調子が悪い部位はどこか?それはなぜ起こっているのか?その原因を排除するためには何をすればいいのか?とても理路整然とおっしゃいます。でも、最後にはあたたかな言葉で終わります。

「自分の体に感謝しましょう」
「私たちの体は頑張ってくれているんです」

なぜ、そんな言葉を投げかけるのか?金ママさんはこうおっしゃいました。

体は自分の一番の味方です。体は自分の気持ちと共に動いてくれています。だから、体は自分の伴走者なんです。そんな伴走者にいつも感謝すれば、居心地のいい場所が出来てきます。
家庭が居心地よくなれば子供は居場所を探さなくてもよくなり、誰もが無理をして認め合わなくても優しくつながれます。
体は気持ちに合わせて動いてくれます。私たちが辛い時は体が縮こまって守ってくれようとしています。そんな自分の気持ちのサインを発してくれる体に感謝しましょう。

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金ママさんのお話の後は、金ママさんお手製の街の保健室コロッケをみんなで頬張りました。金ママさんの優しさがあふれるコロッケは参加者を笑顔にしてくれました。

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4.感想

金ママさんとは6月に開催したMANABIYA vol.28の場で初めてお会いしました。その時にゲストの一人として来ていただいていた中島健太郎さんを9月にまちの保健室カフェにお呼びしイベントを開催されたと聞きました。なんてバイタリティ溢れる人がいるんだろうと思い、10月に金ママさんの所にお邪魔しました。

まちの保健室カフェは本当に普段の生活ではたどり着けない場所にあります。ただ、僕はその閉鎖性の中に在る開放感がまちの保健室カフェ足らしめていると思います。「場づくり」において場所は大事な要素です。誰でも気軽に入れる場所。それはある程度知見が出来ています。1階にあり通りに面している。そして、ガラス張りで開放感があり中がよく見える。入り口は開けっ放しでウエルカム感があり、店先に椅子などを用意していて親しみを演出する。商業系の場づくりではこういった要素が取り入れられています。でも、本当にそれが「場づくり」の場所になっているのでしょうか?金ママさんが作りたい場は「誰でもこれる場」ではなく、「たどり着きたい人がたどり着ける場」だと思います。そういった場は「みんな」と言った顔が見えない関係性ではないと思います。顔が見え、心が通える関係性、その関係性を築くための場はある程度閉鎖された環境でないと成り立たないと思います。だからこそ、そこに開放感が生まれる。そう思うと、「まちの保健室カフェ」は本当によく考えられた場所にあると思います。

また、レポートでも少し触れましたが、金ママさんの話は理路整然としています。どこがどう悪いのか?その原因は何処にあるのか?解決するためには何をすればいいのか?こういったことを一人一人問いかけながら、自分自身がケアできる環境を作り上げていく。これは体のケアだけではないと思います。心のケア、まちの仕組みのケア、社会のケア。すべてのケアに通じると思います。

少し、土木の話をします。いま、橋・トンネルといった社会基盤や学校・図書館といった公共施設は維持管理や存廃が課題となっています。例えば橋やトンネルなどは5年に一度は点検をして状態を確認することが道路法で義務づけられています。法律で義務付けられているから、いま多くの職員や技術者が点検や補修に携わっています。ただ、その中で本当に橋の将来を考えて業務に当たっている人がどのくらいいるのか?また、公共施設は少子化高齢化により行政の財政基盤が弱まっていく中で統廃合が課題になっています。しかし議論の現状を見ると公共サービスの質を問う前に施設の新旧で存続が議論されているように思われます。その社会基盤はどの程度必要か?その公共施設は市民にとって必要なサービスを提供出来ているか?出来ていない状況であれば、将来を見越してどの程度まで手を加えてあげるか?金ママさんが患者さんの体と心に向き合っているように、僕たちはまちの未来や人々の生活に向き合ってその場その場で正解を見つけながら漸進的なまちづくりを進める必要があると思います。

画一的な答えがない未来に向かって、金ママさんを見習って『まちに「ありがとう」』といながら、私たちの暮らしに向き合っていく必要があるのではないかと思いました。

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