小さな苦悩

外に出ると、よく道を聞かれる。

金沢が大いに観光地化したのにも関係があるが、いや、その前から、しょっちゅうなのだ。

私が車を…以前に車の免許を持っていないのも原因かもしれない。

学生時代からバイトに明け暮れ、仕事をはじめてからは日々に忙殺され心身に受けたダメージから回復し、の繰り返しですっかり取り損ねて今に至る私を、友人…もとい知り合いの域を出ない人たちは天然記念物扱いしたり「大人としての資質に欠ける」と揶揄したりする。

車での移動の機会が少なくなるから、当然、道を歩く頻度は高くなる。

それにしたって、多いのだ。

他にも人はいるのに。

はるか遠くの方からロックオンされた感覚がある。その視線が近づいてくる。キタキターと思っていると「あのぅ、すみません」と声をかけられる。なんで私めがけて?美人だからか?(調子に乗りましたスミマセン)

おそらく、私のほうから先に見ていることも多いのだろう。あの人、どうしたのかな。迷っちゃったのかな。あぁ、そっち違うのにな。大丈夫かな。だから違うっつってんのに…あぁ、もぅ!余計な心配しなきゃいいのに、ハラハラして見てしまう。で、毎度手助けすることになる。

人助けしてめでたしめでたし、で終わればよいのだが、いかんせん、私は方向音痴である。ふらりと散歩に出かけて、いつもは行かない道を歩きたくなって、さぁ気が済んだ、家に帰ろう。ん?我が家はどっちだっけ…うん、右な気がする!そうそう、たぶんこっちだ…で、とっぷり日が暮れてしまったことが何度かある。

そんな、人の心配してる場合じゃない危険人物なのに、旅行先でも、出張先でも、人々は私に道を尋ねる。

「名古屋城はどっちですか?」

…あちらの観光客の方についていけばわかると思いますが…

「この電車、両国へ行きます?」

…えーっと、一緒に路線図見ましょうか。(←総武線使ってたくせにすぐ答えられない)

「◯◯ってお店に行きたいんですけど…」

…ごめんなさい…

なんだか申し訳なくなってくる。

おまけに最近は店員やスタッフに間違われることも増えてきた。

知らないオジサンがやたらフランクな感じで商品のありかを聞いてくる。

…あの、私にはわかりかねますが…

「アンタがわからんかったら他に誰がわかるって言うんやいね〜」

オジサンは目の前の女性が自分と同じ立場だということを一向に納得してくれない。

上品な感じのご婦人が病院の精算機でのカード払いの仕方をしきりに尋ねてくる。

…このボタンを押して、ここにカード入れて、表示が出たら暗証番号押して…

「あのね、今度入院費をカードで払おうと思うの。この機械でもできるのよね?私、うまくできるか心配だから、あなたに先に聞いておこうと思って」

ずいぶん前から病院で働いているような錯覚に陥る。

一方、金沢で買い物に行ったら行ったで、最近は「東京の人かと思いました」と言われる。観光客という大きな括りではなくて、たいてい「東京の人」限定で間違われる。やっぱり洗練されてるからかしら。(調子に乗りましたスミマセン)

さらには、「親友に似てる」「イトコに似てる」あたりも、よくある。

これについても心中フクザツで、親しみや運命的なものを感じてもらえるのは嬉しいのだけれど、ひょっとして私ってどこにでもいる容姿なんだろうかとか、最近個性が埋没しちゃってるんだろうかなんて考えはじめると、悶々としてしまう。

私ってそんなに何でも知り尽くしてる顔して歩いてるんだろうか、とか思うとそれこそフクザツである。

よく「隙がない」とか「デキそうに見えるから損してる」などと言われるが、それと関係があるんだろうか。

デキる分野とそうでないものの落差がありすぎて不自由を感じることはざらだし、なにより本人は隙だらけの人間だと思っているのに、人の評価とはわからんものである。

「あなたが賢そうで優しそうだから、みんな頼りたくなるんじゃない?」と言ってくれた人の言葉が励みだったりする。

で、客観的に読み返したら、ものすごく自意識過剰なヤツに思えてきた。調子に乗っててスミマセン。


よろしければサポートお願いいたします。いただきましたサポートは、ますますのスキルアップとその還元のために大事に使わせていただきます。