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文楽の現場 #2 大阪遠征の現場 2日目、あるいは大人の趣味遠征の話 [国立文楽劇場公演]

先日の記事、大阪遠征の話の続きです。


[2日目]

??:?? 起床

無限に寝られる&とにかくギリギリまで寝ていたいタイプなので、ギリギリまで寝ている。そのため、ホテルを選ぶポイントとして、チェックアウト時間は重要。チェックアウトが11:00以降のホテルにすれば、ギリギリまで寝ていられる&ギリギリまでホテルでとぐろを巻いていられる。チェックアウト10:00のホテルを取った場合は、開演時間まで付近の喫茶店で朝食がてら、とぐろを巻く。(とにかくとぐろを巻く)


10:40 国立文楽劇場

文楽劇場1Fロビーには、文楽人形のめちゃくちゃでかい生首や食い倒れ人形が飾られている。
大阪名物食い倒れ人形は、実は文楽人形がモデルだそう。文楽劇場に置かれているものは特製で、文楽人形として本当に遣うことができる構造になっている(人形拵えは桐竹勘十郎さん)。あと、夏休み公演だとビックリマンコラボのフォトスポットなどのまったく意味わからないものが突如建立されることもあり、1Fは何がしたいのか全然意味わからんカオスな空間。

1Fにいすぎると錯乱してくるので、チケットを切ってもらって入場。幕開き三番叟を観る(おそらく配役は昨日と同じだけど……)。
三番叟は振り付けが決まっているけれど、遣っている人形遣いさんによって結構個性が出る。乙女ちっくな三番叟あり、めちゃくちゃ元気な三番叟あり、おっとりした三番叟あり、電車によくいる疲れたおじさん風というか二日酔い風の三番叟あり。文楽劇場は上演中立ち見不可だけど(幕見席も全員着席)、幕開き三番叟の上演中は着席の義務はないので、自席で観ずに最後列で立ち見しても面白い。ほかのお客さんも結構後ろの方で立って見ている。

開演前の2Fロビー。朝は比較的ゆったり座れます。


11:00 第一部開演 『心中天網島』北新地河庄の段

二日続けて同じ演目を観ることになるので、昨日よく観られなかった人形を中心に観る。

舞台を何度も観劇する方には、日替わりのアドリブが楽しみという方もいらっしゃると思うが、文楽には基本的にアドリブがない。
ただ、実際には微妙な誤差や、その場の進行状況等に応じた臨時の演技・演奏が行われることがある。あからさまに違うことをするわけではないが、ベテランでも日によって演技を調整することがあり(例えば演技のタイミング調整等は随時行われている)、特に初日近くは様子見等もあってその傾向がある。ほかには、小道具の出し入れ等にミスがあった場合、ベテランはアドリブを入れて場をつなぐことがある。そういう意味でのアドリブは時々発生する。今回もそれっぽい箇所があった。

人形遣いは舞台では無言というルールになっている。しかし、時々、声が聞こえることがある。私が見ている限り、たとえば初日近くでかいしゃく(舞台進行の補助のために配されている黒衣)が舞台進行を把握しきれておらず小道具・蓮台(客に見えないよう道具などを置く台)等の用意が的確にできていない場合、または相手役や自分の足遣いに教えながら進行する場合、あるいは事故の危険がある場合などは、ベテランが若い方に指示として声を出して注意をしているようだ。基本的には小声なので何を言っているかまでは聞こえないが、事故の危険が迫っているときや舞台進行に致命的となるミスが起こりそうな場合は結構大きい声で注意することもあり(大きめの咳払い的な合図をする方も)、前列のほうだと声が聞こえてしまうことがあるので、客席もちょっと緊張する。ベテラン二人に囲まれて両サイドから注意されている若い方が一番焦ってびびっていると思うが、若人よがんばれ!と思って見守る。


12:31 休憩(30分)

