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文楽の現場 #1 大阪遠征の現場 1日目 [国立文楽劇場公演]

古典芸能って、見ない人にとっては、何がどうなっているのか、全く知り得ない世界だと思う。

自分自身も観に行くようになる前は、どういうところでどういうふうに公演していて、どういう人がどう楽しんでいるのかわからなくて、敷居が高いもなにも、敷居があるのかないのかさえも全然わからない世界だった。どう楽しんだらいいかなんて、もう、まったくわからない。私は、そういう状況から、文楽を見始めた。

最近はエンタメ系各業種(?)、ファンの立場からの楽しみ方発信が増えてきていると思うので、自分も、ふだん楽しんでいる文楽公演というのがどういう現場なのか知ってもらいたいと思い、noteをはじめた(そういう動機だったのに、いつのまにか読書メモと化してきてますが……)。ブログでは公演の感想を書いているけど、noteの「文楽の現場」記事では、自分がふだん、文楽をどう楽しんでいるかを中心に発信していきたいと思う。


まずはじめは、大阪・国立文楽劇場公演について書こうと思う。

文楽は、東京・国立劇場と大阪・国立文楽劇場で本公演を行なっている。大阪は文楽座発祥の地であり、いまでも文楽の本拠地となっている。文楽劇場で行われる大阪公演は東京よりも公演会期が長く、公演回数も多い。また、文楽劇場は国立劇場小劇場より劇場自体が大きく、かつ文楽に特化した施設となっていて、展示室も充実している。そして、言ったら悪いんだけど、東京に比べてチケットがかなり取りやすく、公演日直前や当日でもキャンセル席含めた残席があることが多いので、文楽好き的には夢の地でもある。

私が文楽を2回目に見たのは大阪公演だった。私は東京在住で、それまでは大阪はほとんど行ったことがない街だった。小学生のころ、家族旅行で行ったくらい。いま冷静に考えると、そういう馴染みのない状況で、しかもまだ1回しか文楽を観たことがなかったのに、なぜいきなり大阪へ行ったのか、なぜそこまで出来たのか不思議だが、それが楽しくて、以来、大阪公演は年5回の毎回行っている。公演内容そのものは別に東京と変わるわけではないのだが、なんせ新幹線に乗る距離なので、観劇ばかりか行き帰りの新幹線でもホテルでもずっとウキウキ。文楽を観るために行くのだから、ゆっくり公演を観られるよう、基本的に大阪で1泊する小旅行形式にしている。

今回は、今月・11月公演へ行ったときのタイムテーブルを書いてみようと思う。公演の感想自体はブログに買いているので、ここでは感想は抜きにして、自分がそのときどきに思っていることを中心に書く。また、公演がどのように進行しているかや、文楽劇場の設備がどうなっているのかも書き添えていきたい。


[1日目]

07:30 東京駅

新幹線で、いざ、大阪へ。
大阪公演を第一部(11:00開演)から観たい場合、東京から新大阪までの所要時間はのぞみで2時間30分、新大阪から文楽劇場まではおよそ30分程度かかるため、余裕を見ると、7:30ごろまでに東京駅を発車するのぞみに乗る必要がある。そのため、起床時間はかなり早くなってしまう。早起きが苦手な私には信じられないほどの早朝に起きなくてはならない。
時間が早いので新幹線内で朝食。この時間だとグランスタ(東京駅改札内のデパ地下的な場所)がまだ開店していないので、新幹線改札内の売店で朝食を買う。土曜の早朝時間帯だと改札階の売店はおそろしく混雑しているので、ホーム階で買うようにしている。今回はすえひろの天むすを購入(確か……記憶がない)。
新幹線で好きなのはA席(海側)。海辺の風景が好きなので、こちらにしている。新幹線にたまにしか乗らなかったころは、乗車したただけで楽しくてウキウキしてずっと車窓を見ていたが、最近はだいぶ慣れてきてしまい、熱海や浜松付近などのお気に入りの風光明媚スポット以外は読書等をしている。今回は連休初日とあって、早朝にも関わらず満席でした。

