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国立近代美術館でパリと東京と大阪のモダン・アート・コレクションを見てきました

生前に売れず、どころか、生前に創作活動していることさえ人に知られず、没後に作品が発掘され高く評価された?

そういう人がいたとは、私は今回の展示を見るまで知りませんでした。

詳しくは後半で、

先日、東京の北の丸公園にある国立近代美術館で開催中の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」展に行ってきました。

この企画展は、パリ(市立近代美術館)、東京(国立近代美術館)、大阪(中之島美術館)の3つの美術館が共同して各館のコレクションから主題や内容や背景に共通点のある作品を選び、選ばれた3作品を組み合わせて展示することで「見て、比べて、話したくなる」ことを目指した展示会です。

全150点の作品を7章34組に分け、総勢110名の作家による絵画、彫刻、版画、素描、デザイン、映像が展示されています。


最初の組を紹介しますと、

パリ・東京・大阪の美術館がそれぞれの開館当時に手に入れた作品群を調べてみたところ、偶然にも3館とも「椅子に座る人物像」の作品が含まれていたということでタイトルは、

「1.コレクションのはじまり」

パリからはロベール・ドローネー(1885-1941)の作品。

色彩が鮮やかで円がやわらかな印象、一見したところ抽象画のようにも見えますが、目がなれてくるとテーブル、本、鏡、椅子に座る人物、タオルが見えてきます。

鏡台の前の裸婦(1915年) wikipediaより

東京からは安井曾太郎そうたろう(1888-1955)による肖像画。

日本の近代を代表する洋画家として渡欧して学び、帰国後にチャイナ服を着た日本人女性を西洋風に描いてます。壁と床の背景色も美しい。

金蓉(1934年) wikipediaより

大阪からは佐伯祐三ゆうぞう(1898-1928)の代表作。

まだ30歳という若すぎる晩年にパリで描かれた絵。郵便配達人は歩き回って一休み、身体から出ているのは湯気か、オーラか、後光かな?

郵便配達夫(1928年) wikipediaより

この3つの絵から始まり34組目まで、見ごたえたっぷりの素晴らしい企画展でした。

もう一組紹介します。

公式図録によりますと、かつては芸術的な絵画や彫刻作品はハイ・アートといい、ポップ・カルチャーやキッチュ(通俗的)なものはロウ・アートといって区別されていたようですが、現代においてそのふたつの対立には特に意味がないらしくポップだろうとキッチュだろうといいものはいいわけで、そのあたりの作品を並べたタイトルが、

「32.ポップとキッチュ」

大阪からは森村泰昌やすまさ氏のセルフポートレート。

(今回の企画展には来ていませんが)ゴッホがルーラン家の次男を描いた「カミーユ・ルーラン」という肖像画があり、その絵の中で次男カミーユは大きめの帽子をかぶりダボダボの服を着て、いやいや絵のモデルになっている気持ちが視線や表情に現れています。異なるバージョンの絵もありますがどの絵もおだやかな表情ではありません。

森村泰昌氏はこのゴッホが描いた絵になりきって自撮りした写真を作品としています。

今回、展示されていた作品はこちら

カミーユに変装した森村泰昌氏はゴッホの絵よりもさらにふてくされ感が増しています。


東京からは奈良美智よしとも氏の作品。

奈良美智氏の作品は少女が作者の自画像であり、見る人にとっての鏡像、どう解釈するかは見る人に委ねられています。

今回、展示されていた作品はこちら

そして、奈良美智氏はインタビューで創作することは「生み出す」というより「身体を切り取る」ような感覚と答えています。実際に大きな作品の前に立つと、大変な気合いと労力で描いていることが絵から伝わってきます。


パリからはヘンリー・ダーガー(1892-1973)の作品。

ヘンリー・ダーガーは3歳で母を亡くし15歳で父を亡くし幼少期はほぼ施設で育った後、低賃金の職でほそぼそと食いつなぎ、老後は身寄りのない下宿人として生涯を終え、部屋にはガラクタだけが残ります。

しかし、残されたガラクタの中には誰にも知られることなく描き綴られた膨大な量のテキストと挿絵があり、その作品を芸術に理解のある大家さんが発掘します。

試しにその作品を専門家へ見せたところ高評価され、ついには研究対象となり、やがてパリ市立近代美術館へ所蔵されることになります。

そのパリ市立現代美術館に所属された作品の一部が日本へ来て、今回東京(近代美術館)で展示されていたというわけです。

どのような作品かというと、今回展示されていた作品とは異なりますが、雰囲気が似ている作品の動画を見つけたので添付します。再生時間は25秒(全部見ると約4分)で作風がおおよそわかっていただけるかと思います。

ヘンリー・ダーガーのように、正規の美術教育を受けていない作者の作品は一般的にアウトサイダー・アートと呼ばれているそうですが、この用語を差別的な意味に捉え不快に感じる人もいるようで、そういう場合はアール・ブリュットと言い換えるそうです。

ポップでキッチュな作品も調べてみるとシリアスでした。

 

読んでいただき、ありがとうございます。

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