きょうのお昼は2Fロビー奥にあるお弁当売店で買ってみる。お弁当売店では、お弁当(幕内系、お寿司系、柿の葉寿司、サンドイッチ等)、ペットボトル飲料、カップコーヒー、ビール(アルコールは客席持ち込み不可)が販売されている。

柿の葉寿司を買うことが多いのだけれど、今回は買ったことがないものにしようと思い、「文楽弁当 華」(1200円)にしてみた。内容は上品な幕内弁当といった感じで、エビやしいたけの天ぷら、野菜の煮物が入っていた。結構おいしかった(言い方悪いんですが、私、「仕出しでぃす!!!!」って感じの仕出し弁当大好きなので、そのへん加味してください)。写真はありません。撮るより先に食ったので。ご飯にゴマがはじめかかかかっているのに、別途ゴマ塩の小袋がついていたのがよくわからなかった。

以前買ったお弁当。名称を確認せず買ったのだが、もしかしてこれが「浪花寿司」?

ロビーでは昨日に引き続き、吉田和生さんが募金活動をしていた。自分も寄付をしようと思ったが、さっきお弁当を買ったときに手持ちの現金を使ってしまい、財布の中が万札しかない。さすがに万札を入れると自分が干上がってしまうので、急いで日本橋駅(日本橋一丁目交差点)のファミマまで走ってコーヒーを買い、万札を崩した。ところがロビーへ戻ってみると、募金に長蛇の列が形成されており、記念写真撮影→寄付という流れができているではないか。記念写真は遠慮したいので、次回終演後のロビー混乱中を狙うことにして、退散。


13:01 同 天満紙屋内の段・大和屋の段・道行名残の橋づくし

ギリギリまで寝ていた甲斐があって、らんらんおめめでバッチリ観劇できた。

ここで、文楽の客層について。私の見た感じ、50〜60代の方が多い印象。男女比はトントンくらい。大阪公演のお客さんは、母娘の大人親子や中高年のご夫婦、ひとりで来ている人など多様な客筋で、ほとんどの人が劇場に来慣れている雰囲気。たとえば歌舞伎座の幕見のように、観光気分で来ている人は少ない印象がある。時々、学校の単位のために来たのかなという学生さんぽい若者が混入しているのが良い。若者、時々、上演中にまじびっくらこいたりしていて、ピュア。(まあ、首ポロリや切腹されたら、びっくりするのは普通の反応だけど……。文楽の客は「はいはい」で流しているが、「いつもの展開」だと知らなかったら衝撃だよね……)

文楽では、お客さんの服装にはレギュレーションはない。本当にみんな好き勝手な格好で来ている。演劇関係のマナー手引きにはよく「せっかくの観劇だからおめかしするのも素敵ですね^^」的なことが書いてあるが、文楽劇場の場合は9割の客は適当な服装ですね。「ランニングの途中で立ち寄ったのかな?」って感じの人もいるし。もちろん、素敵なお着物の方もいる。基本的に服着てればOK(それはそう)。私も普段と同じ格好。むしろ、4時間も席にじーーーーーーっとしていなくてはいけないので、着心地の悪い服は避けている。
ただ、お客さんの服装は東京公演と大阪公演で傾向が違うように思う。東京のほうが着飾っている人が多いかなあ。着物の場合は東西どちらもこなれた着こなしの人が多いけど、洋装で盛ってる系の人(ミニスカワンピで巻き髪とか)は東京公演でしか見かけない。あれは不思議。


14:48 第一部終演、外出

終演してロビーに出たら、今度は人形遣い・吉田玉男さんが小浪を遣って募金活動をしていた。あのおとなしい(?)玉男様が一生懸命声出ししながら募金を呼びかけていらっしゃるわ……と感動。終演後のグチャグチャで募金ブースまわりに寄ってきているお客さんが少ないのをいいことに、さっと近づいてさきほど崩したお金を募金箱へ入れる。募金箱の前にいたヤング・三味線さんたちが(⌒▽⌒)って感じで「ありがとうございまーす」と言ってくださり、玉男様はじっとこちらを見つめてくださいました。ほのぼのした。

