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文楽の旅 『一谷嫰軍記』 須磨寺、敦盛塚

初春公演のついでに、須磨寺(すまでら)へ行った。
12月に『一谷嫰軍記』を観たので、その復習(?)。須磨寺は神戸市須磨区にある。最寄駅はJRでは須磨駅、新大阪からはJR神戸線(山陽本線)で45分ほどかかる。普段大阪に行くときにはなかなかそこまで足を伸ばせないが、初春公演初日の前乗りをかねて行ってみた。


1. JR須磨駅

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JR須磨駅は、須磨浦の海岸に面した青春18きっぷ的な駅。駅から海岸まで遮るものはなにもなく、砂浜の傍に大きな駅が突然ぽこんと建っている。台風の際にどうなってしまうのか気になるが、ホームや駅舎からのぞむ海の眺望がすばらしい。
ここから須磨寺へは、山側へ向かって歩いていく。神戸らしい、山が海のすぐそばに迫った地形に情緒がある。が、googlemap経路検索の「近所の人のタイムアタックが反映されてしまう」罠にはまったらしく、絶対近所の人しか通らんだろっていうめちゃくちゃな道(すさまじい坂、異様に狭い裏道、民家の隙間)に入ってしまって、10分も歩けば着くと思っていたところ、20分ほどかかってしまった。
あげくの果てに交通量がクソヤバ+歩道なしの道路から本堂裏手の駐車場(須磨寺は山の真ん前的な場所に経っており、真裏は断崖)に着いてしまい、裏手のお墓側から境内に入ることになった。案内板がなく、駐車場から境内へどうやって入ったらいいかわからなかったので、近隣住民らしき方々のあとをついていった。最短距離狙いではなく、素直に大通りルートで行ったほうが早かった。


2. 大本山 須磨寺 本堂

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境内はかなり広く、余裕の建物配置。いぬさんぽをしておられる方が多く、犬人口がすごい。近所の人のおさんぽ憩いスポットなのだろうか。
それにしても、思っていた以上にギラギラぶりで驚いた。ギラギラと言っても、奈良京都にあるような観光寺院とかそういうベクトルではなく、なんというかこう……、サービス過剰というか、関西特有の自己主張溢れるサービス精神がすごい。「青葉の笛」や「首実検のときに義経が腰掛けた木」といった珍物件があるのは知っていたが、それ以外にも参拝客を飽きさせない施設がぎょうさんあり、盛りっぷりがすごかった。ボタンをぽちぽち押すと唱歌「青葉の笛」を奏でてくれる謎のマシーンとか、フリーで撞ける鐘つき堂とか、自由に回せる回転式のお堂とか、アクティビティがたくさんあった。が、あまりに盛り盛りすぎて、それに構っていると日が暮れてしまうので、まずは『一谷嫩軍記』関連の物品を探すことに。

↓ 情報量が多すぎる絵看板

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3. 首実検のとき義経が腰掛けた木

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ネタが細かすぎる珍物件、本堂の左手側にあるめちゃくちゃでかい木。
文楽の義経は空気椅子に座っておられ、玉佳さんプルプル状態だったが、本物の義経は木に座っていたようだ。一緒に見ていた小学校低学年くらいの娘さんが、源義経さんについて語っていた。義経、なぜフルネーム呼びの上「さん」付けなのかは不明。娘さんは源義経さんが敦盛の首を斬ったと思っておられるようだった。


4. 首洗いの池

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珍物件その2。熊谷直実が首実検に備えて敦盛の首を洗ったという池。本堂の左手側、腰掛けの木のそばにある。ナチュラルに境内に溶け込んでいるので、説明されないとわからん。たくさんの鯉が元気に泳いでいなすった。近所の人らしき方が「人面魚がおる」とおっしゃっていたが、発見できなかった。


5. 敦盛の首塚

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本堂の左手奥、一般のお墓の入り口付近にある。
横にある看板に「胴体はここにはないんで」的なことが書かれており、びびる。どうも胴体は一の谷にある塚に埋葬されたということらしい。一の谷ってどこ……? 山ん中……? と思ったが、そうでもなく近所らしかったので、後ほど行ってみることに。


6. 若木の桜

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珍物件その3。若木の桜だけあって、相当、若かった。周囲にも桜が植えられていて、紛れていた。福島にある「逆櫓の松」のような「本物は近代に入るまえに枯れてしまいました😢」的な謙遜はなし。そこは堂々としていた。


7. 源平の庭

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敦盛と熊谷直実が須磨の裏で出会った様子を再現した庭。なぜ……。国立劇場50周年記念で『一谷嫩軍記』が上演されたときのプロモーションで、この像の前で勘十郎様と和生様がポーズを取らされていた写真が出思い出される。一般参拝客の方はぴんときておられないご様子だった。


8. 青葉の笛

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宝物館にある。2本あるのはなぜ、と思ったら、片方は青葉の笛ではないらしい。青葉の笛、思っていたよりたくましい感じだった。


9. 弁慶の制札

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宝物館にある。かなりわかりにくい場所にさりげな〜くかけられていて、キャプションも何もない。突然遠慮深くなりやがって。誰も本物だと思っていないので大丈夫、そこは「伝 弁慶の制札」と書いておいてくれと思った。
しかし、むかしの人はみんな『一谷嫰軍記』を知っていて、参拝客が「これがあの有名な!!」と言っていたのかと思うと、隔世の感がすごい。歌舞伎か文楽を見る人でなければ、普通、知らないと思う。そして、『一谷嫰軍記』自体の元ネタは何なのだろう? 私にはそれすらわからない。