私は宿泊と新幹線は別々で手配している。新幹線の切符は金券ショップで回数券を調達するか、エクスプレス予約を利用。金券ショップだとうまくやればかなり安価に切符をゲットできるが、エクスプレス予約だと予約が楽でタッチ式で改札を通れるのが本当に快適。乗車列車の変更もラクだし、切符の紛失や帰りの切符を間違えて行きの改札に通してしまうという凡ミスを防げるのが特に良い。
東京-大阪間の移動方法については、近年は少なくとも年6回大阪へ行っているので、毎回の交通手段でのストレスは感じたくない。利便性を最優先にしている。過去に一度飛行機で行ったことがあるが、ドアtoドアでいうと新幹線より時間がかかり、伊丹からの移動があまりに面倒すぎ、文楽は終演時間が遅くて最終フライトに間に合わないのがあまりに不便で、1度でやめた。開演時間の都合があるので格安時間帯を利用できるとは限らず、早期割引程度では新幹線回数券と金額ほとんど変わらないので……。それと新幹線は遅延しにくいですしね。終電近くになると接続待ちで遅れることがあるけど、それ以外はまず通常運行している。悪天候にも強いし、新幹線大権現様様です。


10:00 新大阪駅

新大阪駅のコンコースには『義経千本桜』「道行初音の旅」の静御前の文楽人形が置かれている。
かなり目立つ場所にあり、新幹線から地下鉄御堂筋線へ乗り換える際に見ることができる。看板に書いてある「人形拵へ」というのは、「人形に着付けをした」という意味で、人形自体を彫刻して作ったという意味ではない。

御堂筋線。エスカレーターの寄る方向、新幹線改札内だと旅行者が多いので東京と同じ左寄りが多いが、地下鉄では地元の人が多いからか、新大阪でも右寄り。人がエスカレーターで右に寄っているのを見ると、大阪に来たって感じがします。


10:20 地下鉄なんば駅

文楽劇場の最寄駅は日本橋(にっぽんばし)だが、日本橋駅まで行こうとすると、なんばで御堂筋線から千日前線へ乗り換える必要がある。なんばから日本橋までは1駅しかなく、歩いてもほぼ同等なので、大抵なんばで下車する。地下街のなんばウォークを歩いて日本橋方面へ向かう。
なんばから行くときは「絹笠」という和菓子屋さんに寄って昼ごはん用に「とん蝶」(350円)を買う。和菓子屋さんで昼食?と思われるかもしれませんが、中身はめっちゃでっかいおこわおむすび(梅干し2個入り)。今月は季節限定の黒豆入りにしてみました。

▶︎とん蝶 https://co-trip.jp/article/127697/


10:30 日本橋駅

日本橋駅まで来たらなんばウォークを出て地上へ。ところどころに「国立文楽劇場→」のような看板や誘導があるので迷うことはない。日本橋駅から文楽劇場までは徒歩3〜5分程度。文楽劇場は日本橋のグッチャグチャの繁華街にある。できたときはこんなメチャクチャな場所ではなかったらしいが、いつのまにかこうなったそうだ。日本橋駅から劇場までの道中にある2本立て成人映画館の昭和感がとくに良い。客が入っていくのを見たことがないが、お客さんどれくらいいるのかな。ロマンポルノは都内名画座の特集上映ではかかりにくいものもやっています。それとこの映画館は文楽劇場と違って慎しみ深い心を持っているようで、入り口に掲出しているポスターの乳首とかはタイムテーブルの張り紙で隠したりしている。場内環境がよいなら文楽のあいまに行ってみたい劇場。

下記写真は今年6月に撮ったもの。今回行ったときは小沼勝監督『OL官能日記 あァ!私の中で』(1977)だった



10:35 国立文楽劇場

千日前通りを高津方面へしばらく歩くと、のぼりが立った近代的な建築物が見えてくる。ここが文楽劇場。今回は初日に来たので、入り口に「本日初日」の看板が立っている。

大阪公演の場合、よほどのことがない限り一公演中に何度も大阪へ通うことはできないので、会期中の「いつ」行くかの検討が重要になる。自分は人形を中心に観ているので、普段は人形遣い陣の演技がこなれてくる中日付近に観に行くことが多い。これは初日などの早い日程では演技や舞台進行上のケアレスミスが多かったり、初役の人が演技を詰められていないことが多いためだ。ただ、今回は諸般の事情で初日にした。

