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抗酸化・抗炎症作用で神経保護 脳に対するアスタキサンチンの効果をレビュー

脳の機能は加齢とともに衰えていきます。背景には、海馬など脳の領域における神経新生の減少などがあると考えられています。神経新生の減少を加速させる原因の一つは、酸化ストレスに伴う慢性炎症です。抗酸化作用や抗炎症作用のあるアスタキサンチンには、加齢に伴う脳の正常な老化を抑制するほか、神経変性疾患を抑制する働きがあることがわかってきました。

アスタキサンチンの脳での働き

学術顧問の望月です。今回の記事では、久しぶりにアスタキサンチンの機能性に関する情報をご紹介します。ピックアップしたのは、2023年に『Mar. Drugs』に掲載された「Dietary Astaxanthin: A Promising Antioxidant and Anti-Inflammatory Agent for Brain Aging and Adult Neurogenesis」です。

不二バイオファームで販売している「アスタニン」の原材料の一つでもあるアスタキサンチンは、エビやカニなどの甲殻類、サケやタイなどの魚介類に豊富に含まれているカロテノイドという天然の色素成分です。これまでの記事でも解説してきたとおり、アスタキサンチンには抗酸化作用と抗炎症作用があります。血液脳関門を通過して脳に到達するのも、アスタキサンチンの特徴の一つです。

今回のレビューでは、脳に対するアスタキサンチンの効果が検証されています。脳の機能は、加齢とともに低下していきます。脳の機能低下は、記憶力や注意力、学習や運動機能、感覚の認識などに影響を与えます。これらには、海馬など脳の領域における神経新生の減少なども関与しています。脳における神経新生を調節・制御しているのは、ホルモン、成長因子、炎症性サイトカインなど、さまざまです。食事や運動などの影響も受けていることがわかっています。

本レビューのテーマとなりますが、脳の老化や神経新生に対して、アスタキサンチンはどのような影響を及ぼすのでしょうか。本文では、120の論文を引用しながらアスタキサンチンの可能性を考察しています。レビューの内容を簡単にご紹介していきましょう。

試験管での実験では、アスタキサンチンが脳の前駆細胞の成長を促進することが確認されています。実際に、アスタキサンチンを混ぜたエサをマウスに食べさせる実験では、海馬の⻭状回の細胞増殖が促されて認知機能も改善することが証明されているのです。同様に、海馬によって制御される空間の認知力を調べるモリス水迷路の成績が向上したことなども報告されています。

最近の研究では、アスタキサンチンが行動や知覚などにもプラスの影響を与えていることが明らかになりました。さらに、アルツハイマーのモデルラットの異常行動を改善させるだけでなく、記憶力や認知機能を向上させることが確認されたのです。

メカニズムの解明も進められています。これまでの報告で、アスタキサンチンは海馬の働きに関わっている細胞外シグナル調節プロテインキナーゼ(ERK)というシグナルの伝達経路を調節していることが明らかになってきました。

ERKをどのように調節しているかについては解明されていない点も少なくありませんが、アスタキサンチンは神経新生とシナプス可塑性に影響を与える脳由来神経栄養因子(BDNF)の上方を制御していると考えられています。FOXO3関連の遺伝経路の活性化、脳のニューロンの成⻑や再生を通じてホメオスタシスに関与する分子経路に影響を与え、細胞増殖と神経前駆細胞の幹細胞の効力を強化することも明らかになりつつあります。

炎症の経路をアスタキサンチンが遮断

アスタキサンチンは、神経の炎症と酸化ストレスに関わる経路においても重要な役割を果たしています。老化によって神経新生が損なわれた脳では、酸化ストレスと炎症のレベルが上がります。これはアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の原因の一つです。活性酸素を増やす主因については、ミクログリアという中枢神経系グリア細胞の慢性的な活性化であると考えられています。

アスタキサンチンが神経細胞の再生を促進して、グリア線維性酸性たんぱく質(GFAP)、微小管関連たんぱく質2(MAP -2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、増殖関連たんぱく質43(GAP -43)といった脳機能の維持・改善に関わる重要なたんぱく質の発現を増加させることは、過去の記事でもご紹介しました。

重複するところもあるので、今回はレビューのポイントのみ整理しておきます。アスタキサンチンは、NF-κB経路を抑制して、炎症誘発性サイトカインの産生を減少させます。すなわち、老化や慢性的なミクログリアの活性化に関わる炎症を制限することで神経炎症を調節しているのです。

強力な抗酸化作用によって炎症の経路を調節しているアスタキサンチンは、神経原性微小環境の維持・回復に貢献しており、正常な老化と病的な老化の両方において脳の機能低下の予防に有効であると考えられています。アスタキサンチンの健康効果は多岐にわたりますが、今後、脳関連の分野の研究もさらに発展していくものと思われます。

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