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一句《サマフェスの 最後を飾る ギタリスト》サントリーホールのサマーフェスティバル最終日

アロハ!

1987年の夏から、サントリーホールでは恒例となっている「サマーフェスティバル」が8月23日(水)〜8月28日(月)の期間で開催されました。このフェスティバルのコンセプトは「現代音楽」、今回はオーストリアの女性作曲家オルガ・ノイヴィルトによる作品が数多く取り上げられ、「現代音楽」ならではの「新しい」「面白い」体験が期待できるフェスティバルとなっています。


私が行ってきたのは最終日、2023年8月28日(月)19時開演のサントリーホール(小ホール)ブルーローズで行われた「テーマ作曲家オルガ・ノイヴィルト/サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No. 45/室内楽ポートレート」というコンサート

プログラムの曲名よりも「for」に注目していただきたいので太字としています。

〈プログラム〉
オルガ・ノイヴィルト作曲:
(1) incidendo / fluido
  for Piano and CD Player
(2) …ad auras… in memoriam H.
  for Two Violins and Wooden Drum ad libitum
 〜休憩〜
(3) Quasare / Pulsare II
  for Violin, Cello and Piano
(4) Magic Flu-idity
  for Flute Solo (and Typewriter)
(5) spazio elastico
  for Ensemble
  (Trumpet,Trombone,Percussion,
  Electric Guiter,Piano,Cello)

1曲目はグランドピアノにCDプレーヤーが組み込まれています。2曲目と3曲目のヴァイオリンは「60セント差」(半音の3/5低い調弦)でチューニングされて独特の音響。

4曲目にはパーカッションとしてタイプライターが使われたり、水が入ったグラスを指で擦って鳴らします。そして、5曲目には、なんとフェンダー・ローズ(あるいはその音色を模したシンセサイザー)とエレキギターが参加します。

このような普段使われない楽器を含んだ構成となっているのは、オルガ・ノイヴィルトの関心が「高尚と俗っぽさの共存」だからでしょう。

プログラム・ノートによるとオルガ・ノイヴィルトは18歳の頃、日本に数週間滞在していたことがあり、そのとき、日本の漫画から伝統芸術に至るまで「侘び寂び」という高尚な美の概念と、「皮肉な発言」「反語表現、当てこすり、嫌味」などの冷酷で無慈悲なものが混在していることを感じ取ったそうです。

また、彼女は作家ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の作品をオペラにしていますが、ウルフも「燈台へ」という小説の中で、盛大な夕食時に恋人たちを見た「ラムジー夫人」の気持ちを次のように書いています。

一方は厳粛なもの、──女に対する男の恋情ほどきまじめなものがあるだろうか、
〜略〜
と同時に、この人たち、この恋人たちを、好奇心に輝く眼にさらし、その中で、揶揄にとりまかれ、花束にかざられながら、踊りまわらせてみたくもあるのであった。

ヴァージニア・ウルフ著、中村佐喜子訳
「燈台へ」より


同じように、「高尚」であり「俗っぽく」もあるオルガ・ノイヴィルト作品はピアノ曲ではピアニストを忙しく動きまわらせます。作品に興味がある方は1曲目に演奏された「incidendo / fluido」の動画を(スロベニアのピアニスト Jan Satler による演奏で)どうぞ、約12分、冒頭 ffff の高音連打から始まります、音量に注意してください。

動画の演奏を聴いていただければ分かるとおり、連打・速弾き・繰り返し・(ドッカーンという)爆低音・不思議な不協和音など、「現代音楽」的な極端な表現方法が様々な形で繰り出されるのですが、途中にわかりやすいリズムやメロディーなども織り込まれているので聴いていて楽しいのです。

さらに CD Player とか、「E-bow」という弦を磁気で振動させるエフェクターも使われ、なおかつ、ピアノの中音域あたりの弦の上にラバーがかけられ、音色が独特で、その点も楽しませていただきました。

この調子で2曲目〜5曲目まで、特殊奏法と実験的な手法満載の素晴らしい演奏でした。


最後に、

5曲目のギタリストの服装は白黒のアロハシャツ、この場にふさわしい最高の選択だと思います。お似合いです。

そして、エレキギターは管弦楽演奏と融合してオルガ・ノイヴィルトの世界感を作り上げます。

お見事でした。


読んでいただき、ありがとうございます。

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