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ケルセチンの高血圧改善作用を確認 明らかになりつつある降圧メカニズムにも注目

「発芽そば発酵エキス」には、そばの新芽の青汁を発酵することによって増えたケルセチンが含まれています。ケルセチンには、高血圧の改善作用があります。国内外の研究では、ケルセチンが血管コンプライアンス、末梢血管抵抗、総血液量、自律神経、ホルモンの働きなどを調節していることが確認されています。最近の研究では、血圧の上昇に関与しているイオンを運ぶ輸送体やイオンを透過させるたんぱく質の働きを調節していることもわかってきました。

1日500mgのケルセチン摂取で高血圧が改善

学術顧問の望月です。前回の記事では、ケルセチンというフラボノイド化合物の抗炎症作用をご紹介しました。今回は、『Molecules』という学術雑誌に投稿された「Actions of Quercetin, a Polyphenol, on Blood Pressure」というレビュー論文をチェックしていきます。論文投稿者は、立命館大学の丸中良典教授らです(論文投稿時は京都府立医科大学在籍)。

血圧は、血管コンプライアンス、末梢血管抵抗、総血液量、交感神経や副交感神経といった神経系、ホルモンの働きなどによって変動します。野菜や果物に含まれるポリフェノールには、高血圧を改善する働きがあります。抗酸化作用や抗炎症作用があり、内皮細胞や平滑筋細胞を含む血管細胞を保護することで血管コンプライアンスが維持され、降圧作用が得られると考えられています。そのほか、血圧調整にかかわるイオンを運ぶ輸送体やイオンを透過させるたんぱく質を調節する働きがあることも報告されています。

今回のレビュー論文では、ポリフェノールのうちケルセチンに焦点が当てられています。いくつかのヒト試験では、4週間から10週間の間に150〜730 mg/日のケルセチンを経口摂取すると降圧作用が得られることが報告されています。メタボリックシンドロームの人を対象とする試験、2型糖尿病の人を対象とする試験などがピックアップされていますが、詳細についてはここでは省略します。複数の研究結果を解析するメタアナリシスでは、500 mg/日を超えるケルセチンの継続摂取によって、収縮期血圧と拡張期血圧の大幅な低下が見られると紹介されていました。

ケルセチンの降圧作用は、モデル動物でも検証されてきました。腎性高血圧ラットの大動脈では、ケルセチンによって血管弛緩が強くなることが確認されています。また、塩誘発性高血圧を発症したラットの大動脈においても血管拡張が増強することがわかっています。カルシウムイオン(Ca2 +)を透過させるたんぱく質の遮断薬である「ベラパミル」と比較した実験では、ケルセチンには同等以上の効果があることが確認されました。血管の弛緩だけではなく、体液量の調節にもケルセチンが関与している可能性を示唆しています。

そのほか、自然発症高血圧ラットでも降圧効果は認められており、ケルセチンが副交感神経を優位にして血圧を下げること、ノルアドレナリンによる血管収縮を弱めること、収縮血圧の上昇にかかわるアンジオテンシン変換酵素(ACE)のmRNA発現の減少とACE活性の阻害を介して、レニン-アンジオテンシン系という経路を遮断することなどが確認されています。

血圧上昇にかかわるイオンの取り込みもコントロール

イオンを運ぶ輸送体やイオンを透過させるたんぱく質との関係にもふれておきましょう。塩分感受性高血圧ラットにケルセチン10 mg/kgを毎日経口摂取させたところ、収縮期血圧の上昇が大幅に抑制され、尿量と尿中への塩化ナトリウム(NaCl)の排泄が増加する傾向が認められました。この研究では、ナトリウムイオン(Na +)を透過させる「上皮Na +チャネル(ENaC)」の孔を形成するたんぱく質分子のmRNAの発現を減少させ、腎臓で再吸収されるNa +の量をケルセチンが調節していることが確認されています。

ENaCに注目した研究では、ケルセチンの新たなメカニズムも明らかになりつつあります。ENaCの発現が増加すると、Na +の再吸収によって体液の増加に伴って血圧が上昇することがわかっています。ENaCは、腎上皮細胞のNa + -K + -2Cl-共輸送体1(NKCC1)の刺激によっても発現しています。このNKCC1によって調整されているのは、サイトゾル(細胞質基質:細胞内の部分の呼称で、細胞質から細胞内小器官を除いた部分)塩化物イオンの取り込みです。

ENaCの発現は、塩化物濃度が減少すれば増加、逆に、塩化物濃度が上昇すれば減少することがわかっています。最近の研究では、ケルセチンはNKCC1を活性化し、塩化物濃度を上昇させる働きがあることが確認されました。先ほど、ケルセチンによってENaCの孔を形成するたんぱく質分子のmRNAの発現が減少することを紹介しましたが、この働きはケルセチンによって活性化されたNKCC1による塩化物濃度の上昇を介して媒介されている可能性があるそうです。

ケルセチン機序

ケルセチンの抗高血圧作用の想定作用機序

難しい話となってしまいましたが、ケルセチンには、血管コンプライアンス、末梢血管抵抗、総血液量、交感神経や副交感神経といった神経系、ホルモンの働きのほか、イオンを運ぶ輸送体やイオンを透過させるたんぱく質の働きを調節する特性があることがわかってきています。

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