遠征日程を決める上で要確認なのが、ダブルキャストがないかの確認。文楽のダブルキャストでは、ひとつの役を公演期間中の前半・後半に分けて2人の技芸員に配役するということが多い。通常このようなダブルキャストは役がまわりきらない若手技芸員に交代で役をつとめさせて勉強させるための施策であることが多いが、最近、人形遣いの中堅2人に対し、かなり良い役をダブルキャストとして会期の前期・後期に分けて配役するという施策が発生している。そのうち特定の人の出演が観たい場合は、その日程中に行く必要がある。
文楽の場合、配役は公演2ヶ月程度前に発表され、チケットは公演1ヶ月前に発売される。そうなると観劇日を決定できるのは2ヶ月前、チケット確保が確定するのは1ヶ月前になるのだが、今の大阪のホテル事情を考えると、宿泊は観劇日の3ヶ月前に押さえる必要がある。
そうなると配役発表前にホテルを手配することになり、キャンセルを見越してホテルを2日程取る羽目になるのがものすごく面倒臭い。直前までキャンセル料が発生しないホテルにしているからお金を損することはないんだけど、なんでそんな面倒自体をしなくちゃいけないのか……。通常うまいほうの人がダブルキャストの前半に勤めることが多いので、見切って前半の1日程で予約しているけど……。
実はそのダブルキャスト、好みとかじゃない次元で技芸に差があるので、全然文楽観たことのない人にはまじトラップだと思う。なんも知らんお客さん、まさか片方がうまくて片方がいまいちとか、全然わからんでしょう……。一応、その二人は芸歴はそれほど差がないと聞いたことがあるので、芸歴は同程度ですからってことなんだろうか……。下のほうの人も頑張ってるけど、もう、頑張ってもらうしかないですね……。
と、内輪ネタをぶちまけていても仕方ないので、劇場の中に入る。

文楽本公演は文楽劇場の2F大劇場で行われる。1Fはロビーになっており、チケット売り場、展示室、ベンチ、簡易な売店などがあり、絵看板が掲出されている。
開場時間までは1Fで整列させられる。通常、開場は開演の30分前で、第一部が11時開演の場合は、10:30開場。全席指定のため並んでも意味がないので、大抵開場してしばらく経って、ゆっくり入場できるようになってから入る。

▶︎国立文楽劇場 https://www.ntj.jac.go.jp/bunraku.html


10:40 第一部入場

2Fの入り口でチケットを切ってもらい、入場する。客席は座席がかなり狭いため、上着を含め不要な荷物は入場したらすぐコインロッカーへ預ける(10円)。ロッカーに入らない大型の荷物は受付(入り口から見てチケットを切ってもらう場所の左隣)で預かってもらえるようだ。
荷物を預けたら、売店でプログラムを買う(700円)。プログラムには、演目のあらすじ、配役、技芸員インタビュー、著名人コラム等が掲載されている。東京公演と大阪公演ではプログラムの内容が少し違っていて、大阪公演のプログラムは正直読むところがあんまりないかな……。東京公演だと詳細な見所解説がついているのである程度読むんですが、大阪は記念に買ってる感じです。

ロビーには来年1月の竹本錣太夫襲名披露公演のポスターが掲出されていた。錣太夫を襲名する竹本津駒太夫さん、ポスターの写真、超スマイルで癒された。なんにせよ、襲名披露公演というかたちを取ることができて本当によかった。これでもうなにも津駒さんを縛るものはなくなるだろう。心からお祝い申し上げます。


10:45 幕開三番叟

開演15分前になったらホール内へ入る。公演案内のどこにも書かれていないが、本公演の開演15分前には「幕開三番叟」という一種の祝儀演目が上演される。

「幕開き三番叟」とは、浅葱幕(水色の布の幕。ステージのバックにたらしてある)を張った舞台で二人遣いの「三番叟」の人形(人形遣いは黒衣)が三味線を伴奏に数分踊るというもの。文楽独自の風習のようで、舞台を清める、客を祝福するという意味があるらしい。これに出るお若い人形遣いさんたちにとっては稽古のひとつなんでしょうね(配役は非公開)。三番叟のお人形さんは普段は楽屋に祀られています。