そのあとは時間もあるので、道頓堀近辺を散歩。竹本座跡の碑を探しに行ったが、ヤマカンで行ったら見つけられなかった(持っているスマホの意味がない奴)。
仕方ないので法善寺横丁を覗いてみたりしてうろうろした。道頓堀、人出が本当にすごい。心斎橋付近にある「道頓堀くくる」、ものすごい行列ができているけど、東京にある「くくる」と何か違うのだろうか……。せっかく大阪に来たなら個人経営の小さなお店のたこ焼きが食べたい気がするが、みんなそんなこともないのか……。文楽劇場近隣のたこ焼き屋さんだと、劇場の隣にあるところと、向かいにあるところ(おおさっぱな言い方)は行ったことがあるが、もう少し開拓したい。

黒門市場側(千日前通り)から見た文楽劇場。建物上部にある「文楽」と書かれた出っ張りは、かつての芝居小屋にあった公認芝居の証「櫓」を模している。


15:40 第二部入場

開演少し前に2Fロビーへ戻ったら、やはり募金ブースに記念撮影の行列が形成されており、早々に入れておいてよかったと安堵。そして、玉男様が小浪を遣っているのを見たお客さんたちがホッコリ笑顔になっていた。きらびやかでかわいらしい小浪と一見無骨な玉男様が一切合ってなくて、本当に良い。玉男様は普段、男性の役しか勤めないため、ギャップがすさまじすぎてお客さんのウケはグンバツ。以前、東京公演でもオフクチャンの人形で募金活動をされていたが、それもめちゃくちゃウケまくっていた。こればかりは普段玉男様がどのような役をやっているか知っているお客さん向けのツウ好みのサービスだと思う。


16:00 第二部開演 『仮名手本忠臣蔵』八段目「道行旅路の花嫁」

太夫・三味線が多数出演する「道行」からはじまるので、床には開演前から見台が出ている。席が床から遠い人も、至近距離で見られるチャンス。

普段は人形中心に観ているので中央ブロック・中央付近の席を取ることが多いが、たまに床寄りの席を取る。太夫の発声や三味線の音の微細な部分まで聞こえるのが床寄り席の醍醐味。ただ、調子こいてあんまり床の間際の席にすると、時々、なにか飛沫的なものが降ってくる。真下の席だとそのなにかを浴びるのみだが、多少離れた席からだと、そのスプラッシュの様子が見られて、ちょっと面白い(自分にはかからないから)。
それと、床の真下席だと、見台(太夫さんが床本を置いている台)をギィギィ押してくる人がいて、このまま勢いよく落ちないかどきどきすることがある(さすがにそこまでは押さない)(そういう人は時々ヒュッと引き戻します)。
あとは時々、いい匂いがする人がいるのが良いですね。床が回ったときにフンワリ香りがする。香水とかじゃなく、おそらく着物にお香などで香りをつけておられるんだと思います。


16:32 休憩(15分)

前日の反省を受け、ロビーを徘徊して体を動かした(お年寄りの日向ぼっこ程度の運動……)。これで1時間50分の長丁場もばっちり。
以前、東京公演で『仮名手本忠臣蔵』1日で通し上演したときは、上演時間があまりに長すぎて(10:30開演・21:30終演とかだったと思う)、休憩時間、お客さんみんな体操していました。あれは良かった。むしろ劇場主導で人形と一緒に体操しようタイムを設けて欲しいくらいの謎の一体感があった。


16:47 同 九段目「雪転しの段」「山科閑居の段」

休憩時間に体を動かした甲斐あって、快適に観劇できた。人間には運動が必要だと思った。


18:38 休憩(25分)

2Fのお弁当売店でオヤツ調達。文楽パフェ(380円)。
奇想。
どういう発想で生まれた商品なんでしょうか……????? 食べてる人、ほとんどいないです…………。なお、東京公演の売店では信玄餅アイス、プリンが売られている。プリンは結構みんな食っている。

