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結局いちばん通いやすいのは、近所のカフェ。千川の「sakiya cafe」

私は文章を書くのが好き。それにカフェへ行くのも好き。それならば自分の好きなカフェを紹介するブログを作ろう!と一念発起したのが7ヶ月前。しかしこれまで書いた5つの記事のうち、3件が旅先で訪れたカフェを紹介した記事。しかも、そのうち2件は海外である。これじゃ旅ブログになってしまうのでは?

そんな不安を抱き始めた頃、夏まで住んでいた街を訪れるタイミングがあった。といっても、以前住んでいた街といま住んでいる街はギリギリ同じ区内。遠出というほどでもないのだが、電車で行きやすい場所でもないし、特別訪れる用事もない。もう行くことはないかもしれないと思っていたのだが、その街にはひとつだけ心残りがあった。毎週のように通いつめた、居心地のよい最高のカフェがあったのだ。

穏やかな空気の流れる、アットホームなカフェ。

その店の名前は「SAKIYA CAFE」。千川駅から徒歩数分、要町通り沿いの古いビルの一階にひっそりと佇んでいる。

私が住んでいたのは、厳密には千川ではなく要町なのだが、なんせこのあたりにはカフェが少ない。コーヒーを飲みたければ駅前のドトールかデニーズ、といった侘しさだったのだが、ある日夫(当時は彼氏)と散歩をしているとき、SAKIYA CAFEの看板を見かけた。あいにくその日はお休みだったのだが、ガラス越しに見る店内は良い意味で雑然としていて、この店に入ってみたいと興味をそそられた。

ちなみに、SAKIYA CAFEは不定休。その上、ホームページやSNSなどを持っておらず、営業日はお店へ直接訪れて、「今月のお休み」の書かれた黒板を確認するしかない。そのため、きょうはSAKIYA  CAFEへ行くぞ!とウキウキしながら足を運んでも、シャッターの降りた店の前で地団駄を踏むようなことが何度かあった。そのせいか、お店の前にはよく黒板の写真を撮る人々が現れていた……。

店内はあまり広くなく、厨房を囲むように設置されたカウンターテーブルと、奥にテーブル席が2つあるのみ。そのせいか調理器具やテイクアウト商品、ディスプレイがゴチャッとしている印象を受けるが、不思議と統一感があってオシャレな空間に仕上がっている。言うなれば、ミニシアター系の映画のレトロなセットのような、クラスのかわいい女の子の実家のような……。オシャレなのに気取った感じのしない、落ち着ける空間になっているのだ。

この店から当時の私たちの家までは徒歩5分ほどの距離だったため、私と夫はほんとうによくここを訪れた。出かける気の起きない日にも、すっぴんに髪をとかしただけの姿でランチを食べに来たり、夫の知人が家を訪れたとき、慌てて私だけ外へ出てコーヒーを飲みにかけこんだり。

夫が1人で暮らしていた1Kのアパートに、押し掛け女房的に私が転がり込んだのがきっかけで始まった、要町での同棲生活。久しぶりに訪れたこのカフェで、さまざまな思い出が駆け巡る……。

しかし、そんな甘酸っぱい思い出以上に忘れ難かったのが、この店の料理たち。店主のサキさん(ひとりで店を切り盛りする、クールで手際のいい女性だ)手作りのメニューはどれも絶品で、私はほかのどのカフェもSAKIYA CAFEの料理には敵わないと思っている。

特に私が夢中になったのが、お店のオーブンで焼かれているキッシュ。食べかけの写真で申し訳ないが、この断面のボリュームを見ていただきたい! メニューは毎日変わるが、基本的にキッシュの中身はボリューム満点。この日のキッシュは、たっぷりのほうれん草と香り高いナッツのキッシュ。食べた瞬間、これ!この味!と叫びたくなった。ほどよいクリーミー感と、しつこすぎず飽きの来ないシンプルな味付け。ほかのカフェでキッシュを頼んでも、似たものに出会ったことは一度もない。

ちなみに夫は、日替わりメニューからホットドッグを注文。本場ドイツを思わせる大きなソーセージを、SAKIYA CAFE名物の丸パンで挟んだこちらも絶品であった(ちゃっかり一口もらった)。ちなみにこれは夫が「俺も撮りたい」と言い、食べ物の撮影は高さを出すのが重要と意識しながら撮ったもの。ホットドッグにはその撮り方向いてないだろ。

そしてデザートは、これまた私の忘れられない味、豆腐入りクリームチーズの乗ったどっしりとしたキャロットケーキ。ボリュームがあるので、ランチを抜いてこれだけお昼にする日もままあった。初めてこの店でこのキャロットケーキを食べたら本当においしくて、ほかにもデザートメニューはあるのだけどほかのものを注文したことがない。それくらい大好きな一品だ。にんじんの甘みが凝縮されたケーキに、豆腐が加わったことでさっぱりとした味わいになったクリームチーズの相性は抜群。濃厚なカフェラテにもよく合う。


かつて足繁く通ったカフェの馴染み深い味わいと雰囲気を堪能しながら、でもこれからはいままでのように通うことはできないのだな、と寂しい気持ちになった。以前カフェへの愛を語った記事で、居心地がいいとか料理がおいしいとかあれこれ良いカフェの条件を並べたが、結局のところいちばん通いやすいカフェは「家の近所のカフェ」なのだ。

特にこのSAKIYA  CAFEは、SNSなどでの宣伝活動を行わず、近所に住む常連さんの通いやすい店として営業している。以前私がひとりで利用したとき、「こんなに長居して、いつまでもおしゃべりしててごめんなさいね」とお客さんに言われたときの店主さんの言葉を思い出す。

いいんですよ、ここはみなさんのリビングなので

この一言に、店主さんのお店への想いが詰まっているような気がする。過度なサービスはなく、けれどいつまでもダラダラとおしゃべりしていたくなるような落ち着いた場所。訪れるために気合いを入れるような店ではなくて、部屋着にコートを羽織ったような格好で訪れられるような気楽な場所であることが、この店のモットーのような気がするのだ。

なぜすべて予想なのかというと、店主さんと個人的に話したことは全くないからである!偉そうに言うな。 そう、私のような人見知りで、お店の人とのコミュニケーションすら苦手な人間にさえも居心地よく感じさせるカフェこそ、「アットホームなカフェ」と言えるのではないだろうか。

引っ越し先の近所にもこれほど落ち着けるカフェを見つけるべく、無駄に近所を歩き回る日々は続く……。

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