本書は、世界経済フォーラムを立ち上げ、現在も会長として主宰するクラウスシュワブ氏による。ダボス会議といった方が知名度が高いかもしれない。
そのシュワブ氏が、50年以上前に提唱した資本主義の概念が「ステークホルダー資本主義」であった。その概念に基づく経済システムの普及を図るために、世界経済フォーラム(前身の欧州経済フォーラム)を立ち上げたと言っても過言ではないのだから、本のタイトルにもなっている本書は、氏の渾身の一冊と言っていいかもしれない。
簡単にステークホルダー資本主義を述べると、新自由主義的な資本主義ではなく、国家資本主義でもなく、さらに言えば懐古的なコミュニティ重視の資本主義でもない。株主だけでもなく、国家だけでもない、そしてグローバル化以前の地域コミュニティだけでもない、人間と地球のための資本主義と言っていい。いわば、人間や地球を含む全てのステークホルダーのための資本主義である。
本書は、様々なビジョンと示唆に富む。いくつもの先進的事例が紹介されるが、私はデンマークの「フレキシキュリティー」の施策や、ニュージーランドが始めようとしているGDPに変わる新しい指標などについて特に注目した。
日本における「新しい資本主義」も似たような概念なんだろうと思う。けど、こちらの方が本家本元と言っていい。日本の「新しい資本主義」は、このステークホルダー資本主義をなぞったものだと本書を読んだ後、感じるようになった。それはそれで世界の潮流に乗っているということで評価すべきだろうと思う。
日本では、「三方よし」という近い概念があるが、その概念にある「世間」というのはどちらかというと「地域社会」という意味合いが強いような気がする。そうした点からすると、グローバル経済の中で、社会や政府・公共、環境などを幅広く捉え直すことの必要性もまた感じるのである。
本書で一つだけわからない箇所があった。それは、ステークホルダー資本主義に取り組むためには、ある程度の成功や余裕がなければできないのではないかということである。本書においてももちろんそうした事柄は触れられている。しかし例に出されるようなセールスフォースなどのケースでは、そもそもセールスフォース自体がかなり成功した企業であるということだ。地域の企業やスタートアップ企業にとって、そうした余裕がない中で、どうやって資本を獲得するのか。投資家がきっと新しい発想になるべきなんだろうと思うし、ブラックロックCEOもそうした考え方を第一においているとなると、それは遠い未来の話ではなくなるのかもしれない。
近未来のあるべき姿を描いた本書は、ぜひ多くのリーダーやリーダーを目指そうとする人に読んでもらいたい一冊だ。さらに言えば、既存の社会システムを構築してきた人が、こうした新しい概念を受け入れるための柔軟性を獲得するために読んで欲しい。
◇気になった箇所
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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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