楽屋にまつられている三番叟さん。以前、文楽劇場のイベントで撮らせていただいた写真。

三番叟が終わったら一旦ロビーへ出て、お手洗いへ行ったり、ソファでプログラムを読んだりなどして過ごす。ホール場内は携帯の電波が遮断されるため、ロビーのほうが過ごしやすい。

開演5分前になるとブザーが鳴り、着席を促される。場内へ入ると、舞台の幕がさきほどの緞帳から定式幕になっている。文楽劇場・国立劇場の文楽公演の場合、上演中(幕開き三番叟も上演に含む)以外は場内撮影可能なので、この間に定式幕や床の写真を撮ることができる。


11:00 第一部開演 『心中天網島』北新地河庄の段

今回の第一部は『心中天網島』。大阪公演第一部当日直行の場合、先述の通り新幹線の時間がめちゃくちゃ早くなってしまうので早起きがツライのだけれど、今月は目当ての人形遣い・吉田玉志さんが第一部の最初の段「河庄」に孫右衛門(ものすごく良い役。普通は相当格が高い人しかできない)で出演するので頑張って来た。えらい私。(観光したい場合などは、第二部から来ることもあります。最近はほぼ第一部から来ていますが……)

今回は河庄の奥に配役されていた太夫・豊竹呂勢太夫さんが病気休演で、竹本津駒太夫さんが代役に。人の不幸が前提ではあるが、私は津駒さんが好きなので、津駒さんがこのような良いところを勤められるのを聞けるのは嬉しい部分もある。通常代役は若手が勤めることが多いが、津駒さんは若手ではなく超ベテラン。河庄がグダグダになるわけにはいかないので、確実に語れることを見込んでの配役だと思う。

休演や代役がある場合はロビーに張り紙形式で掲出が出る(公演ウェブサイトでも告知)。代役告知でいうと、以前、公演初日前日に急逝された技芸員さんがいて、そのときはショックだった……。初日午前の段階では通常の休演のように発表されていたので客は気づかなかったのだが、夕方ごろだったかな、「急病で死去」と報道に出て、驚愕。二日目からは「死去につき」で代役が掲出された。もう休演ではなく、完全に配役変更になるので、通常とは文章が違った。そういうわけで、代役の告知は本当は基本的には見たくないのです。


12:31 休憩(30分)

昼休憩、今回は30分。時間は公演によって変動し、25〜30分。たいてい25分かな?

国立劇場・文楽劇場では上演中以外は客席でも飲食可能だが、ずっと同じ場所に座っていると疲れるので、ロビーに出る。
ロビーへ出ると、先月の台風19号への義援金募集のため、人形遣い・吉田和生さんが第二部『仮名手本忠臣蔵』の小浪の人形を遣って募金を呼びかけていた。(ボランティア活動をする人間国宝)
ほか、豊竹咲太夫一門の人々が咲さんの本を売っていた(咲さんが『心中天網島』を解説した本)。同人誌即売会みたいな感じで、ロビーに長机を出して手売りしてるのです。この日は咲さん不在でお弟子さん方が売っていたが、2日目は咲さんが自分でスペースに座り、買ってくれた人にサインを入れていた。(同人活動をする人間国宝)

2Fロビーのソファはすぐ満席になるので、一旦場外へ出る。劇場1Fのベンチで、さきほど買っておいた「とん蝶」を食べる。ご飯を食べるのがのろい自分はお弁当だと時間内に食べきれないことが多いので、量が多いものは避けています。すばやい人は外出して近隣の飲食店で召し上がっている方もいらっしゃいます。

そして、次の段は静かで眠くなる内容なので、自販機でコーヒーを買って飲む。売店でもカップコーヒーが売られているが、同じ考えの人が多くて休憩時間終わり近くになると混んでくるので、大抵自販機。文楽劇場には1F旧食堂前と2F通用口前に自販機があるが、1Fの自販機には暖かいコーヒーが売られていなかった……。2F通用口前で買う。このあたり、技芸員さんとお客さんが話し込んでいることがあるので、行きづらいのだが……、今回も割り込ませていただいた。
このあとは休憩入らず最後まで続けて上演するので、お手洗いにも行っておく。お手洗いは列になっていることも多いけど、文楽劇場だと数が多いので、そこまで長時間待たされない。MAX混んでいるときでも5分くらいですかね。逆に東京・国立劇場は、客の数に対して個室数が少ないので注意が必要かと思う。
休憩時間、やることが多くて忙しいわ〜〜〜(すべての行動がのろい奴特有の言い訳)。


