「新しい資本主義」という言葉が、昨年の自民党総裁選前後から急に空から降ってきた。結局のところ、新しい資本主義というのは、株主だけではなく、ステークホルダーすべてを巻き込み、そうした関わる人すべてに恩恵を与えることを是とするものなんだろうと理解をしている。
1980年代から続いた「小さな政府」志向では、行政も立ち行かなくなり、おいてけぼりにされた社会からの反乱により、行政は孤立感を深めている。大きな政府でも小さな政府でもない、新しい統治スタイルがいままさに、実験されているところである。それが、「プラットフォームとしての行政」であり、「小さくて大きい政府」であろう。
そうした「プラットフォームとしての行政」が基盤であるならば、日本にも押し寄せている、ステークホルダー資本主義とも呼ばれるこの新しい概念は、ソフトを動かすOSにも例えてもいいかもしれない。
本書でも紹介されている通り、これまでの資本主義が悪いとか、ステークホルダー資本主義が正しいというのではなく、どちらにせよ社会から求められることが重要であり、大きな流れの中では、いまはステークホルダー資本主義が社会から求められているといっていいのではないだろうか。
日本においても、社会課題をみんな解決しようという機運が徐々に浸透しつつある。行政頼み、お国頼みだった従来の社会の安定感を、国民主権を有する日本においても国民が責任感を抱いて、取り組もうとしている。
本書は、諸外国で取り組まれている「B Corp™」のガイドブック、ハンドブックである。ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルーシブ(包摂性)をアセスメントし、80点以上の法人をBCorpとして認定している制度の紹介であり、その認定を受けるための赤本的な一冊。
冒頭、Bcorpとは何かについて、宣言文が掲載されている。
本書では、ダイバーシティ、エクイティ、インクルーシブの3つの視点において、「クイックアセスメント」として設問がつけられている。その設問に対してどのように対応するべきかを事細かに記載されている。
日本でも、社会的責任ある活動を行う法人を従来の株式会社等とは別に、新たな法人形態をつくろうとする動きが出てきている。「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」(PBC)として水面下で議論が進む。海外では、「ベネフィット・コーポレーション」として法制度化されている法人形態である。BCorpとベネフィットコーポレーションは厳密には異なる。が、同じようなビジョンを持っていると考えられる。
以下、ベネフィットコーポレーションに関する記載である。
今後、日本においても「新しい資本主義=ステークホルダー資本主義」が本格的にディスカッションされていくだろう。その下敷きになる一冊ではないだろうか。
本書は本文はそれ自体で価値あるものだと思うが、それと同等か、それ以上に巻末にある若林恵氏による「あとがき」が読みごたえがある。
社会はみんなでつくろうというものであり、ラストワンマイルの仕事を社会性を持ったものとして評価していくことができるか。本書が投企しようとする課題としての「現在」は、輪郭をしっかり映し出すことによって、新しい「未来」への動機づけになるのではないかと思う。
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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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