糖尿病・糖尿病網膜症の予防・改善が期待されるニンニク 血糖降下・抗血管新生・神経保護効果をレビュー
血流障害で糖尿病網膜症のリスク増
学術顧問の望月です。前回の記事では、喘息に対するニンニクの効果を検証したレビューを取り上げました。今回は、2023年に『Chinese Medicine』に掲載された「A review on the effect of garlic on diabetes, BDNF, and VEGF as a potential treatment for diabetic retinopathy」をご紹介します。
レビューのテーマである糖尿病は、血液中のブドウ糖を筋肉などに取り込むのに必要なインスリンというホルモンの感受性や分泌量が低下して、血糖値の高い状態が続く病気です。高血糖が長期間続くと、糖尿病合併症が起こります。糖尿病の三大合併症として知られているのが、「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」です。糖尿病合併症には、血管新生、神経変性、炎症などが関わっています。
レビューで取り上げられている糖尿病網膜症は現在、日本における中途失明の原因の第2位となっています(1位は緑内障)。糖尿病網膜症の原因は、簡単にいうと、慢性的な高血糖で起こる血流障害に伴う網膜の酸素や栄養の不足です。いずれにしても糖尿病では、血糖値を下げることが重要となります。
これまでの記事でも解説してきたとおり、ニンニクには心血管疾患に対する保護効果や糖尿病などの代謝性疾患の治療効果などがあります。本レビューでは、糖尿病をはじめ、細胞および分子レベルでの血管内皮増殖因子(VEGF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現にニンニクが与える影響などが検証されています。
VEGFは血管の恒常性に必要な糖たんぱく質で、低酸素状態や虚血になると発現が増加する性質を持っています。VEGFが過剰に増えると、網膜における新生血管の形成が促されます。VEGFは炎症性サイトカインとしても作用しており、慢性炎症や神経の損傷・保護などにも関わっていることがわかっています。
一方のBDNFは、神経細胞の成長や再生を促すたんぱく質です。神経変性疾患をはじめ、神経の修復などにも関わっています。近年の研究では、健康な人と比較して糖尿病患者の血中の BDNF レベルは低いこと、糖尿病ラットの網膜ではBDNF濃度が低下していることなどが明らかになりつつあります。
網膜の酸化ストレスや炎症が軽減
レビューでは、生のニンニク、加熱処理したニンニクの水性抽出物、ガーリックパウダー、熟成ニンニク抽出物、ニンニクオイルを用いた研究を分析しています。考察されている機能性物質は、アリシン、アホエン、ジアリルポリスルフィド、ビニルジチイン、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、S-アリルシステインといった硫⻩化合物、そのほかの非硫⻩化合物です。多岐にわたる論文が引用されているので、ここからはポイントのみご紹介します。
糖尿病に対するニンニクの効果については、炎症の改善、インスリン抵抗性の改善、膵臓β細胞の機能の改善、インスリンの分泌促進などが挙げられています。詳細は割愛しますが、端的にまとめると、レビューでは空腹時血糖値やHbA1cの改善のほか、薬とニンニクの併用によって治療効果が増すことなどが、関与成分やメカニズムとともに解説されています。
ニンニクとVEGFの関係についても見ていきましょう。ニンニクには、VEGFを抑制する働きがあります。インターロイキン(IL-1β、IL-4、IL-5、IL-10)などの炎症誘発性サイトカインのレベルを低下させる働きもあり、ビタミンCやビタミンEといった抗酸化物質との併用で効果が増大することも確認されています。
ラットを用いてジアリルスルフィドの抗血管新生活性を検証した研究では、腫瘍による毛細血管形成の阻害と炎症誘発性サイトカイン産生の減少が示されています。また、ニンニクとレモンの水抽出を組み合わせれば、乳がんマウスの血管新生が減少してアポトーシスが引き起こされるという結果が得られています。ニンニクの抗VEGF効果は、悪性細胞死におけるアポトーシスや、細胞モデルにおける血管新生の減少につながっているというわけです。
BDNFとの関連については、ニンニクオイルを⻑期間投与することで海馬のBDNFが増強されることが示されています。これは、モノアミン神経伝達物質調節およびBDNF関連シグナル伝達経路を介する効果です。そのほか、神経損傷によって引き起こされる損傷の軽減、神経障害性疼痛の改善などの効果も報告されています。
これらの働きは、糖尿病網膜症にも有益な効果をおもたらすのでしょうか。ある研究では、ニンニクの摂取によって糖尿病ラットモデルの網膜細胞における VEGFの発現が対照群と比較して有意に減少することが実証されています。
また、ニンニクの成分は、核因子カッパB(NF-κB)という経路やmRNA発現の下方制御によって、網膜の酸化ストレスと糖尿病性網膜症を軽減することも確認されています。さらに、前糖尿病のラットモデルの食事にニンニクを3%の割合で混ぜることで、網膜の機能的・構造的・分子的異常を防げる可能性も示されています。
人間を対象とした研究も進められています。糖尿病患者117人の目を対象とした臨床試験では、ニンニクの摂取が視力を著しく改善し、中心⻩斑の厚さを減少させ、眼圧を下げる可能性があることが報告されています。これは、ニンニクが糖尿病性⻩斑浮腫の補完的な治療法となり得ることを示唆しています。
中にはニンニクの効果を懐疑的とする論文もありましたが、抗糖尿病作用、抗血管新生作用、神経保護作用を持つニンニクは糖尿病網膜症の補完治療となりうるといえそうです。さらなるエビデンスの蓄積に期待したいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?