2022になった上海を歩いてみて-体験モール化したショッピングモール
2022年1月下旬から、隔離が終わって上海を歩けるようになりました。友人に色々聞いてみて、まずは西岸(West Bund)と呼ばれる地域に行ってきました。
いわゆる「外灘(Bund)」と呼ばれる、上海タワーやテレビ塔などのザ・シャンハイな夜景や、高級レストランが立ち並ぶ最も有名なエリアがありますが、そこから少し南に行ったところに、ユニークな建造物や美術館が立ち並び、スケボーやボルダリングができる公園が広がるエリアがあり、そのあたり一帯が西岸と呼ばれます。
コロナ前にも一度歩いて、夜に多くの若者がスケボーをやっているのを見て、こんなエリアがあるんだなあと思っていたのですが、2023年には西岸の南側にテンセントやCCTVの新しい社屋が建てられる予定で、この周辺の再開発が現在一気に進行していることを知りました。友人は「今家買うなら西岸ですよ」とまで言っているくらい、これから盛り上がる地域で、特に文化・アートとテクノロジーを融合させるエリアになっていくようです。
ブランドのお店が全くないAI PLAZA
このエリアに最近オープンした「AI PLAZA」というショッピングモールをおすすめされたので行ってみたのですが、想像以上に新しい感覚でした。なんとなくイメージしたい方は以下リンクの映像を見てみてください。
https://m.dianping.com/ugcdetail/106517522?sceneType=0&bizType=29&utm_source=ugcshare&msource=Appshare2021
まず驚いたのは、ブランドの旗艦店が全くないことでした。
これまで上海のショッピングモールと言えば、ルイヴィトンやシャネルのようなハイブランドや、ナイキやアディダスのようなスポーツブランド、ユニクロやH&Mのようなアパレルブランドのお店が立ち並ぶ「買い物をする場所」というのが当たり前でした。これは上海に限ったことではなく、あらゆるショッピングモールが「普通そういうもの」なのではと思います。
このAI PLAZAに入ると、まずど真ん中にある6階までの吹き抜けを使ったデジタルアートが目に入り、そのまま一階を見回すとコーヒーショップ・ティーショップが5~6軒(多い)と、アートショップ、イベントスペースが2つ。私が行ったときはバスケットコートまでついて普通にプレイしている人たちがいるNBAコラボイベントと、日本のアーティストによるアート展示でした。
2階に上がると、なんと半分近くがおもちゃやアート。大きいベアブリックや村上隆さんのアートが飾られた店では、何故か男性向けのスタイリッシュな美容室を併設していて、「イケてる大人のためのおもちゃとアート」みたいな雰囲気を醸し出しています。服やジュエリーのお店も3店舗くらいあるんですが、買い物をする特定ブランドのお店というよりも、かなり空間の使い方が贅沢なセレクトショップのような印象で、植物に囲まれたような見せ方だったりします。
3階に行くと、今度はハーフパイプやバンクなど実際に滑ったり練習したりできる場所を兼ね備えたスケートボードショップや、無重力バンジージャンプを体験できる場所、ダンススタジオ(おそらく日本のLDHがやっているもの)、ペットショップ、インテリア雑貨のセレクトショップ、そしてまたもアートギャラリー、おもちゃ屋、コーヒーショップ。
4階に行くと、サロンやスパなど美容関連のお店が5店舗ほど立ち並びます。加えてまたもアートギャラリー、ペットショップ、インテリアショップ。さらに5階はレストランとカラオケなどがあり、6階はまだオープンしていませんでしたが、おそらくクラブのようなイベントスペースになるようです。
ペットを持ち込んでよいことを強く打ち出していて、施設内にもペット関連のお店が3~4店舗あります。4階や5階は外のエリアもあり、写真映えしたり、ペットを遊ばせたりできるようなスペースが併設されています。今や中国都市部であればどの商業施設も、その施設を象徴するような写真を撮るための「映えスポット」が用意されていますが、ここは適当なオブジェではなくデジタルアートと空中庭園でそれを表現しており、しっかり投資されている印象でした。
