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インドネシアのやばさは「社会課題ドリブンなOMO」

先日、仕事でインドネシアはジャカルタに行ってきました。

GOJEKを始め、モビリティを中心にスーパーアプリが展開されていて、人口も2.7億人いるため、ネクストチャイナの呼び声も高い場所です。

実際に行ってみると、その学びの深さたるや、とてつもないものがありました。

優秀なドライバー集団がすべての距離をゼロにしてくれるサービス

GOJEKというのは、UBERのようなタクシー(主にバイクに2人乗りするサービスがメイン)を皮切りに、デリバリーフードやペイメントなど、さまざまな領域に展開している生活インフラのようなアプリで、日本で言えばPayPayやLINE-Pay、au-Pay、中国ではまさにアリペイやWechatなどのように、いわゆるスーパーアプリ化しているサービスです。インドネシアでは「国民的アプリ」とも呼ばれていて、創業者のナディム・マカリムはいまやインドネシアの教育大臣になっています。

そう、これまで私は、上記のように説明してきました。

何にもわかっていない、あほでした。

GOJEKを「バイクやタクシーの配車を起点に、様々なサービスに手を出していったスーパーアプリ化したサービス」と認識して、「タクシー配車」「デリバリーフード」「遠隔医療と薬のお届け」「ペイメント」などのサービスがあり、それらがまとまっているのだ、と思っていたんですね。

実際にジャカルタに行き、サービスを使い、現地の人やドライバーの話を聞き、勉強してみると、「この認識は全く違っていた!」ということに気付きました。

実際にはGOJEKは「優良なバイクドライバーが人も物も全て運び、全てを繋いでくれる」という、モビリティ革命のプレイヤーなのだと。これはどういうことか。

GOJEKは採用から教育までを徹底した優秀なドライバーを抱えていて、そのドライバーが自分を行き先に運んでくれることもあれば、近くのスーパーやコンビニや薬局で自分の代わりに「買い物代行」してきてくれたり、注文した食事を取りに行ってデリバリーしてくれたり、小包や郵便を相手に届けてくれたりします。コロナ中は中止していますが、マッサージ師やネイルアーティストをバイクに乗せて家に連れてきてくれたりもします。

つまり、「ドライバーが日常に発生するさまざまな距離をゼロにしてくれるサービス」なんですね。

全ての基盤はこの「優秀なドライバーたちが何かをつなぐこと」であり、サービスごとに縦割りになっているのではなく、単に「ドライバーにお願いすること」がカテゴリごとに分かれているだけなんです。ドライバーの視点からすると、移動の依頼が来たと思ったら、食事を運んでくれという依頼が来て、そのあとに薬を運んでくれと頼まれる、みたいなイメージです。なんとなく、中国のスーパーアプリを使っていた自分からすると、「移動のサービスがあり、他の色々なサービスに展開・派生していった」という先入観があったのかもしれません。

実際、アプリを出した2015年1月に、人を乗せるGO-RIDE、物を運ぶGO-SEND、買い物代行を依頼するGO-MART。そして15年内には食事を運ぶGO-FOOD、大きい荷物を運ぶGO-BOX、マッサージ師を連れてくるGO-MASSAGE、メイクしてくれる人を連れてくるGO-GLAM、掃除してくれる人を連れてくるGO-CLEAN、バス停まで連れていくGO-BUSWAYなど全9サービスを開始しています。バイクドライバーさえいれば出来ることをどんどん開拓していき、自動車によるタクシー配車サービスは、このあと16年にようやくローンチするんですね。

なおGO-Payにお金をチャージしたい時にも、バイクドライバーに現金を渡したらその場でGO-Pay経由でお金を送ってくれるので、まるで移動型ATMのようです。これ自体は、友達を介せば日本のペイメントアプリでもできないことはないし、普通にクレカや銀行口座ひもづけすればいいだけ、と思えるかもしれませんが、「初めて使う人」にとっては特に何にも個人情報を登録せずに、普通にお金送ってもらってペイメント機能を使えるので、圧倒的に利用開始のハードルが低いとも言えます。

ちなみに買い物を頼んだときに、依頼した商品がない場合は連絡が来て商品を変更することもできますし、「これならあるけどこっちにする?」というややおせっかいな提案までしてくれます。笑

