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【書評】『MIRATUKU FORUM ARCHIVES 2016-2019 ~ミラツクが500人と考えた未来のこと~」(NPO法人ミラツク、2021年』を読んで。

▮未来を考えるため。社会課題を考えるための一冊。

「未来をつくる」を団体名の由来とするNPO法人ミラツク。代表理事の西村勇哉さんは、毎年のように面白い人を集めてフォーラムを開催されています。

本書はそのフォーラムの書き起こし。2016年から2019年の4年間の講演録です。

話されている中身は本当に濃い。未来を構想するために重要なことはなにか?社会課題を捉えるときに必要な視点は何か? そうしたことを考えるために素晴らしい思想書であり、実践に向けた啓蒙書と言えます。

Amazonなどでの販売はされておらず、限定500冊だけの出版。

今年の1月初旬に自宅に届いてほぼ毎日読み込むものの、600ページを超えるボリュームで、内容も濃いのでなかなか進みません。。1カ月半かけてようやく読了することができました。

書評と言いながら、ほぼ何もそれらしきことは書けませんので、まずは手に取って見て頂くのが一番だと思いますが、少しだけ思ったことを書き残しておきたいと思います。

▮課題の解決策よりも、課題をつくる重要性

たまたま今じぶんが考えているのが、社会課題をどのように集めていくのか、そしてそうした課題をどのように効率的に解決していくことができるのか、ということです。

そのために、行政と民間企業が官民共創のパートナーシップを結び、課題を解決する枠組みを仲間と共につくろうとしています。(逆プロポの取り組み) 
「逆プロポ」の取り組みは自分でいうのもなんですが、画期的だと思っています。ただ、この「逆プロポ」は何が画期的なのか、十分に自分の中で言語化でてきないとも感じています。

地域・社会課題とその解決策をマッチングすることは、すでに多くのオープンイノベーションのプラットフォームで展開されています。
しかし、その多くで正直なところうまくいっている印象を受けません。
なぜか。それは一つには、民間企業がたてた課題解決の仮説に基づいたプロダクト(商品)が、自治体が抱える課題解決にマッチしていることもあれば、マッチしていないこともあるからです。

自治体は業務が標準化されています。標準化されてきたシステムが、最近になって一気に多様性を求められるようになっており、生まれてくる課題も標準的なものだったのが、多様になってきています。

一つ一つの自治体で生まれる課題は、個別的、独自性が高いものとなりつつあります。そうした中で、プロダクトアウト思考、行政機関へのリスペクトがないまま、民間企業が課題解決に取り組むとなると、どうしても現場との齟齬、摩擦が生じるのではないでしょうか。

自治体DXの文脈から考えると、標準化されている業務について、民間企業が行政と共創して公共サービスを改善、開発していくことは十分可能ですし、すでに多くの事例が生み出されてきています。
一方で、標準化されていない自治体個別的な事務事業や業務を、どのように民間と行政の共創で解決しようとするのか。

私は、「解決策」を考えるよりも、「課題」をしっかり考え、深掘りすることが、官民共創による地域・社会課題解決にとって、より重要なんだろうなと思います。

そもそも「課題」とは、生み出されるものだと思いますし、最初からそこにあるわけではありません。企業や行政や市民が、それを「課題」と認識(課題感)して、それを「解決しなければ!」ということで、アジェンダ設定を政治家や行政、または民間が行い、はじめてそれは地域課題や社会課題となってきます。

その「課題」は果たして、人を幸せにする課題なのか。その「課題」は、解決すべき課題なのか。

「解決策」を模索することはもちろん重要なのですが、その「課題」に取り組むべきか否か、そもそもどのような「課題」を生み出し定義していくべきなのかが、重要な気がします。
「解決策」は、もう十分世の中にツールが集まっていますし、開発しようと思えば、それはいくらでも生み出すことが可能になってきていると思います。