13:01 同 天満紙屋内の段・大和屋の段・道行名残の橋づくし

『心中天網島』後半。静かな場面が続くからか、客席には寝ている人がチラホラ……。文楽の場合、床(太夫・三味線)が上手いほど寝そうになる傾向があるように思う。

さて、私は人形を中心に文楽を観ている。必ず注目するのは、人形が舞台へ入ってくるとき。文楽の場合、人形はたいてい下手(しもて。向かって左側のこと)から出てくる。下手の小幕(こまく。左右にある、藍色の片開きの幕のこと)からトコトコと舞台へ入ってくるんですが、単に歩いているだけなのに、「おお〜〜〜〜」と思うことがある。要するに歩く仕草でその登場人物の内面を表現しなくてはいけないんですが、本当にそれが伝わってくると、おお、今日は来てよかった!!!!と思う。事前に予習していなくても、出てきた瞬間その登場人物がどういう人なのかが感じられる。悩んでいる人は悩みながら出てくるとか、焦っている人は焦って出てくるといったわかりやすいものだけではなく、性格が悪い奴は性格が悪そうに出てくるし、キラキライケメンはキラキラ出てきて、おもしろい。


14:48 第一部終演、外出

さっきから時間が中途半端な数字だなと思われている方もいらっしゃるかもしれないが、文楽のタイムテーブルは分刻みで進行する。文楽は芸能の特性上、アドリブ的な引き伸ばし等が存在せず、事前に発表される予定時刻通り進行することが多いので、タイムテーブルが細かいのだ。

そういうわけで、終演も予定通り、誤差があっても数分程度であることが多い。ロビーに出ると、今度は人形遣い・吉田玉也さんが第二部『仮名手本忠臣蔵』おそのの人形を遣って寄付を呼びかけていた。普段の配役では絶対ない組み合わせ(しかも無駄に渋い)にどよめく観客……。

1Fロビーに降りると列ができていて、『仮名手本忠臣蔵』でコラボしている赤穂市の観光使節の方(? 赤穂義士娘的な方。めっちゃ働いてはった)が何かを配っていた。何がもらえるのかなと近づいてみたら、中身は赤穂市のパンフと塩だった。

東京公演だと部ごとに日を変えて観劇することが多いが、大阪公演の場合、つぎの第二部も続けて観劇する。今回は第一部の終演が早く、第二部開演の16:00まで時間があくので、難波までちょっと用事に出た。
(2Fロビーでそのまま第二部開演まで待機することも可能。その場合、ロビーを回ってくる案内係の人に第二部のチケットを切ってもらう。また、ロッカーは一部二部通して使用できるので、外出する場合でも荷物をいちいち取り出す必要はなく、軽装のまま外出できる)


15:40 文楽劇場展示室

お出かけから戻る。第二部開演までの空き時間で、1Fにある展示室を鑑賞。展示室では文楽の基礎知識・基礎的な道具(人形や人形の衣装、三味線、太夫の見台・床本など)の展示に加え、3ヶ月周期くらいで企画展示が行われる。
現在開催している企画は「紋下の家 竹本津太夫家に伝わる名品」。展示内容はともあれ、文楽は世襲制ではないのにこういうやりかたはどうなんでしょうかね(突然のキレ)。世襲を望んだがゆえに断絶した名跡でこれをやるのは意味がわからない。名人は実力があるから名人なのであって、「名家」の生まれだから名人なわけではないし、いまの技芸員で親も技芸員という人、ピンキリやんと思うが……。うまい人だって、親が技芸員だからうまいのではなく、その人の努力によるものだと思う。それはいいけど、展示室内では映像も流しているんだけど、音量が小さすぎて肝心の義太夫が聞こえん。あれはいいのか!? 「先代の吉田玉男はとてもうまいです」ということしか伝わらんがな!!
今回は場内撮影不可だが、通常はほとんどの展示物が撮影可能。展示内容は時々内容が入れ替わるので、こまめに撮っておく。(たとえばこれは『菅原伝授手習鑑』寺子屋の段の松王丸の衣装の展示。舞台よりも間近でじっくりと見ることができる)


