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「ねじの豆知識」 “超強度”14.9六角穴付ボルト Vol.2

私たち藤本産業は締結資材「ねじ」の専門商社です。「ねじ?だけ?!」と思われるかもしれませんが実はファスナーには奥深い世界が広がっています。私たちが取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しながらその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。

今回は「“超強度”14.9六角穴付ボルト」の第二回としてその特徴の「耐遅れ破壊特性」についてご紹介いたします。

Vol.1 14.9超強度六角穴付ボルトとは?
Vol.2 耐遅れ破壊特性
Vol.3 疲労破壊耐性
Vol.4 耐候性


高強度と「遅れ破壊・水素脆化」


「遅れ破壊」という言葉をお聞きになったことはありますか?通常、鉄鋼材料は大きな力を受けると変形したのち、破断したり、破壊されたりしますが、「遅れ破壊」は異なります。例えば、高度経済成長の時代に、鉄骨を繋ぎ止める静的応力下の高力ボルトが、ある時間経過後に突然脆くなったように破壊する現象(このような破壊のしかたを脆性破壊と呼びます)が問題になりました。まだ「遅れ破壊」についての認識が十分でなかった時期のことです。このように、ボルトなどの鉄鋼製品が突然、目に見えた変形をすることなく脆く陶器が割れるように破壊される現象全般を指して「遅れ破壊」といいます。

ボルトは引張強さが 1 200N/mm²以上になると遅れ破壊感受性が強くなる(つまり原因となる事象が生じたときに遅れ破壊しやすくなる)ことが知られています。高強度化するほど遅れ破壊発生の危険性が高くなるため、耐遅れ破壊特性を改善することはもっとも重要な課題の一つであると言われています。

この「遅れ破壊」は材料への水素の吸収と拡散の結果として金属が脆くなり発生する、つまり水素が関係しているため「水素脆化」と呼ばれています。この水素脆化は,製造時や使用時に侵入した水素原子が応力集中部に集まり、その部分の原子状態を変化させることで起こると考えられています。

脆化が起きるのは、吸収された水素の量、材料の微細構造、および材料に加えられた応力という三つの要素がそろった時であることが分かっています。しかしながら、何しろ相手は最も小さな元素である水素ですから、その振舞いを厳密に測定して解析するのは非常に困難で、残念ながら「水素脆化」の過程は完全には解明されていません。

金属内に侵入した水素が粒界面に集り粒界破壊を生じさせる。

この厄介な「水素脆化」を抑える方法として、水素と強い相互作用を持つ微細粒子を材料に持たせ水素をトラップ(捕捉し固定する)するというものがあります。こうすれば水素が亀裂の先端部に行けなくなるので、水素を無害化することができると考えられ成果を上げています。

侵入水素量及び拡散性水素量

14.9超強度六角穴付ボルトには「耐遅れ破壊特性」に優れた㈱神戸製鋼所の高強度ボルト用鋼「KNDS4」が使用されています。

推奨強度1,000~1,200N/mm² のクロムモリブデン鋼(六角穴付ボルトの材料として一般的)SCM440と推奨強度1,300~1,400N/mm²のKNDS4の侵入水素量及び拡散性水素量を比べたグラフにご注目下さい。

拡散性水素
遅れ破壊・水素脆化を引き起こす金属材料に取り込まれた水素。金属素材に取り込まれ常温で放出される。

KNDS4とSCM440のそれぞれの侵入水素量及び拡散性水素量の測定結果です。同一条件で水素チャージした場合KNDS4はSCM440よりも侵入する水素の量が少ないことがわかります。
更に、KNDS4はSCM440に比べ鋼中でトラップされる水素量が多く、遅れ破壊発生の原因と考えられる拡散性水素量が非常に少なく水素脆化が起きにくくなっていることが読み取れます。

限界拡散性水素量

「KNDS4」と「SCM440」の限界拡散性水素量のグラフもご覧ください。「限界拡散性水素量」とは鋼材が遅れ破壊を起こさない上限の拡散性水素量を意味します。

KNDS4とSCM440の限界拡散性水素量を比較すると、
KNDS4 (TS:1,500N/mm²級) >SCM440(TS:1,200N/mm²級) です。
KNDS4はより上限の高い拡散水素量を持っており、優れた耐遅れ破壊性を有していることが理解できます。

「KNDS4」の鋼種設計

14.9高強度六角穴付ボルトに用いられている㈱神戸製鋼所の「KNDS4」はなぜこれほど優れた性能を持っているのでしょうか?
なぜなら耐遅れ破壊特性の改善を目的として 
①侵入水素の低減 
②水素のトラップサイトの増加 
③限界拡散性水素量の向上 
を図った鋼種設計がされているからです。少し詳しく見てみましょう。

どうぞ化学成分表をご覧ください。

一般に六角穴付ボルトの製造に使われるSCM鋼には含まれないチタン(Ti)やバナジウム(V)が「KNDS4」には添加されていることに気付きます。チタン炭化物(TiC)やバナジウム炭化物(VC)の微細粒子は大量に水素をトラップする機能を持つことが発見されたからです。さらに熱処理などで析出物粒子をナノ化することにより水素を効果的にトラップすることも見出されており、添加されたTiやV、モリブテン(Mo)は結晶粒のナノ化に貢献しています。

SCM材では不純物のリン(P)・硫黄(S)を極力減らしP・S の粒界偏析を促すマンガン(Mn)を減らすことにより粒界強化を図ります。KNDS4はこの点をさらに追求していることも化学成分の比較表からお分かりいただけると思います。

また、KNDS4は粒界強度の向上のため高温での焼戻しを行います。高温での焼き戻しを行い Mo・Ti・Vの複合炭化物を析出させるため、SCM440に比べ高い強度が得られます。

これらの改善点をチャートにまとめると

ここまでお読みいただきありがとうございます。業界外の方にとっては耳慣れない用語がたくさん出る専門的な話が続いてしまい少し難解だったかもしれません。14.9六角穴付ボルトは優れた耐遅れ破断特性を持つ高強度なKNDS4で製造された、大変優れたファスナーであることがお分かりいただけたでしょうか?

第三回は「ねじの疲労破壊(疲れ破壊)」に焦点を合わせてお話ししたいと思います。


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