なぜこんなサービスが成立できたのか

ジャカルタは世界で10本の指に入る「渋滞大国」です。ちょっとした買い物や食事もとても面倒になります。会社に行くのも一苦労です。ラッシュアワーの自動車の時速は平均7km、みたいな話も聞きました。早歩きかよ。

そこで発達したのがバイクです。バイクなら車の間をすり抜けながら、車よりも短い時間で移動ができる、と。

なので、いつもはGO-Taxiを使って移動することを好む比較的裕福な人であっても、通勤の時はバイクを呼び、ニケツ(二人乗り)で通勤したりしています。ニケツ大国です。

実際こうした社会的ペインはかなり前から存在していたので、バイクを呼んで移動するバイクタクシーサービスは2010年ごろにかなりたくさん生まれたそうなのですが、全くうまくいかなかったそうです。なぜかというと、楽に稼げると思って大量のバイクドライバーが名乗りをあげたところ、遅れるわ、態度は悪いわ、いきなりキャンセルするわ、届けたものが壊れていたり散乱していたりするわと、品質がひどかったそうなのです。

そんな中、GOJEKは「エンドユーザとマーチャント(店舗やレストラン)の要求水準を満たさないと利用者は増えない」と考え、他社がとにかくユーザ獲得合戦やオンライン上の勝負を繰り広げる中、厳正な面接や基準を満たすための教育し、一方でヘルメットなどの備品を無料提供するなど、徹底した地上戦を行ったそうです。その結果、「優秀なドライバー集団」を獲得でき、彼らであれば、ヒト、モノ、どんなものの輸送でも十分な品質で展開ができるようになったというわけなのです。

もうひとつ面白い点があります。

ネットスーパーやデリバリーフードのように、商品や食事を持ってきてもらうときにも、ユーザが店舗側にお金を送金して、決済が済んだから商談が成立するというわけではありません。ドライバーが自分のお金で買ってきて、それを依頼したユーザから集金・回収するというモデルになっているのです。

バイクドライバーは十分なお金を持っていない人も多いので、日本のピザ配達のようにウエストポーチに十分なお金を持たせてしまっては、持ち逃げしてしまうかもしれません。かといって、あらゆる飲食店や店舗にペイメントの機能を開通するという形になっては、加盟店だけで使える形になってしまい、「何でも届けてくれる」という形になりませんし、もし高価な商品を買った場合、そのまま商品を自分のものにして消えてしまうかもしれません。

なので、「まずドライバー自身に買わせて、一度払ったお金を死に物狂いで回収させる」という仕組みにすることで、持ち逃げするリスクを極限まで減らし、加えて決済手段が十分に浸透していない店であっても、登録さえされていれば届けてもらえる形で、ユーザから見ても選択肢が増え、店舗やレストランからしても、より多くの顧客に売ることができます。

なおこのあたりの内容は、IGPIシンガポールの坂田さんが書かれた以下の書籍、『構想力が劇的に高まるアーキテクト思考』に詳しく書かれています。
https://www.amazon.co.jp/dp/4478113874/

洗練、よりも社会課題解決

お気づきかと思いますが、なんというか、細かいところを人的に、アナログに解決して、微妙に洗練されていないですよね。ですが、変にかっこつけて狭く終わることがなく、とにかく広くたくさん使われるようになっていて、まさに「社会課題にがむしゃらに向き合い、解決されればOK」という姿勢を感じますし、実際ちゃんとコミュニケーションできるとめちゃくちゃ便利です。

スーパーアプリモデルを模倣している、みたいに元々考えていましたが、成功事例であるペイメントアプリのアリペイ、コミュニケーションアプリのWechatとは異なり、社会課題である「移動」を軸に据えることで圧倒的に使われる存在になっています。

一方日本はというと、海外モデルを模倣して、複数の企業が同時に似たようなサービスを始め、社会課題に微妙に合致していない、かつ縦割りで争い合っている結果、大して使われていなかったり、広まっていなかったりしています。

この違いは一体何なんでしょうかね。

さて、インドネシアの面白いところはまだまだこんなものではなく、実はユーザ、ドライバー、マーチャント(店舗やレストラン)と分けたときに、ドライバーやマーチャントの支援に真の面白さや先進的な取り組みがあったりします。これはまた、追ってお話しすることにして、今日はこの「社会を主語にし、社会課題解決に真に取り組めるのか」という投げかけをして、一旦締めたいと思います。ではまた次回。

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