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【書評】『デンマークのスマートシティー』(中島健祐、2019年)を読んで。

▮ 読後感

 データドリブン、デザインドリブンでソーシャルデザインが進むデンマーク。エストニアとは双璧です。産官学の三者共創から、市民を交えた産官学民の四者共創のモデルづくりが進むと述べらえています。

 PPP(公民連携)から、PPI(パブリックイノベーション)へ。

 その先にあるIPD(知的公共需要)へ進展する共創モデル。
 既存の社会で生み出された課題は既存の枠組みで解決を図るのではなく、枠組み自体をシフトしなければならないんだと感じます。まさにソーシャルトランスフォーメーションのためのソーシャルデザイン。ソーシャルデザインによる一人ひとりの生活の豊かさの実現。

 本書はいい本だと思います。前から気になってたのですが、ちょいと高い本なので躊躇してました。買って良かったかな。

▮ 注目した個所(抜粋)

●労働市場の柔軟性は、雇用主が雇用と解雇をやりやすくすることで、労働力の構成を柔軟に変更でき、経済情勢や産業構造の変化に迅速に対応した組織を再構築することができる。したがって、デンマークでは産業としては衰退しているにもかかわらず、雇用を守るために存続するゾンビ企業はほとんどない。
一方、簡単に解雇されるリスクがあるということは労働者にとっては不安要因である。そこで失業者には最長2年間の所得補償が失業保険ファンドから支給される。特に低所得者層への支援は厚く、最大で前職給与の90%が支給される。
(p54)

●エストニアは1991年にソ連から独立したとはいえ、常にロシアからの侵略の脅威にさらされており、国家基盤を電子化することで、たとえ国家が他国に占領されたとしても、電子国家として存続できるように戦略的にデジタル化に取り組んできた歴史がある。
デンマークは社会保障先進国としての社会基盤を維持するために、エストニアは国家そのものの持続可能性を実現するためにデジタル化を強化していることは興味深い。おそらく将来は両国のデジタルモデルを統合した国家システムがスタンダードになるのではないだろうか。
(p106-107)

●ハーマーセンが以前、次のように語ってくれた。「Think globally,act locally(地球規模で考え、地域で活動する)」ではなく、これからは「Think locally,act locally(地域単位で考え、地域で活動する)」が重要だと。なぜなら、地域の発展が各地で起これば、それがグローバルの発展につながるが、グローバルな発展が各地域の発展につながることは難しいからだと。
(p120)

●オーフス市の都市開発ではさまざまな利害関係者を巻き込んで行うため、行政、企業、市民グループを直接プロジェクトに参画させ、都市問題を解決する手法を開発するために予算が充てられた。
このプロジェクトの目的は、いかにEaaS(Experimentation as a Service、サービスとしての実証実験)を立ち上げることができるかだった。EaaSは日本では聞き慣れない用語であるが、地域の問題を解決したいと考えている市民などの主体が、行政、都市問題の専門家、技術などを有している企業と一緒に小さな実験を行い、解決するためのソリューションが最適かどうかを見極めるための手法である。要するに、市民が実証実験をまるでサービスを購入するかのように利用できるシステムである。
それまでは市民が地域の問題を発見しても、行政に報告し改善を要求することしかできなかった。自治体は多くの問題を抱えているので、依頼された問題が地域全体に関わるものや優先順位の高いものでない限り取り組まない可能性もある。しかし、もし市民が自ら実証実験を行い、想定したソリューションの導入効果が明らかになれば、行政のもその効果を理解して予算化を検討するかもしれない。行政も自分たちでは気がつかない問題を知るきっかけにもなるだろう。
(p194-195)

●コペンハーゲン環境技術クラスターが特に力を入れて取り組んだのが、「トリプルヘリックス(Triple Helix、デンマーク型産官学連携)」である。・・・一見すると、日本の産官学連携と同じようなものだが、似て非なるものだ。日本の産学官連携はどちらかというと二者間の連携で・・・ある。
一方、デンマークで行われているトリプルヘリックスは、三重螺旋の言葉通り、公的機関、民間企業、研究機関がダイナミックに連携してプロジェクトを実行する。このトリプルヘリックスの中心にはクラスターが配置される。日本のクラスターと若干異なるのは、クラスターを構成する人員には官庁や自治体の行政経験者、新規事業やプロジェクトマネジメントに精通した民間企業の出身者、そして先進技術とその技術を社会に実装する際の課題や進め方に精通している研究者が含まれていることだ。
(p224-225)