そんなことを考えることができた一冊だったと思います。
以下、備忘録的に残すメモです。定期的に読み返したい。

▮気になった個所

西村 自分のスペースをつくることによって、自分のパターンに気づいていき、新しいものを創造できるようになることの積み重ねが「ソーシャルイノベーション」って呼ばれるものなのかなって、今自分なりに解釈し始めていたんですけれど、進化って前に進む感じがあるじゃないですか。退化ではなくて、進化していく。つまり、変化すればなんでもいいというわけではなく、進化していくような変化が起こる。もしくは退化に入らないようにするために、同じ変化でも進化のほうに入るような変化の生み出し方。新しかったら進化なのかな。
(p32)

西村 社会課題解決ではなく、社会課題解決の先を目指すのがソーシャルイノベーション。
(p41)

西村 オープンイノベーションにしろ共創にしろ、この「何のために」がないと、結局何のためのオープンかよくわからなくなってしまう。
(p137)

内田 人間って、毎日同じ何かをしていると定常状態で動くようになっていくんです。それは同じオフィスにずっといたり、同じ場所で同じメンバーが集まったりしていると意思決定やいろんな感情が定常化していって、隠されているものがパッと出てこなくなる。
でも場所をちょっと変えることで、それが出てくるようになる。その秘密の場所も、いつもそこで集まっちゃうと、きっとダメなんです。
(p139)

大室 社会課題の多くは、実は市場、つまり企業によって生み出されています。市場の外側から働きかけても問題を解決できないなら、内側から解決するしかない。つまり、企業の努力によって社会課題をそもそもつくらないアプローチが必要だと考えたのです。
例えば、子どもの貧困問題。行政やNPOにできることは「子ども食堂をつくる」といった対応に限られるでしょう。しかし、これはあくまでも対症療法なんです。根本的な解決には、政治的に所得の再配分を促したり、企業が非正規雇用の賃金を底上げするなど、問題を生んでいる社会背景から変えていく根治療法が必要です。そのためには市場や政治のシステム変革が避けられません。そこで企業が果たす役割は非常に大きいでしょう。
(p199)

西村 社会の進化は、ある課題が解決されなければ先に進めない、というものではなく、さまざまな問題や矛盾を孕んだまま前に進んでいくものかもしれないと。
(p200)

西村 人類は脳が発達する過程で死の恐怖や事故を認識するようになり、やがて想像力を手に入れました。そして宗教や信仰が生まれ、人々は神殿をつくるに至った。そこで「ずっと神殿の近くにとどまっていたい」という「欲しい未来像=定住志向」が生まれたわけです。その欲しい未来を実現しようとした結果、移動せずに食料を得る手法=農耕が生まれた。よく考えればすごく自然な流れなのに、どうして今まで気づかなかったんだろうと。
(p203)

井上 今我々が手にしているあらゆるモノや生活様式、文化、言葉、価値観は、日本人が長い時間をかけてニッチに適合してきた結果、存在しているものなんですよね。当たり前すぎて意識すらしなかったこと、疑いすら抱かなかったことに耳を澄まし、気づき、意識化すること――そんな「アウェアネス」が、社会の進化には非常に大事なんだと思います。
(p204)

留目 企業活動とは、社会課題を資本主義の仕組みで解決することだと思います。そういう意味で社会の課題をしっかり理解していなかったり、携わっていく人の気持ちの部分で共有するものがなかったりするとうまくいかないですよね。
(p223)

井上 多様化と標準化は両極にあります。多様であるとイノベーションが起きて新しいものが生み出される。標準化するとシンプルになり大量生産がしやすくなる。結局、両方必要なんです。このパラドックスの中で、いかに両方をできるか。その中で「不快さ」と共にいれるかどうか。脳って中途半端な宙ぶらりんな状態を非常に嫌うので、未決であることは不安を呼び起こしますし、不安が増すと一方を取りたくなる。だけど、移行期においてはこういう不安感もあるものだと受容して、もう少しホールドしたままでいられるか、ということが大事な気がしています。
(p226)

