アルバイトな日々を振り返る (1)はじめてのアルバイト


学生時代から、結構な数のアルバイトを経験してきたほうだと思う。

そんな体験談のシリーズ化を試みたいと思う。

既に何度か言及しているとおり、我が家はなかなかの困窮っぷりだった。そんな中でも私立に進んでしまった私は、申し訳なさをどうしても抱えていた。それでも母は「学生の本分は勉強!」と、私を暗に守ってくれた。

はじめてのアルバイトは高校3年の冬休み。年賀状の仕分けだった。推薦入試で既に大学進学(また私立)が決まっていた私は、上京費用の足しという名目で解禁されたアルバイトに心躍らせていた。学校に出す許可願を書く時でさえ、ウキウキしていた。お小遣いを自分で稼ぎ出す頼もしい同級生たちをずっと横目で見ていたが、ようやく私も教室で「バイトがさぁ~」と言えるようになるのだ。(ただ残念なことに、冬休みだったが)

民営化前の郵便局でのバイトだけあって、最低賃金スレスレの時給だったと思う。それでも学生生徒たちからの人気は根強く(それぐらいしか選択肢がなかったというのも大きいが)、中学以来の懐かしい顔ぶれも多く見かけた。中でも、内勤ではなくバイクで雪の中を颯爽と配達に出かける同級生男子は、3年間染まった女子校生活も相まって、なんだかすごく男前に見えた。

ある日のこと。仕分けする部屋の通路に、切手が落ちていた。糊が甘くて剝がれてしまったのだろう。何を隠そう根がマジメな私は、どうしても見過ごせなかった。それを拾い上げて見せながら、近くの局員に「あの~、落ちてたんですけど、どうしますか?」と聞いた。若手と中年の間ぐらいの気怠げな男性局員の答えは「ああ、いいよいいよ。捨てちゃって」だった。切手を持ったまま、しばらくその場でフリーズしてしまった気がする。

「ああ…残念だけど、しょうがないよね」なら、まだわかる。私としては「後からハガキが出てくるかもしれないから、とっておいてくれる?」が理想だった。「それは大変だ。一緒に探してくれるかな?」だったら、彼との間で何かが芽生えたかもしれない。それを…捨てろ……だと……?

しかも。
彼と周囲の局員は、たびたび仕分けの手を止めては、年賀状の文面を大声で読み上げゲラゲラ笑い、写真や絵を見てはクスクス笑う、を繰り返していた。
大の大人を心底軽蔑したのは、この時が初めてだったかもしれない。

郵便局では 「あるある」 なのかもしれない。剥がれた切手とその相棒の行方にいちいち付き合っていたら、とても仕事にならないのかもしれないし、単調で緩慢な(と思っている人々の)毎日にとって、ストレス発散は必要だろう。
でも、数年後にこの件を思い出したとき、「そりゃ、民営化なんて話にもなるわな」と、妙に納得してしまった。

その民営化を後悔する声が多いなか、発端は自分たちにもあったかもしれないと、件の彼や同僚たちは今、果たして思い至っているだろうか。

はじめてのアルバイトは、「大人って、大人ばっかりじゃないんだな」をうっすらと感じた、18歳の冬だった。 



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