●PPPの発展系として近い将来、コペンハーゲン環境技術クラスターで実証されていたIPD(Intelligent Public Demand、知的公共需要)というアプローチが活用されるようになるかもしれない。IPDはPPPから進化した「公民イノベーション=PPI(Public Private Innovation)」に似ている概念と捉えられているが、IPDはPPIをより洗練させたしくみである。
IPDは社会課題の抽出からソリューションの開発、そして導入まですべてのプロセスを含んだシステマティックな公民連携の革新プロセスである。
(p228)

●ユーザー・ドリブン・イノベーションの問題は、ユーザー自身が認識できるものには対応できるが、ユーザーが経験していないもの、認知していないもの、製品の技術や特性の本質に気がついていないものについては対応が難しいことだ。
・・・デザイン・ドリブン・イノベーションは、観察を通じてユーザーの理解を大切にしながらも、モノの「意味づけ」を追求してイノベーションを実現する方法である。ユーザーが使いたいモノを提供するのではなく、技術のイノベーションを伴いながら、その製品やサービスに「意味のイノベーション」を誘発すること、ユーザーにとってなぜ必要なのか? 自分にとってそれはどんな意味があるか? という問いかけを通じて新たな「解釈」や「価値」として提供し、製品・サービスのみならず社会における変革をもたらそうというものだ。
(p240-241)

●現在の社会システムが生み出した課題は、社会システムを変えない限り解決することは困難なので、ソーシャルデザインが必要とされているのである。
(p247-248)

●今後の予定は「トリプルヘリックス(産官学連携)」に市民を加えた「クワトロヘリックス(産官学民連携)」の推進だ。デンマークでも人間中心の社会を構築する上で、今まで以上に市民の参加が求められている。札幌市には日本でいきなり市民にエネルギープランの議論に加わってもらうことは敷居が高いこともあるので、まずフューチャーセンターを市中心部に設置し、市民の声を行政の近いところで吸い上げるしくみを提案している。
(p278)

●本書でも触れてきた通り、各国の社会システムは長い年月をかけて文化風土とともに形成されてきたものであり、他国の経験を闇雲に導入しようとしても必ず弊害が起きるだろう。
その前提を踏まえた上で、地理的にも遠い北欧デンマークの知恵は、その本質的価値を抽出し、本来はデンマークよりはるかに先進的かつ高度な精神文化を有する日本に調和する形でなければ安易に導入するべきではないだろう。
(p287)

▮ 目次

はじめに
1章 格差が少ない社会のデザイン
1 格差を生まない北欧型社会システム
2 税金が高くても満足度の高い社会を実現
3 共生と共創の精神
4 課題解決力を伸ばす教育
5 働きやすい環境
6 格差がないからこそ起きること

2章 サステイナブルな都市のデザイン
1 2050 年に再生可能エネルギー100 %の社会を実現
2 サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進
3 世界有数の自転車都市
4 複合的な価値を生むパブリックデザイン

3章 市民がつくるオープンガバナンス
1 市民が積極的に政治に参加する北欧型民主主義
2 市民生活に溶け込む電子政府
3 高度なサービスを実現するオープンガバメント
4 サムソ島の住民によるガバナンス

4章 クリエイティブ産業のエコシステム
1 デンマーク企業の特徴
2 世界で活躍するクリエイティブなグローバル企業
3 デジタル成長戦略と連携して進展するIT産業
4 スタートアップ企業と支援体制
5 新北欧料理とノマノミクス

5章 デンマークのスマートシティ
1 デンマークのスマートシティの特徴
2 コペンハーゲンのスマートシティ
3 オーフスのスマートシティ
4 オーデンセのスマートシティ

6章 イノベーションを創出するフレームワーク
1 オープンイノベーションが進展する背景
2 トリプルヘリックス(次世代型産官学連携)
3 IPD(知的公共需要)
4 社会課題を解決するイノベーションラボ
5 イノベーションにおけるデザインの戦略的利用
6 社会システムを変えるデザイン

7章 デンマーク×日本でつくる新しい社会システム
1 日本から学んでいたデンマーク
2 デンマークと連携する日本の自治体
3 北欧型システムをローカライズする
4 新たな社会システムの構築
おわりに

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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