そして、売店で目をつけておいたグッズを買う。とは言っても、文楽には基本的にグッズはない。あるっちゃあるけど、やたら渋い絵葉書とか一筆箋とか手ぬぐいとか、好事家向けというか、シニア向け感が強い。新発売アイテムとかもあんまりなくて、ノンビリコとしている。あと、技芸員が自分でこさえたオリジナルグッズとかが売ってたりする。マグカップとか土鈴とか。事情を知らない人が見たら、なぜそんな同人グッズみたいなもんがあるのか、全然意味わかんないと思いますが……。どれも価格が異様に良心的というか、利益という概念がなさそうなのも特徴。およそ現代とは思えない時空が形成されている。

しかし毎年11月は違います! 来年用の公式カレンダーが発売されるので、それを買わねばなりません。壁掛けと卓上があり、壁掛けが1300円で卓上が800円くらいだったと思う。中に使われている舞台写真は両方で違うので、もちろん両方購入。壁掛けはおうち用、卓上は会社用にしている。会社では「よくわからないおじさん・じいさんの写真をデスクに飾っている人」だと思われています。いかんせん壁掛け用はサイズが大きく、荷物になるので、帰る日に買うのがコツ(?)です。

これは今年のカレンダー。微妙に季節を配慮しているような、していないような、微妙な写真セレクトです。

▶︎国立文楽劇場令和2年カレンダー https://www.ntj.jac.go.jp/topics/bunraku/2019/11227.html


19:03 同 十段目「天河屋の段」十一段目「花水橋引き揚げの段」「光明寺焼香の段」

今回は事前にオペラグラスを取り出しておいて、昨日見損ねた小道具「人形が遣っている人形」を観察。1日目かなりの良席だったにもかかわらず、肉眼では見えなかったのだ。オペラグラスを使えば見えるのだが、あまりに前列席でオペラグラスを使っていると出演者に失礼な気がして、1日目はいったんそのままスルーした。2日目は人形(人形を持っているほうの人形)の舞台への出入りや、いつその小さい人形をかかげるかのタイミングも把握できているので、開演前にオペラグラスを用意しておくことでピンポイントで観察できた。


20:30 第二部終演

第二部が終わったら、即座に東京へ帰る。
新大阪発・東京行きの新幹線の最終は21:23。早いよね。
文楽劇場出口から新大阪駅新幹線ホームまで約40分とみると、終演が20:30を過ぎると結構やばくなってくる。終演が20:30より遅くなる場合は、第二部の途中で帰るか、第一部だけで帰るかしている。

今回はなんとか終電に間に合いそうな終演時間なので、急いで劇場を出る。文楽劇場から御堂筋線なんば駅まで徒歩(早足or走る)で行く方法もあるが、地下鉄日本橋駅20:44の千日前線に乗れば新大阪へ21:07に着くとのことで(同じく東京から遠征に来ていた知人情報)、今回は地下鉄日本橋駅へ。

終演が20:00ごろで終電まで余裕がある場合は、文楽劇場の隣にあるうどん屋さん・麺之介で夕食をとってから帰ることもある。なんでもなさそうな外見の店だけど、かなりおいしい。肉うどんにビッグなごぼ天が乗った「肉ごぼううどん」が好き。(以前は900円台だった気がするのだが、いま調べたら、増税の影響か、1,100円になっているらしい)

麺之介……福岡うどんの店。豊前裏打会という流派のお店らしい。流派のほとんどが九州のお店で、大阪はここのみ(東京だと「大地のうどん」という加盟店が高田馬場にあるようだ)。私はラーメンよりそばよりうどん派、かつ西日本の透明だし系派なんですが、ここはほんとおいしい。フリスビーのようにでっかいごぼ天、やわらかい麺と淡い出汁のバランスがよくて、とても良い。大阪でうどんというと今井が有名だと思うけど、ぜひ麺之介へも行ってみてください。大阪うどんじゃないけど……。

