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社会UX向上のためのエッセンシャルワーカーズ

インドネシア・ジャカルタについて、もう少し書いてみたいと思います。
前回はこちら。

改めて現状を見てみる

インドネシアの魅力の一つは、「見た感じ全く発展していない」ように見えるのに、その実、裏側は圧倒的に発展している点にあるのではないか、と思います。

もちろん、スタートアップシティや金融街のような場所はあり、そこにはかなり背の高いビルも立ち並んではいるのですが、空港から出て都心に出るまでの道はあまり高いビルもなく、実際街に出てもかなり普通の新興国という感じです。

それなりのホテルと大きなショッピングモールが融合した施設から見下ろすとこんな感じです。真ん中の下の方を見ると、バイクがたくさんあるのも見えますね。

こんな感じで、カート型の屋台もそこら中にあります。

視察ではなく観光客として普通に行くとやっぱり、「ああ、新興国に来たな」という印象になるのではないかなと思います。実際に平均年収などを見ると、日本の感覚からするとかなりの開きがあり、インドネシア全土の平均年収が30万円から40万円、ジャカルタに絞ると70万円程度です。

なので、前回テーマにしたGOJEKのようなサービスも、お金に糸目をつけない富裕層から、貧困層に冨が分配されているような構造である、という側面はあるわけで、これはあらゆる新興国に共通する事象かと言えます。

とはいえ経産省のデータによると、中間層と呼ばれる人たちが一気に増えており、その意味では大きな成長が見られます。2000年、年間世帯所得が60万円から400万円の「中間層」は全体の4%しかおらず、400万を超える富裕層は0%(存在するが非常に少ない)、それ以外の96%が60万円未満でした。しかし、2018年には富裕層が2%、中間層が68%になっており、この観点で見ると東南アジアでも最大幅の成長です。

急激に発展して中間層が一気に増えた結果、インフラの対応が追いつかなかったり、社会課題がたくさん生まれたりしており、デジタルサービスが登場して間を埋めている側面はあるでしょう。

パパママショップDX

消費者サイドの変化をGOJEKの例で書きましたが、インドネシアで同時に注目すべきは「働く人たちの変化」ではないかと思います。

まず、ドライバーの人たちはそもそも安定した稼ぎが入るだけでなく、ドライバーとしての給料、ユーザからのフィードバックや移動データによる業務品質というデータを元に、そのドライバーの信用度が可視化できるようになります。その結果、ドライバー向けに保険を提供したり、低金利なローンを出したり、一定以上のレベルであれば「収入保障」を出したり、もっと稼ぎたい人にはさまざまなオプションを付けたりすることができます。実際、繁華街を移動しているときには、背面に大きな電光掲示板を付けたバイクを見かけました。これはハイパーローカル広告として、GOJEKの新たなマネタイズにもなっていれば、ドライバーの収入増加にもなっています。見た目がまあまあインパクトあるので記事を貼っておきます。
https://news.lifenesia.com/?p=10638

ドライバーは銀行口座を持っていないケースが多いですが、一方で現在の収入や、業務に対するまじめ度合いをデータから把握できるので、生活をより豊かなものにする支援をするとともに、貸し倒れ率の低い、高精度な金融マネタイズができるようになっています。これはアフターデジタルシリーズでも、DidiやGrabで紹介した事例に近いですね。

他にも、俗に「パパママショップ」といわれるお店に対してDXが行われています。先ほどの写真にもありましたが、家族や個人で屋台やお店を経営し、商売している人たちは非常に多く、250万店(小売店舗の約8割)に上ると言われています。中間層が増えたといってもまだまだ平均年収50万前後の人たちが多い中で、こうした個人経営で値段も安いお店は日常に浸透しているわけです。

このパパママショップの人たちにとっては、GOJEKのようなサービスがあることで移動が活発になり、商圏も広がるので、商売の状況としては悪くありません。彼らにとって業務上の最大のペインポイントは、「仕入れ」です。小さなパパママショップの上に、大きなパパママショップがいたり、更に大きな業者や大企業がいたりして、直接メーカーから仕入れられれば安上りだったものが、何社も間に入ってしまいます。自分の店の仕入れ先を見つけること自体一苦労なのに、このように多層化してしまっていて一切可視化されていません。食事を扱っている屋台ならまだしも、キヨスクのような形式の場合は商品種類も非常に多いので、まとめて頼めるならそこに頼んでしまいたい一方、元値もよく分からなければどれくらい搾取されているかもよく分からない、と。