15:40 第二部入場

今年度、3公演に分けて上演可能な段を全段上演している『仮名手本忠臣蔵』も今月で最後。春公演、夏公演、そしてこの秋公演に来たお客さんにはオリジナル手ぬぐいをプレゼントという企画をやっている。自分も3公演ぶんのチケットを引き換えカウンターで提示してプレゼントに引き換えてもらった。
手ぬぐいのイラストは、絵がお得意な人形遣い・桐竹勘十郎さんによるもの。毎度のことながら絵がうますぎ、凝りすぎで意味がわからないクオリティ。著名人デザインのグッズ自体はよくあると思うが、「出来は多少稚拙でもファンだから嬉しい」とかそういう次元でなく、勘十郎さんは本当に絵うまいです。普通にグッズとして成立しています。


16:00 第二部開演 『仮名手本忠臣蔵』八段目「道行旅路の嫁入」

人形・戸無瀬役の和生さんの髪型がキマっていた。
私は文楽を観るようになって間もなく4年なんですが、この4年のあいだにも髪がどんどん減ってきている技芸員さんがいて、年月の流れとともに遺伝子の力に脅威を感じる。「おれは絶対にはげない」という人は、まったく減らないのだが……。それにしても、減っていくのは自然の摂理なのでそりゃそうだと思うのだが、逆に増えている人は何がどうなっているのだろうと思う。男性は毛先の長さには鈍感でも生え際や頭頂部の濃度には異様に敏感な傾向があるように思うので、ご本人方は客が勝手にウオッチするよりも一層牽制しあっているのではないかと思う。
あと、各公演初日に行くと、技芸員さんみなさん「とこや、いきたて……✨」って感じで、良いです。


16:32 休憩(15分)

15分しかないのでまあいいかと思い、席にじっと座っていた(じっとしているのが得意なので)。が、これが失敗だった……。


16:47 同 九段目「雪転しの段」「山科閑居の段」

この段、かなり重厚な扱いの演目となっており、上演時間が1時間45分もある。内容的にもかなり静かなので、人間(客)は人形以上にじーーーーっとしていなくてはいけない。最後のほうは人形さんとの我慢比べになってくる。さっきの休憩時間にストレッチをしておくべきだった。


18:38 休憩(25分)

夜ごはん休憩。私は夜公演では基本的にご飯は食べないが、今回は先ほどの入れ替え時間に難波へ行ったときに買ったフルーツサンド(難波の高島屋に入っているダイヤ製パンで購入)を食べる。「ミルフィーユサンド」という薄切りフルーツと薄切りパンを何層かに重ねたやつを買ったのだが……、ジャムの味がきつすぎるのと、フルーツが小さすぎて味があまりせず、美味しいには美味しいんだけど、食べ応えが虚しい……。普通にフルーツごろごろのものにすればよかったと後悔……。写真はありません。撮るより先に食ったので。

▶︎ダイヤ製パン フルーツサンド https://www.dia-pan.com/sandwich/fruitsand/


19:03 同 十段目「天河屋の段」十一段目「花水橋引き揚げの段」「光明寺焼香の段」

「天河屋の段」は通常短縮版で上演していたが、今回は初演通りのフル上演。以前、「天河屋の段」を観たのは2016年の東京公演。そのときの記憶がだいぶ薄れているが(正直、玉志サンが義平役だったことと、由良助が長持から出てきたことしか覚えていない)、確かにその時観たものよりだいぶ長く、新キャラ(?)が出てきている。あとで差分を確認しよう。


20:30 第二部終演

文楽のいいところは幕が閉まったら即終演なところ。もう一度幕を開ける演出やカーテンコールやアンコールは基本的にない。なので、終わったらすぐに席を立ち、ロッカーの荷物を回収してサッサと帰ることができる。大阪公演だとふだんは20時台前半に終演することが多いが、今公演は20:30と終演やや遅め。そそくさ退出。


