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【書評】『公民共創の教科書』(河村昌美・中川悦宏、2020)を読んで。

▮ 読後感

 個人的にすごく親近感を覚えている事業構想大学院大学の河村先生と横浜市の中川さんの共著。公民連携・官民共創分野で先駆的な取り組みをリードされてこられたお二方。実は読み終わって、まだ一度もリアルにお会いしたことがないことに気づきました。オンラインでは何度かあるのですが。近い将来お会いしたいなあと思いました。

 タイトルの「公民共創の教科書」の名の通り、まさに公民共創・官民共創に関して網羅的にまとめられています。この分野で仕事をされる方は必読ではと思います。昨年購入して通読したのですが、いま改めてこの分野で本格的に仕事をすることになり、ひととおり官民共創に関連する書籍を読んできたわけでしたが、最後にこの本をもう一度読もうと思っていました。分散していた知識を統合するためにも。そして新たな気づきやひらめきがそこから生み出されるという直感もあり。

 本書は、公民共創の必要性やメリットに触れたうえで、大切にすべき概念(いわゆる三方良しの「3PM」や、パーパスなど重視の「PPRP」)や、公民共創を検討し推進するためのフレームワークである「公民共創版リーンキャンバス」や「ビジネスモデルハウス」などなどをご紹介されています。豊富な事例とともに。

 官民共創は実践の中でこそ、知見を得られるものではありますが、この本で得られる知識の統合効果は思った以上に大きいように感じています。
私の中で「ずっとモヤモヤしてきた官民共創に対する疑問=本当に官民共創は社会課題や地域課題を解決するために有効なのか、というそもそもの疑問」も、一つの答えを出せるかなという段階になってきています。答えというものはないものの、自分自身がやっていることに自信を持って取り組めることが、一つ一つの言動の説得力を持たせるものだと思いますし、生きがい・働きがいにもつながっていくのだと思っています。

 自分なりに「官民共創」について現在地で思うことを、改めて書こうと思っています。

▮ 注目した個所(抜粋)

●本書における「共創」の定義は、・・・次のものとします。
企業や各種法人、NPO、市民活動・地域活動組織、大学などの教育・研究機関などの多様な民間主体と行政などの公的主体が、相互の対話を通じて連携をし、それぞれが持つアイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどを結集することで、社会や地域の課題解決に資する新たな価値を共に創出すること。
(p25-26)

●公民連携のプロセスにおいて、重要な方向性を決める当初の意思決定について民間の意見を反映せず行政のみで決める形は、行政にとっては法令や各種ルール、意識や感覚のうえでは正しいのかもしれません。ですが、根本氏の見解を踏まえて一般常識的に考えれば、行政サイドの知識やノウハウが民間より乏しい場合であっても、行政主導でことを進めることは、合理性がないように思えます。例えば友人たちと海外旅行に行く場合に、旅行先に関する知識や経験が一番乏しい人にプランを任せるようなものですが、それはたいてい残念なことになりますよね。
(p32)

●組織目的や行動基準などにおいて異なる立場を持つ民間と行政が、共創事業を構想し実行していくためには、まずはビジョンという事業のコアな部分から対話を行うことでしっかりと共感を得たうえで、適切なファンクションを構築していかなければ、複雑多様な課題の解決に資する創造的なイノベーションは生み出せないと考えています。
(p38)

●多様なステークホルダーとの調整や合意が必要となる共創事業において、もう一つ重要なポイントは、自己の組織内や共創パートナー、その他コアとなるステークホルダーといった味方の「共感」が得られるような、社会・地域課題解決に向けた「WHY」を持つ「ビジョン」や「ストーリー」が見える共創事業アイデアを創ることだと考えています。
(p116)

●「失敗」には、構想が実現できないことやローンチ後の不慮の事故、売上や参加者の不足など、失敗の定義や見方によってさまざまなパターンがありますが、リスク的なパターンを省いて「提案があり検討を進めたものの、実現まで至らなかった」と定義するならば、PPRPモデルを活用した検証や分析を行うことで、その要因を明らかにすることができます。
・・・
①目的の不一致
②プレイヤーやリソースの不足・不在
③手続きの瑕疵
(p138)

●【民間のメリット】
①地域そのものから得られるもの
(1)地域が持つブランド力や好感度、知名度
(2)歴史や文化、名所旧跡、名勝、名物など地域が持つ魅力や集客力
(3)地域に住む人々の魅力や知恵・力、ネットワーク
(4)地域での知名度や好感度の向上による販路・市場の拡大
②地方自治体から得られるもの
(1)地域における総合調整力や組織力
(2)地域の公共機関としての信用力
(3)地域におけるネットワーク力や広報力
(4)許認可などの取得に関連するノウハウ
(5)公園などの公共空間やデータなどのさまざまな資源
(6)助成金申請などに必要となる地域連携の相手方
(7)SDGsや地方創生、CSR、CSVなどの活動の公益性向上
(8)行政への知名度向上による、公共調達での販路の拡大
【行政、市民・地域のメリット】
③民間の技術や製品、サービス、サプライチェーン、ノウハウ、コンテンツ、ブランドなどの各種資源の活用により、さまざまな面でメリットが得られる
(1)行政・市民・地域が抱える課題の解決やサービス・利便向上
(2)行政の計画や政策、事業の効果的な推進やPR
(3)雇用や観光推進など地域社会や経済の活性化
(p143-144)

●成功しているほど知の深化に偏って、結局はイノベーションが起こらなくなる状況は、「サクセストラップ(成功の罠)」と呼ばれる。
(p198)

●共創事業を成功させるためには、オープンイノベーションに前向きな組織風土づくりや推進体制を確立し、そこに関わる人々の本質直感を通じた絶え間ない自己認識のリフレーミングによって社会の変化への対応や新たな知の活用を模索し続け、組織という共同体としてイノベーションを実行していく組織能力(ダイナミック・ケイパビリティ)を高めていくことが不可欠と考えます。イノベーションを継続的に起こしていくためには、短期的な効果や成功ばかりを追い求める「サクセストラップ」に陥ることなく、中長期的な(不確実性の高い)可能性への探索も続けなければ、行き詰ってしまうのです。
(p198-199)

●公民共創版リーンキャンバスによって仮説を立てた共創事業アイデアを、PPRPや3PMをはじめとした諸要素を加えて実装に耐えうる共創事業の構想案にしていく段階で活用している、より詳細で、共創事業のビジネスモデル全体を俯瞰できるフレームワークが公民共創版ビジネスモデルハウスです。
(p222)

●フレームワークを活用する際に最も大切なことは、簡単な思い付きでサクサクとフレームを埋めて満足することではなく、その中身について知恵を絞り、考え抜くことです。フレームワークはその思考の助けとして、検討すべきポイントや要素、構造、流れなどについて先人の知恵を借りることができる便利なツールに過ぎず、特に、創造性を発揮しなければいけない場合などは過度に頼ることは禁物です。
(p248)

▮ 目次

第1章 共創とは
第2章 共創に取り組む必要性
第3章 横浜市における共創の推進
第4章 共創を推進する対話的アプローチ
第5章 共創推進の方法論やノウハウ、ポイント
第6章 ビジネス思考法・フレームワークをかつようした共創事業構想(発展編)
第7章 社会課題解決を未来の切り札に

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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