こうした状況に対して、仕入れのDXが行われており、メーカーから直接商品を買ってまとめあげ、パパママショップに卸すようなプレイヤーがたくさん現れ始めています。

中間搾取をなるべく排除するだけでなく、過去の購買履歴なども含めてスマホで一括発注できたり、収支管理ができたり、GOJEKなどと同じ仕組みで融資やアドバイザリーなどのフィナンシャルサポートも行われていたりします。サービスによっては事業を成長させていくために互いに知見を教え合うことができるコミュニティ機能があったり、ビジネス講習動画があったりするものもあります。「仕入れを楽に、かつ搾取のないものにする」というコアな機能を中心にして、こうした「パパママストアが成長するためのワンストップSaaS」のような形で一つのモバイルアプリにそれらの機能が集まっているわけです。こうしたサービスはBukarapakやBliBliなど、EC業者がSMB向けのビジネスとして展開しています。

その中の一つに、ワルンピンターというサービスがあります。

スタンド型のキヨスク(インドネシア語でワルン)を、Wifiや電源、テレビ、冷蔵庫などを全て完備した形で、ワルンのオーナーに無償貸し出しします。オーナーはこの3~4畳程度の土地代は毎月支払い、所定のアプリを使って仕入れや業務管理をします。アプリを限定されているので、仕入れ先がこのワルンピンターの運営業者に固定される形になります。

何が面白いかというと、「大量のバイクドライバーがいる」という社会状況だと、電源やWifiが完備されていたり、テレビがあったりすると、案件待ちや休憩中のドライバーにとっての憩いの場になり、ついでに消費がされていくという狙いがあることでしょう。(実際先日行ってきた時にはドライバーのたまり場になっていました。私たち視察団がぞろぞろ来たら何処かへ行ってしまいましたが...)

ワルンピンターはかなり話題になり、加速度的な成長を見せるのではと思われていたのですが、ローンチ直後にコロナ禍が襲い掛かり、現在は展開を止めています。利益構造としても十分ではないようなので、決して上手く行っているとは言えないのですが、一方でドライバーエコノミーが発達する中で地域コミュニティのハブになることに目を付けた点は示唆があります。

BでもCでもない、マージナルなエッセンシャルワーカー達

視察などをしていても、お連れするクライアントからの評判も良く、私自身も面白味や示唆を得るのですが、改めて何が面白いのかを考えてみると、ドライバーやパパママショップのような「限りなくtoCに近いtoB」という、個人単位のtoBの存在を「社会資源」のように見ている点ではないかと思っています。

日本を見てみると、BとCを明確に線引きする傾向があるように感じます。自分でビジネスをするというより、会社員になるということの方が当たり前で、配達員や運転手、清掃員など、基本的には「自社で抱える」「就職する」という形を取り、なるべく裏方として気配を消したり、サービスに徹したりしています。

副業も当たり前になっていく中で、この「BとCの間にいるような個人」はどんどん増えていくでしょう。仮に自社社員として抱えていたとしても、中国のフードデリバリーでは、需要が多すぎるときにはドライバーを他社から借りてくることもあるので、オープンにしていくことも可能かもしれません。

社会資源ともいえる、社会ペインを解決してくれるような方々は実は日本にもたくさん潜んでいるように思います。それは元気な高齢者の方々かもしれないし、「何かを届ける」ことを生業にしている人たちかもしれません。こうした方々は実は、社会におけるエッセンシャルワーカーであり、そこになるべくオープンな、皆が生活を豊かにできるUXのアーキテクチャを入れ込むことで社会UXの向上が可能かもしれない。

縦割りの業態が街や村に入り込み、元々あった生態系を壊して限界集落を生んでいくような構造から脱するようなヒントが、インドネシアや中国のこうした事例から得られるのではないかと感じています。


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