▶︎うどん屋麺之介 https://tabelog.com/osaka/A2701/A270202/27051329/


20:37 日本橋駅/21:01 新大阪駅

日本橋駅で予定より1本前の地下鉄に乗れたので、新大阪駅へ早めに到着でき、お弁当を買う時間の余裕ができた。

終電で帰る場合、新幹線改札内の駅弁屋さんでは商品ほとんど売り切れている。それでも柿の葉寿司は大抵売れ残っているので、柿の葉寿司を買うことが多い(柿の葉寿司大好き)。今回はおなかがすいていたので、中華街の唐揚げ弁当というやつにしてみた(神戸の中華街ということ???)。写真はありません。撮るより先に食ったので。
夕方など早め時間帯に帰れる場合は、新幹線改札外・在来線コンコースにある「駅マルシェ新大阪」でお弁当を買っている。タイ料理のお店の駅弁が好き(ガパオやパッタイ、タイ惣菜が詰め合わせになったもの。1,000円くらい)。

基本的に、会社等への社交土産は買わない。文楽関係の遠出は頻度が高いので、いちいち会社の人へ言ったりするのも面倒なので……。
あえて言えば、日本橋付近はインバウンド向けでドラッグストアがめちゃくちゃ安いので、ミンティアとかスキンベープ虫除けスプレーとか蒸気でほっとアイマスクとか、そういうものを自分用に買って帰ることがあります……。(ただの買い物)

▶︎駅マルシェ新大阪 http://www.ekimarushinosaka.com/


21:23 東京行き新幹線最終

連休中だからか、満席。早々に予約していて正解だった。ドームライブ等がある時は終電近くの新幹線は満席になるので、新大阪に着いてから席を指定しようとすると、最悪、当日中の列車すべて指定席売り切れになっていることがある。乗るかどうかわからなくても、とにかくひとまず予約をしておいたほうが良い。あと、やっぱり電源がある席に座りたいし(吸電妖怪)。

ここまでに書いてこなかったが、各回終演するたび、スマホのメモ帳に舞台の感想を走り書き程度で書き留めている。見終わってすぐメモしないと、見たものをすぐ忘れて「印象」しか記憶に残らなくなり、時間が経つほどにそれが妄想で糊塗されていく感があるため。帰りの新幹線では、プログラムや床本を読み返してそれに補足を加えつつ、簡単にまとめておく。自分がそのとき舞台をどう観て、聴いているかを常に意識しておくことは意外に重要だと思うことが多いので、できるだけ記憶が鮮明なうちに書いている。


23:45 東京駅

帰京!! 自分よ、お疲れ様でした。


という感じで、大阪公演はだいたい土日利用の1泊2日で行っている。
以前は観劇前後に観光していたこともあったけど、最近は文楽だけのために行くことが多い。東京公演だと観劇前後に雑用や別件を入れることも多いが、大阪公演だと丸一日文楽観るだけで、ホテルは劇場付近で自宅にも帰らないから雑事にも惑わされない。たいへんな贅沢だと思う。たかだか1泊2日なんだけど、ものすごくゆったりと時間が流れる気がする。

大阪公演は東京公演と客の雰囲気が違っていて、同じ演目でもお客さんの反応が違って面白い。大阪のお客さんのツメ人形にも勝るザックリ感は、良い。文楽特有のおっとり感というか、のんびり感というか、自由ぶりを感じる。あの客席ののんびり具合は、初めて見る人、びっくりすると思う……。
なんで東京と大阪であんなに客筋が違うのか、不思議。東京の前方席は本気ヲタが多いような気がするが、大阪だと、普通に文楽が好きな普通の人とか、普通に見に来たって感じの普通の人が多数混じっている気がする。なんていうの? サファリパーク……? スーパー銭湯のロビー? みたいな……。そういう、客層による場内のほんわか感は、とても、良い。大阪のお客さんは、生活の中に、ふつうに文楽の観劇があるんだなと思う。