青葉の笛と弁慶の制札は宝物館に所蔵されているが、そもそも宝物館がどこにあるのかがわかりづらくて境内を歩き回ってしまった。お寺によくある有料制の博物館とかなのかと思ったら、半野外のものすごいオープンスペースで、フリーに入れるようになっていた。太っ腹。オープンエアぶりが若干気になるが……。小石でできた人形で平家物語を再現したコーナー等があり、ボタンを押すと動いたりナレーションが聞ける仕掛けになっていて、知らずに押してしまった人が「動いた!」「音が出た!」と叫んでおられた。


10. そのほか 寺・アクティビティ

須磨寺にはなぜこんなにゴテゴテに見所が盛られているのか。どうも「オモロイもん」を置こうというコンセプトのもとなされている、確信犯的なものらしい。

アクティビティ系は東京では大人は恥ずかしがってなかなかやらないが、関西だと老若男女問わずみんな突撃しておられた。文化が違うと感じる。

私がトライしたのは、回転式のお堂、青葉の笛マシーン、目と首を回せるかえるの置物。

回転式のお堂は、文殊菩薩をまつった小ぶりなお堂から水平に伸びている棒を押すと、お堂全体がまるごと回転するというもの。特に説明書きはなかったが、一度回すと超長いお経を読んだことになるとか、そういうたぐいのものだと思う。適度な重さで、トレーニング感があって良かった。あまり回すのも恥ずかしいので、1周だけにした。
誰でも撞けるフリー鐘つき堂は大人気。みんなガンガン撞いている。こどもさんがワイワイやっていらしたため、自分は遠慮した。ちょっとやってみたかった。

青葉の笛マシーンは音ゲー感覚の器具で、パネル上のボタンを押して音を出し、自分で唱歌「青葉の笛」を演奏するというもの。並んでいる順にボタンを押していけは正しい音は出るが、リズムは自分で管理しなければならない。五線譜等のカンペ的なものは表示されておらず、自分はそもそも「青葉の笛」の曲自体を知らないので、かなりオリジナルな演奏になっていたと思う。

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「目」と「首」が回転するかえるの石像。「びっくりしたい人は目を、借金に困っている人は首を回してください」と書かれていたので、ぐりぐり回して遊んだ。どういう仕組みになってるんだろ、近所の石材屋さんに作ってもらったのかなと思っておめめを引っ張ってみたら、おめめパーツがすっぽ抜けて、めちゃくちゃびびった。確かにびっくりした。そのとき背後をお坊さんが通っていったので、よりびびった。

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あと、お地蔵さんからのひとことコメント付きの七地蔵があったのだが、お地蔵さんのセリフが全部関西弁だった。地蔵菩薩って関西弁で喋るんだっけ? と思ったが、文楽に出てきたら大阪弁で喋りはじめる可能性が大いにあるで、そうかもしれないと思った。
あとはお坊さんがスタンバイしていて、お布施を渡すとその場で即座にお経を上げてくれる的なカジュアルコーナーがあったのがすごかった。大神神社も祈祷に特急コースがあったし、関西ではそういう需要が高いのだろうか。
とにかく10歩歩くごとにコテコテなものが参道脇に設置されている、前のめりなお寺だった。
須磨寺のコテコテぶりに十分満足したので、敦盛の胴体が埋まっているという須磨浦公園・敦盛塚へ向かう。



11. 敦盛塚

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googlemapを漠然と見て、「歩いていける距離だろう」と思ってノコノコ歩いていたら、結構遠かった。徒歩20分くらい。山陽電車だと1区間の距離で、電車に乗ればよかった。

敦盛塚は、海岸沿いに長細く広がる須磨浦公園の西端にある。スーパーでっかい石碑で、五輪塔としては日本最大クラスとのこと。昔は下の方は土に埋まっていたらしいが、掘り出していまのように整備されたようだ。石碑の前には「敦盛そば」なるものを出すお店があったが、閉まっていた。人はぜんぜんいなかった。というか、須磨浦公園自体、全体的に、人がほとんど歩いていなかった……。


12. 須磨浦

須磨の海岸。お正月だからか、近所の方がたこあげをしたりしていた。

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13. 須磨駅前のミスド

ねこがいた。近所の飼い猫のようで、人なつこく、あとをついてきた。なでなでさせてくれました。

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須磨は敦盛推しがとにかくすごかった。設置されている顔出し看板も敦盛だった。そこに顔出す?と思ったが、顔を出すようだ。
JR須磨駅から須磨寺、須磨浦公園とのんびり回り、途中で軽くご飯を食べてもう一度須磨駅に戻るまで、所要時間は約3時間ほどだった。遠方在住の場合、これだけのために須磨まで行くのは厳しいので、神戸観光と抱き合わせるといいかもしれない。

しかし関西って本当サービスの勢いがすごい。ここまでコッテコテに盛りまくったものが普通なのであれば、地味な文楽に客が入らないのも当然だなと思ったし(失礼)、勘十郎さんが謎のやりすぎに走るのもやむなしと思った。


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