テックドリブンな実験から身体的な価値へ
あくまでAI PLAZAの話であり、これが今の中国や上海を示すトレンドだ、というつもりは全くありませんし、そもそも西岸エリアは文化・アートとテクノロジーがコンセプトなので、その特色に合わせているのも分かるのですが、
ブランドの商品はどのモールでも、オンラインでも買える
過ごす時間としての身体的・視覚的な楽しさという体験価値を重視する
このあたりの「ここ数年ずっと言われてきたこと」が忠実に守られているような印象を受けました。
ビジネス観点で見ると、ブランド系と比べて、今回見たショップがお金を持っているようにはあまり見えないので、とりあえずは話題性とコンセプトを優先し、賃料を安くして誘致している可能性はあり、収益の安定性があるかは不明です。
一方で、今後ビジネスとアートの街になり、人が日常的にこのエリアに滞在することを見据えて、日常的に遊びに来ても楽しめることを重視しているようにも見え、これは正しいようにも思えます。AI PLAZAはオフィスビルと併設しているので、モールを楽しい場にすることで、モール側ではなくオフィスに入居する企業側からのお金を釣りあげる構造を狙っている可能性もあるかもしれません。
例えば3年前に新天地というエリアにできたモールは、当初はテナントを半分程度に押さえ、半分を更新性の高いイベントスペースにすることで新しさを呼び込み続ける構造にしていて、オープン当初ものすごい人の数で溢れていました。しかし、どうやらイベントを誘致し続けることに無理があったらしく、数か月後には使われていないスペースがちらほら見られるようになり、人もまばらになっていっていました。先週、2年ぶりに訪れると、イベントスペースは消え、普通のブランドによるテナントに取って代わられる、という形に落ち着いていました。
これも、新規性のあるコンセプトで話題を呼んでみたものの、運用したらうまく行かなかったので普通のショッピングモールになった、という中国らしい例にも見えます。このチャレンジ精神と、ビジネスがうまく行かなかったらすぐにうまく行く方にシフトする柔軟性が私は好きなのですが、AI PLAZAも同じようになる可能性は十分にあると思いますので、あと数年はこの実験を見守ってみないと、何とも言えないところです。
とはいっても、カルチャーや体験に消費が移行していることは、街全体を見ていても感じるところです。フィギュアや雑貨のようなものを売るお店がどんどん増えていますし、個人的に最近最もイケてるショッピングモールである「淮海TX」も、ブランド旗艦店は普通に入っていますが、スキー体験が出来る場所や、カルチャー系のショップ(フィギュアや雑貨の店)が多いこと、一番上にクラブが設置されていることなど、このAI PLAZAとかなり近いコンセプトを感じるモールでした。
丸井さんの「売らない店舗」ではないですが、改めて、わざわざリアルの場所に来る目的はショッピングではなく、より楽しめる時間を求めて来ているのだということがよく分かるものになっていました。しかし、こういう言い方では「いやいや、日本でもそういう店たくさんあるじゃん」と思われる方もいるでしょう。田舎の大型モールなんかは、一日遊べるように「楽しめる時間」を作ろうとしているよね、と。
なので、以下のように言った方が適切かもしれません。
「無人店舗や着せ替えARミラー、アプリやビーコンでこんな未来体験ができる」というテックドリブンな実験がある程度終わりを迎え、身体的な価値の方に振り始めている。
身体的な価値に振りつつも、表に見せないだけで、裏側ではテックドリブンな環境が整っているのでは、と予想できます。AI PLAZAという名前、周辺にオフィスビルが立ち並ぶ予定であること、マネタイズの方向性という観点から見ると、周辺に住んだり勤めたりする人に対して、デジタルと融合させた利便性が提供される可能性もあるなと感じています。この辺りは、引き続き要チェックだなと。
というわけで写真置いときます
さて、まずは上海散歩日記といった感じですが、イメージを深めてもらうために、写真を色々置いておこうと思います。ご覧あれ。
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