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戦争とジュエリー


 「本当はもっとあったのよ。お国にほとんど持ってかれたの。」
祖母が小さなジュエリーボックスを、大事に抱えながらぼそっと呟いた。悲しいとも悔しいとも、なんとも言えない表情が祖母の顔に浮かんだ。

 これが私の記憶に残っている、唯一の戦争体験記だ。これほど自分ごととして胸に響いた話しはない。

 広島で育ち、たくさんの悲惨な戦争体験記を聞いてきた。正直具体的な内容まであまり覚えていない。戦争の話を聞いてくるという宿題で、知り合いのおばあちゃんから話を聞いたりもした。聞いたことは覚えていても内容をあまり覚えていない。

 祖母との会話は何気ない日常会話から始まった。「おばあちゃんの持っているジュエリーが見たい!」好奇心とガールズトーク的な始まりで、キャッキャしながら覗き込んだジュエリーボックス。そこからの祖母のこの一言。

 「本当はもっとあったのよ。お国にほとんど持ってかれたの。」

 遠い昔の自分には関係のない話しではなく、目の前の祖母という女性が体験したリアルな話し。「お国」という言葉も、映画や本で聞くセリフではなく、実際使っていた言葉としての重みがあった。

 自分だったらと思って胸がぎゅっとした。ある日突然政府の人が来て、自分の大切な思いれのあるジュエリーを差し出せと言われたら。婚約指輪、結婚指輪、母からもらったパールのネックレス、友人からプレゼントされたバカラのネックレス。そのジュエリーは二度と戻ってはこない。想像するだけに辛い。

 祖母のジュエリーボックスはとてもすてきだった。色とりどりのジュエリー達。でも、それを見る度に、取り上げられた大切なジュエリーを思い出すのだろう。私も祖母の形見に指輪を一つもらった。それを見る度に祖母のことを、この戦争の話しを思い出す。

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