それと、大阪は都市として東京と全然雰囲気が違っていて、行き帰りや幕間に少し街を歩くのが面白い。難波近辺はなぜか看板が全体的に半立体なのが不可思議。心斎橋のツルハドラッグの看板のツルがまじ飛翔しているのは爆笑した。それと、かに道楽のかにの看板がうごうごしているのは、やっぱり何度見ても笑える。(精神年齢が幼児なので)
あとは、大阪市内の文楽に出てくる地名が実際にどんな場所なのか、地理関係を自分の実感として知ることができるのも良い。自分は東京在住で地名への土地勘がないので、実際に行ったり、路線図等を見て位置関係を実感するというのは、良い。

▶︎ツルハドラッグ戎橋店 https://www.ebisubashi.or.jp/shop/150.html


オトナの趣味遠征について

趣味の遠征って若い人のものという印象が強かったけど、文楽では、中高年の遠征をよく見かける。
というか、「残りの人生おもいっきりエンジョイするぞ!!!!!!」層のみなさんがいちばん熱意があって、ヤバい。

若い人は「推しがいつまで活動するかわからない!!」と思って遠征や応援をされるんだと思うんですけど、古典芸能の場合、逆。
先方は一生続けてくれる可能性が高いけど、それより先にコッチがくたばる可能性が高い。
公演会場で「ぼくが死んだあと、〇〇さんはどうなるんだろう……」とおじいちゃんが心配そうにつぶやいていたのが印象に残っている。それに、先方は何がなんでも舞台を勤め続けるだろうけど、いろんな事情でコッチが観に行けなる可能性も多分にあるし。自分に残された時間を意識してしまう。

(もちろん、自分の場合、基本的にベテラン出演者より若いので、先方のほうが先に死ぬ可能性が高い。舞台を観ていて、この人いまは元気そうだけど、病気しなくても、あと10年ちょっととかで、老衰で死んじゃうかもと思うことがある。そのとき自分は「十種香」の八重垣姫のようになるんだろうなと思う。そしてなにより、自分がいつまで好きでいられるかもわからない。でも、自分が好きでなくなっても、あの人たちはずっと続けてくれると思っているから、それはとても安心している)

古典芸能で遠征って文楽を観るようになる前は想像したこともなかったけど、文楽ではそこそこ普通のことのようだ。
首都圏在住の文楽好きの人で大阪公演も行っている人は、結構いる。自分の知人関係にも多数いるし、文楽劇場の場内では、喋り方(方言)や会話内容からして、首都圏から遠征で来ているらしいお客さんをかなりお見かけする。新幹線の切符を見て帰りの時間を確認している方もときどきおられるし。
文楽は東西で交互に大規模公演をしているから、どちらか片方しか行かないとなると、年間観劇数がどうしても少なくなる。これが遠征をする人の最大の理由だと思う。それと、文楽は大阪の芸能という特性がかなり強いので、なんとなく、やっぱり「大阪公演も観ないと」という気分になる。
在関西の古典芸能というと、能楽で京阪神在住の能楽師さんや関西の流儀のファンの方、上方落語が好きな方も遠征されているのだろうか。


おまけ 大阪遠征の予算

● チケット代 一部・二部ともに一等席×2回ずつ 小計20,160円
● 交通費 往復27,000円前後(都区内-大阪市内乗車券、東京-新大阪のぞみ指定席特急券、大阪市営地下鉄利用の合計)
● 宿泊費 4,000〜8,000円前後

チケット代も入れると1回5万円以上使っていることになる。チケット代・交通費・宿泊費すべて別のカードから落ちているので気づきにくいが、やばいね。1回ずつは贅沢しているわけじゃないけど、年5回も行くとやばいと思いました(いまさら)。
しかし、文楽劇場一等席、4回観ても正月の歌舞伎座の桟敷席1回分って、なんだか、すごい……。

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