田村 コミュニティが、自分が偉いことを証明する場になると権力構造に転換してしまう。杉下先生がおっしゃっていた価値観や世界観の共有も、二の次になってしまいます。
例えば、学会がまさに良い例なんですよ。多くの学会の長老たちは、自分の権力をいかに保持するかに心血を注いでいるように見えます。そういう政治的な要素はどう切り離すかが、コミュニティデザインを考えていく上で大事なことだと思いました。
(p267)

比屋根 民間主導でいくために僕は2つのことが必要だと思っていて、ひとつは子どものうちに起業家マインドを身に付けること。・・もうひとつは、時間軸の取り方の変化。2~3年では変わらないことも、10年~30年という時間軸を準備すれば、起業家マインドを持つ子どもを輩出しようという状況もつくれるのではないでしょうか。
(p294)

大室 日本の大企業はCSVが大好きなんですけど、CSVではイノベーションを生めないんですよね、実は。「Creating Shared Value」。共有された価値を創造しましょうって論理的に考えるとおかしい。あくまで戦略としてお金儲けをしましょうと言っているだけの話なので。本当に大切なのは、価値じゃなくてビジョンなんですよ。日本のNPOって、実はミッションはあってもビジョンがない組織が多くて、そこは日本のNPOの弱いところかなと思います。
(p297)

大室 「課題」から入るか「やりたい」から入るかって、すごく違いがありますよね。課題にとらわれるのではなく、「どうしたいのか。私はこうしたい」という設定のほうがイノベーティブな動きが出てくるんじゃないかと思います。
(p300)

大室 イノベーションは「中心」からは起きないんですよ。すべて「周辺」から起きるんです。私たちは日々、すべてロジックで説明できてしまう空間に囲まれています。だから「説明しなさい」とか「きっちりやらなければいけない」などと、いつも何かに攻め立てられているような感覚に襲われます。誰も説明できていない空間、言い換えると、これが「ニッチ」な空間ですよね。実は、イノベーションの源泉はそこにあります。何か定義されておらず、誰も住んでいないような領域に出ていくことで、その環境に適応して、そこで「掴む」力を備えるようになる。そういう「ニッチ」な領域の中でも、どこか安心できる空間を探さないと、私たちは成長することができない。つまり。イノベーションを起こすためにオープンにするんだけど、そこには必ず安定したものと、誰もまだ説明できない領域が常に共存している。そこは必ず対の関係なんじゃないですか。
(p377-378)

大室 まず空間を作る作業がイノベーションにおいてはとても重要です。その手段のひとつが、「未来を想像する」ということ。それによって曖昧な世界が生まれます。その上で、まずはその曖昧な世界を意図的につくる。さらに、曖昧な世界の空間の中に、今度は絵を描く人たちが必要になってきます。
(p378)

深掘 私自身、企業の人間として感じているのは、「大企業単独によるイノベーションはなかなか難しいんじゃないか」ということです。というのは、いくら「イノベーション推進室」といった専門部署をつくって社内体制を整えたり、イノベーションに関するいろんな会議に出席したりしても、いざ構想や実行に移そうとすると上司から「3年で利益を出せ」なんて言われるわけですよ。そうなると、社内で提案する側はアイデアや企画が小さな枠に収まってしまうんです。
(p401)

丸 大企業とベンチャーの二者間だけでは無理なんですよ。もう1人、祈祷師のような人が必要なんです。両者のあいだに入って、丸く収める助っ人です。私たちは、コミュニケーターと呼んでいます。・・・実はオープンイノベーションは簡単で、祈祷師(コミュニケーター)を雇えばいいんですよ。でも皆さん、気を付けてくださいね。大企業にべったりで、「御社の新規事業は…」なんて言う人は危険ですよ。大企業のための新規事業をつくる人は偽物ですから。そうじゃなくて、人類を進化させて、地球をより良くすることができる。そういうプロジェクトのためにお金を使うんです。
(p402)

