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SF映画を見れない理由

Date.2013.10.26

今回は一か月滞在していたフィリピンについて、忘れないうちに残しておく。

まず私にとってこれが初海外、初飛行機。何もかもが負担だったけれど私はいつものようにネットを駆使してなんとか現地まで無事着くことに成功した。

こういう時に、私はまるで自分が幼稚園児のような気分になる。なんにもわからなくて途方に暮れているのに、誰にもそのやり方を聞けない。思い起こせば昔から誰かに聞くという選択肢を私は持ち合わせていなかったような気がする。今はネットが発達してGoogle先生が色んな事を教えてくれるけれど、幼いころの私はこの愚鈍な性根のせいで随分たくさんのことを逃してきた。冒険という言葉に親しみのない人生である。

私が滞在している間完全なる雨期ど真ん中だったフィリピンだけど、そんなことはなんのその私はあまり外に出なかったので関係なかった。フィリピンでも引きこもりは治らなかった。

なぜなら、私は完全に集団生活に辟易としていた。日本にいる間はいくら友達ができなくても、いくら個人行動していようと何も言われない。私は東京のそういう許容力がひたすら恋しかった。フィリピンでは先生(現地人)に「君がshyなのは理解してるけどもっと自分から話かけたりして友達を作るべきだよ」とハッキリと言われて、これがかなり応えた。

もう成人したいい大人が、友達を作りなさいという小学生みたいな内容で怒られること。明らかに根底からテンションが違うタイプの人と付き合わなければいけないこと。そこには自然さなんて皆無なわけで、後半の二週間は私は東京の私ではない私として過ごしていた。普段は読まない江國香織を読んで、女として生きている人の不可解さと不気味さに夢でまで魘されたり、ケルアックの路上を読んで自分がフィリピンではなくアメリカにいるように錯覚したり、数週間たって振返ってみると、とても尋常じゃない状態だった。

よく留学に行った人の話で「価値観が変わった」だとか言うけれど、そんなもので変わるようなら最初からたいした価値観なんて持ち合わせていなかったのではないかと思うほど、私の過ごしてきた年月と価値観は頑強だった。それはたった一か月だからだと言う人がいることもわかっているけれど、私には単純に向いていないと思った。

そのことは私がフィリピンが嫌いになったわけではないということに表れていると思う。きっと観光で来ていたらもっと素直に好きになっていた。その証拠に世界遺産のサンオウガスチン教会に行ったときは楽しかった。

あの教会にいる間、ひどく蒸し暑い日だったけれど、私は初めて呼吸が楽だと思った。死者が眠る横で結婚式が挙げられていて、生と死のスタートラインが同一であることにひどく安心した。私は神も、輪廻転生も、奇跡も信じない。だけどキリスト教徒の人はあの教会の木洩れ日にすら神を感じるのかもしれないと思ったら、泣きたくなった。世界は多重であることを許されているのに、どうして価値観は多重であってはいけないのだろうか。案の定その次の日から二日間寝込んだ。

結果として単純に私は海外に住むということに向いていなかっただけだ。これは日本にいてもそうだけれども自分の意見を曲げられない瞬間というのがどうしてもある。宗教の強制ができないように、価値観の強制だってできない。そのことはひどく当然のことであるけれども、たとえぶつかっても見て見ぬふりをする日本はある意味で私にとっては気楽な場所であることだけが強い実感として残った。

私の友人に自分に興味を持ってもらえないといつも悲しんでいる子がいるけれど、私はその子を見るたびにいつも無関心がほしいと思っていた。それは家族が私に無関心だったことに慣れきっているからだと思う。関心を望む人は関心が人を殺せることを知っていないければならない。私はフィリピンにいる間無関心がどれだけありがいことかを英語よりも学んだ気がする。

今、フィリピンから帰ってきて数週間経っているけれども、私はまだ私の生活を取り戻せずにいる。何をしても希薄で、ずっとあの教会に取り残されているような気がする。きっとあの場所に置いてきた苦しみは、東京で生きていくためには必要なものであったのだ。だから久しぶりに行った渋谷の街はひどく私の肌を削ったのかもしれない。いまだに日本人が日本語をしゃべることにびっくりする瞬間があって、一か月しか日本を離れていなかったのに私の日本語の語彙が貧相なものになっているのがわかる。この記事を書いている間も、もともと書くことが下手なのにさらに下手になっている現実がつらくてミルキーを8個も消費してしまった。

今後は私は観光でしか日本を出ないだろう。行きたい国はたくさんあるけれど、住みたい国は日本でしかない。そしてそんなことばかり考えているから今日もSF映画は見れない。

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