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六尺サイズのこんちきちん

コンコンチキチン、コンチキチン……
コンコンチキチン、コンチキチン……

7月になり、陽が落ちると囃子の音が聴こえる。
家向かいの公園で夏祭りの練習を子どもたちがやっているのだ。音色からして六尺サイズのこんちきで。

街灯の薄明かりの下、小さな祠の前で一所懸命にコンコンチキチン、コンチキチン……初めの2拍は太鼓の音に合わせて「コン、コン」それから鉦だけ「チキチン」それを何度か繰り返した後、速度を増した太鼓と鉦が「チキチンチキチンチキチンコンコン……」
この早くなった囃子を、祭り本番は保ちつつ奏でるのだ。神社の境内で順ぐり順ぐり。それに合わせて龍踊りも舞われる様子は、日本人なら誰でも染みるのではなかろうか。

この地域には、楽車と呼ばれる地車(山車)がある。この地車の上に演奏の人間と、龍踊りをする人間が乗っていて、地域を一周する。店の前では立ち止まり、大阪締めを行う。

うーちましょ!……もひとつせえ!……祝うて三度!

そうしてまたコンチキコンチキ……と進み出す。それがこの地域の夏祭りだ。
道路には日の落ち切る前から昔ながらのテキ屋が並ぶ。スーパーボールすくい、たません、たこやき、ラッキーボール、わたがし、金魚すくい。わなげ、牛串にからあげ、ヨーヨー釣り、かき氷……あそこはシロップかけ放題。いかやき、ベビーカステラ、焼きそば、ダーツゲームにポテト、きましは……?ああ、はしまきか。千本くじに……あっ、どじょうすくいあるやん!珍し!

そう、夏祭りはテーマパークだ。どこかの世界的テーマパークにも負けていない。少し歩けば生國魂さんもある。同じような時期に祭りをしている。ここでは枕太鼓というのが見られるが、それもまた壮観なのだ。
コロナで何もなかった時は夏が来た気がしなかった。どこからも祭囃子が聴こえない、どこにも屋台がない。誰もいない、ただ、夕暮れが街を染め上げるだけの7月。

織田作之助の小説にも生國魂神社の夏祭りのことはよく描かれている。

上本町七丁目の停留所から、西へ折れる坂道を登り詰めると、生国魂の表門の鳥居がある。
 その鳥居をくぐって、神社まで三町の道の両側は、軒並みに露店が並んでいた。
……——「道なき道」より

今でも三町あるかは定かではないが、そこはもう神社関係あれへんやろ。と思うようなところにまで屋台は出ている。7月は祭りを梯子してもよいかもしれない。

コンコンチキチン、コンチキチン……

ああ、生國魂さんの大阪締めはこうだっけ、

うちまーしょ!……もひとつせえ!……祝うて三度!
……めでたいなあ!……どんづまり!

私はこの生玉締めが好きだ。めでたい事を終わらせたくない気持ちがありありと表せている。音頭を取る太鼓や笛の音も大好きだ。賑やかで、楽しげで、ハレのケで悪いことなど吹っ飛んでしまいそうだから。

だけども諸事情で今年は7月の祭りに行けそうにない。残念無念だがまた来年。


…………境内に入らへんかったら大丈夫とかない?

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