21:00 ホテル

いつも劇場近くのホテルを確保しているので、一旦チェックインして、荷物を置きに行く。文楽劇場付近には雨後のタケノコ的にホテルがたくさんある。早めに予約すれば宿泊費も抑えることができる。私はだいたい3ヶ月程度前に予約している。


21:30 夕食

文楽劇場から難波・心斎橋等は徒歩距離。人と食事へ行くにしても、ひとりごはんでも、お店選びには事欠かない、利便性のある立地。ひとりのときはMyLove・サンマルコのカレーを食べに行きます。

サンマルコ……大阪のローカルカレーチェーン店。中村屋みたいな高級店とか、個人経営の有名店とかではなく、普通のスタンドカレーです。ココイチみたいな感じのものすごい普通の店なんで、地元の人しかいません。文楽劇場付近だとなんばウォーク、難波の高島屋にある。とんかつ屋が経営母体のため、かつカレー(880円)が美味しい。カツがやらかいです。無料トッピングとしてテーブルに置かれているのがパイナップル・青菜(?)・ピーナッツ・レーズンというのも好き。私はパイナップル・青菜を福神漬け的にサイドに添えて、ピーナッツをカレーソース側に、レーズンをごはん・ソースにパラパラかけています。私はかつカレーばかり頼んでいるが、ほかのお客さん(地元の人)は「なすびカレー」をよく注文してはります(「なすび」が大阪弁イントネーションなのがポイント)。
サンマルコはどこの店舗も店員さんの接客がチェーン店とは思えないほどものすごくちゃんとしていてすごい。若い子はバイトだと思うんだけど、どの若者もすごくしっかりしている。
東京だと池袋の東武百貨店の地下惣菜フロアに入っており(ルミネ前の入り口を地下に降りたところにある)、大阪同様のクオリティのかつカレーを楽しめます。

▶︎サンマルコ https://www.tonkatu-kyk.co.jp/sun


23:00 ホテル

ちょっとふらふらしてからホテルへ戻り、プログラムやその付録の床本を読み直したりして明日の2度目の観劇にそなえる。
今月の『仮名手本忠臣蔵』の目玉は、「天河屋の段」が原作通り(初演通り)という点。普段は上演時間の都合で後世の改訂短縮版で上演しているのだが、今回は時間の制約がないため、フル上演が可能となっている。せっかくなので、その差分を確認する。改訂版の「天河屋の段」は「文化デジタルライブラリー」にその床本のpdfがアップされているので、pdfと今回の付録の床本の文面を突き合わせて、改訂版ではどこがどう変更されていたか、今回復元された部分がどこなのかをチェック。また、今回の床本が本当に原作通りなのかは、オンライン辞書「ジャパンナレッジ」のサービスのひとつ、『新編古典文学全集 浄瑠璃集』で原作原文を参照すれば確認できる。「ジャパンナレッジ」は本来は大型辞書ユーザー向けのサービスだが、自分は『新編古典文学全集』をメインに使用している。文学全集のようなメチャ重・メチャデカな本を持ち歩かず/家に置かず/いちいち図書館へ借りに行かずにすむのは本当に便利。こういう旅先や出先だと、ことに便利。サブスクで月額1500円〜と若干高いけど、文学全集を全文横断検索できる等、紙の全集にはない新鮮な体験も得られる。

初回観劇時には大抵twitterへ公演の感想を投稿しているが、孫サだけは注意している。
孫サとは「技芸員さんのお孫さんがおじいちゃんの名前でネット検索してしまうこと」を意味するネットスラング(私が作った言葉)。その結果を作文等にして授業参観で発表という流れになると本当にやばいので、孫サされても差し支えない内容しか書かないように注意しています。エゴサはもう仕方ないと思うが(とはいえ技芸員さんはあまりやってないんじゃないかと思うが。肌感として能楽関係はやばいのでTwitter等へ感想書かないようにしている)、孫サだけは避けたいです。

明日の観劇の用意と荷物の片付けが済んだら、明日、らんらんおめめでバッチリ観劇できるよう、早めに眠ります……。

めちゃくちゃ長くなったので、2日目へ続く。

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