竹林 新しいビジネスは関西から出てくるってよく言われるんですけど、それはなぜかと言うと、関西の人は視座・視点が違うんです。僕は竹林一っていう名前なんですけれども、ある関西の企業の受付で名刺を渡したら、受付の女性が僕の名前を見て「すいません、これ伸ばすんですか?」って言うんですね。「たけばやしーですか?」って。僕「そんな奴おらへんやろ」って言いました。
(p454-455)

留目 ある程度「これをやりたい」「ここに問題があるんじゃないか」と旗を掲げる人がすごく大事。
(p519)

比屋根 コミュニティを広げていくときに、一緒にその場にいて、「これ一緒にやろうよ」と言うことがすごく重要だと思うんです。僕はメディアだけではきっとダメで、リアルな場所、同じ熱を共有する場をどうデザインするかだと考えています。つながりや学び合いをセットでデザインし、リアルなコミュニティづくりもセットで仕掛けていくと、ものすごく活性化するんじゃないでしょうか。
(p525)

佐分利 私の研究テーマである「社会の病気を治す」ですが、そのためのステップが4つあります。ひとつは問題を発見することです。次に問題や目標を定義すること。それから手を打つこと。そして最後に評価をすることです。
この中で一番難しいのは2つ目の目標設定です。数値化された目標があれば、っ最後は意外と何とかなります。みんながその方向に行けばいいってわかるからですね。ただ、一番大事なのは問題の発見です。これは移行確率なので、最初ができないと次にいけません。つまり、問題が発見されないとそれはずっと残されたままです。
じゃあどうやって発見するのか。ここで重要になるのがコミュニケーションです。コミュニケーションがないと何の発見もできないし、共通の目標設定もできません。常にコミュニケーションが真ん中にあるわけですね。そういう意味では、人類の文明の力がここまで大きくなったのは共感力の大きさにあるんです。
(p552)

井上 社会イノベーションを起こすとき、もはや1人のイノベーターとかリーダーがやってくれるヒーローモデルではなく、どうやってコレクティブ(集合的)にやっていくかが今テーマなんですけれど、「人類」という括りで状況を捉えることや、…「こんな未来に行けるのかも?」って、一旦大きく飛んでみることもすごく大事だなと感じました。
(p608)

田崎 ビジョンは半分がファクト、半分がイマジネーション。僕らはその掛け合わせをビジョンと言っています。
(p615)

田崎 社会課題のリサーチは、それそのものがマーケティングに置き換わってきていると思うんです。つまり企業利益追求のマーケティングは終わり、社会課題自体がマーケットとイコールなんです。でも、リサーチにはめちゃくちゃお金がかかるじゃないですか。どうもアメリカでは、それを政府がやっているらしいですね。「こんな課題があるよ」と示して、できる会社は「手を挙げてください」といった感じで。
(p622)

田崎 「問い」をしっかりつくれるかどうかのほうが大事なんです。スタートアップの技術は既にたくさんあるんですよ。その前の「問いを編集すること」のほうが大変なんです。
(p622)

谷崎 最初は「地球やばいんです」と訴えていたら友達が少なくなった話をしましたよね。どうやら、単に知識を伝えようとしてもダメなんですよ。そうじゃなくて、「みんなどう思う?」と言わなきゃいけなくて、こういう人はリーダーじゃなくて、ファシリテーターとかモデレーターと言うんですよね。恐らく、何かについて一方的に演説するのは、20世紀型のリーダーシップなんです。
(p623)

塩浦 都市の中にいる現代人は、価値を生み出さないといけないという病にかかっているんじゃないかと。だから僕は「意味のない」空間をセッティングすることを考えるようにしています。それがきっとイノベーションだと思うんですよ。
(p661)

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。その後、民間企業での政策渉外活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp


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