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黒ニンニクがガンの細胞死を誘導 ニンニクの抗酸化・抗炎症作用と抗ガンメカニズム

黒ニンニクは、ニンニクを特定の条件で発酵・熟成させたものです。加工の工程で機能性成分が増えて、抗酸化作用・抗炎症作用が強くなることがわかっています。抗酸化作用・抗炎症作用は、抗ガンメカニズムにも影響を与えます。ガンの発生や増殖には、酸化ストレスと慢性炎症が関わっているからです。近年の研究で、ガンに対する黒ニンニク抽出物の有効性や作用機序などが明らかになりつつあります。

熟成によって健康効果が増強

学術顧問の望月です。6月に公開した2本の記事では、ケルセチンの最新の研究情報をご紹介しました。今回は、ニンニクの学術情報を久しぶりにピックアップしました。2024年に『Int. J. Mol. Sci.』に掲載された「Anti-Cancer and Anti-Inflammatory Properties of Black Garlic」というレビューでは、抗酸化作用・抗炎症作用を持つ黒ニンニクの効ガン効果が整理されています。

黒ニンニクは、温度・湿度・期間など特定の条件で管理・製造された発酵ニンニクのことです。具体的には、温度60〜90°C、湿度60〜90%という条件下で10〜80日間発酵・熟成させたものと定義されています。加工の工程で、白色だったニンニクは暗褐色~黒色へと変化。生ニンニクに含まれるアリインはアリシンに変換されることでニンニク特有の強いにおいを発生させますが、黒ニンニクに加工する過程でアリインの含有量が減少することにより鋭い味を失う一方で、甘味が強くなることが知られています。

黒ニンニクには、フェノール類、フラボノイド類、S-アリル-システイン、S-アリル-メルカプト-システイン、5-ヒドロキシメチルフルフラールなど、抗酸化作用の強い化合物が豊富に含まれています。アリシン由来の有機硫⻩化合物であるジアリル硫化物、ジアリル二硫化物、ジアリル三硫化物、ジアリル四硫化物も含まれており、ポリフェノール、チオスルホン酸塩の含有量が増えることも確認されています。

実際に、黒ニンニクには生のニンニクよりも強い抗酸化力があります。低濃度(4 mg/mL)でも生のニンニクよりも強い抗酸化活性を示すことが確認されているほか、DPPHフリーラジカルの阻害効果を調べる実験では、10mg/mLの成熟黒ニンニク抽出物は51 ± 5.7%だったのに対し、白ニンニクの阻害効果は同じ濃度で12 ± 2.6%であることが確認されているのです。なお、アルコール抽出よりも水抽出のほうが黒ニンニク抽出物の抗酸化活性は強くなる報告されています。

黒ニンニクには、強力な抗炎症作用もあります。抗炎症作用をもたらしているのは、ピルビン酸塩、S-アリル-システイン、2-リノレオイルグリセロール、5-ヒドロキシメチルフルフラールなどです。

マウスを使った実験では、黒ニンニクがマクロファージの活性化を抑制して、一酸化窒素、腫瘍壊死因子、インターロイキン6などの炎症性メディエーターの放出を減少させることが確認されています。そのほか、ビタミンC、D、B12との組み合わせで抗炎症作用が増強することなども明らかになっています。

強力な抗酸化作用と抗炎症作用を持つ黒ニンニク。多岐にわたる分野で機能性に関する研究が進められていますが、注目の一つは抗ガン効果の研究です。発ガンには、内部要因と環境要因が関わっています。体内で過剰に増えた活性酸素種は、内部要因の一つとして知られています。酸化ストレスは慢性炎症と関連しており、細胞の突然変異などが起こった結果、ガンは発生してしまうのです。

黒ニンニクがガンの細胞死を誘導

黒ニンニクの抗酸化作用と抗炎症作用は、抗ガンメカニズムに影響を与えているのでしょうか。レビューでは、乳ガン細胞、ヒト白血病細胞、結腸ガン細胞、ラットの肝臓ガンなどに対する黒ニンニクの効果が複数紹介されています。

黒ニンニクの代表的な抗ガンメカニズムは、ガンの細胞死を引き起こすアポトーシスの誘導です。細胞実験では、黒ニンニク抽出物が乳ガン細胞の増殖、遊走、浸潤、転移を阻害することが確認されています。さらに、抗アポトーシスたんぱく質であるMCL-1およびBCL-2の発現の阻害を介して乳ガン細胞のアポトーシスを刺激すると同時に、アポトーシス促進たんぱく質であるBIMおよびBAKの発現を刺激していることも明らかになっています。

そのほか胃ガンの細胞を使った実験では、黒ニンニク抽出物が抗ガン作用と免疫調節作用を発揮すること、用量依存的に効果が強くなることなどが確認されています。さらに、ガンの進行に関わる血管新生形成を阻害する働きがあることも明らかになっています。

一方、過去の実験では、乳ガン、肺ガンなど、黒ニンニク抽出物がアポトーシスを引き起こすタイプ、引き起こさないタイプのガンがあることがわかっています。ニンニク抽出物に対する耐性や分子的な特徴は、今後の研究で明らかになっていくものと思われます。その過程で、抗ガン剤に耐性のある腫瘍細胞に対するアポートシス誘導効果などが確認されていくことも期待しています。

今後は、臨床試験での効果の検証が必要になってくるでしょう。適切な用量での有効性が確認されれば、研究はガン治療における新薬開発の分野にも発展していくかもしれません。身近にあるニンニクの研究に、今後も注目していきたいと思います。

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