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木原音瀬ワールドを2冊読んでみた。『捜し物屋まやま』『箱の中』

本屋さんが大好きだ。本屋さんに行くと、それだけで気持ちが高まる。昔、親に「洋服買ってあげる」とデパートに連れて行ってもらい「本屋さんでママのこと待ってるね♪」と言っていた子供だったくらい。年頃になり、洋服の比重が高まった時期もあったけれど、女を追求することを捨てたここ数か月(コロナのせいではなく、加齢のせいです)やっぱり、本への愛が高まっている。

kindleとか、ほかにもたくさんの電子ブックがあるのに、どうしてあえてかさばる本が好きなのかはわからない。でも夏になると、各出版社がキャンペーンを行うのもあって、幼い頃に「読書感想文」の宿題があったイメージなのか、とにかく本が読みたくなる。幼少からの洗脳と言えなくもないけれど、こんな楽しい洗脳ならもう、いいんじゃないかと思う。教育って洗脳だし。

無駄に前置きが長くなったけれど、ここ数年「面白そうだから」というより「これは読んでおかないといけないから」「勉強のために」「〇〇という能力を伸ばすために」など、全く心の栄養にならない本選びをすることが増えていた中、なんとなく、猫のいる探し物やさんの表紙の絵に惹かれて、購入したのが、BL界の芥川賞作家、木原音瀬(このはらなるせ)さんの本だった。断っておくと、この本はBLではなかったし、BLを期待して買ったのでもなかった。その軽やかででも後を引く文体に流されて、今度は正真正銘のBL「箱の中」を購入して読んだ。「これはBLのレーベルではない講談社文庫だし、あとがきを書いているのが三浦しをんさんだから、もし面白くなかったとしても、読んでおいて損はしない!」などと、無駄に自分に言い訳しながら。でも、手に取ってから買うことを決めるまでの時間は普段の1/10だったし、遅読の私が一晩で読み終えたのだった。

始めてのBLは、想像していたものとはだいぶ違った。

私の想像していた世界は、あとがきで三浦しをんさんが書いているのとかぶるけど「冤罪で刑務所に入り、服役中の主人公とイケメン弁護士が恋に落ち、出所の時はポルシェかランボルギーニで迎えに来てくれて、六本木のタワマンでシャンパンでお祝い。刑務所に入る前お付き合いしていた、結婚前提の打算的女性の恋人とはさらばとなり、二人は真実の愛を育んでいく…イケメンカップルの美しい愛の姿」みたいな。

『箱の中』の主人公は「どこにでもいる普通の男」だった。でも、言葉にするとひどく陳腐だけど、これでもかというほど、愛を表現し、愛を与える姿が、ひどく美しくない状況の中で描かれていた。しかも、見返りは一切ないのだ。高価なプレゼントも、結婚による身分保障やステータスも。

以前、飲み会でゲイの同期がゲイの愛こそ本当の愛だ!とお酒を飲んで叫んでいて、みんなで笑ったことを思い出した。異性愛において「この人は結婚にふさわしい人だから」だとか、「子供ができたから」とか何かしらの「理由付きの愛」の理由の部分を「不純」だというなら、その人を愛し、ともに生きることに理由がない同性愛は、愛として純粋なのかもしれないと思った。そもそも愛は人と比べるものでもないと思うので本当にどうでもいいのだけれど。

好きだった俳優さんの訃報に心がうつろだったこともあり、「箱の中」の木原音瀬ワールドは、強烈な追い打ちをかけてきている。

愛を通して、生きるという事を、朝も夜も、これでもかと問いかけてくるのだ。

「生きるって何ですか。幸せって何ですか?」

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