見出し画像

宇宙の世界へようこそ⑩「二液式ロケット」

液体燃料ロケットには一液式と二液式があり、二液式ロケットは燃料と酸化剤を反応させることにより真空の宇宙で燃焼による高圧ガスを生成し推進力とするロケットのことである。二液式ロケットの推進剤には燃料と酸化剤の組み合わせが無数にあるが、毒性や温度管理や性能などの観点から使いやすい組み合わせは限られている。

2020年代時点でよく使われるのは酸化剤に液体酸素(LOX)を用いた組み合わせで、燃料には液体水素(LH2)、液体メタン、ケロシン(RP-1)などが使われる。理由として、酸素については地球大気に多く含まれているため冷却液化して入手可能である点や、分子量が小さいため比推力(燃費)を大きくしやすく、低毒性で取り扱いが容易なことなどがある。性能に着目した場合は分子量の小さい水素を燃料に、入手性に注目した場合は火星などの二酸化炭素からサバティエ反応により入手しやすいメタンや一酸化炭素を燃料に採用することが多い。なお酸素や水素やメタンを液化するには-180℃以下に冷却する必要があり、蒸発しやすいため長期保存には工夫が必要なこと、燃焼開始に点火システムが必要なことなどが欠点である。

これに対してハイパーゴリック推進剤という混ぜるだけで燃焼が進む推進剤の組み合わせも存在し、非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素、トリエチルアルミニウム-トリエチルボラン(TEA-TEB)と液体酸素(LOX)などの組み合わせがある。特に後者は酸化剤の液体酸素が共有できるため、液体酸素-ケロシンロケットなどの点火システムとしても採用される。

二液式ロケットは大推力を発生できるため打ち上げロケットに多く採用されるが、推進薬を反応させる「燃焼室」はかなりの高圧になる。そのため燃焼室に推進薬を送り込むターボポンプやその駆動サイクルには高い能力が求められる。簡単なものに、ヘリウムなどの高圧ガスでタンクから推進薬を押し出す「圧送式サイクル」や電気でポンプを動かす「電動ポンプサイクル」があり、続いて燃焼室から高圧ガスを抽出してポンプを動かす「タップオフサイクル」、ロケットノズルを冷却して高圧ガス化した燃料で動かす「エキスパンダーサイクル」、小さな副燃焼室で生成した高圧ガスでポンプを動かす「ガス発生器サイクル」、副燃焼室で生成した不完全燃焼の高圧ガスでポンプを動かしつつガスを主燃焼室で更に燃焼させる「二段燃焼サイクル」などがある。またピストンエンジンとピストンポンプを組み合わせて使う場合があり、これは性能が低いかわりに安価である。

こうして得られた高圧ガスをロケットノズルで適切に膨張・加速させることで高速のガスに変化して推進力を得ている。特にノズルの形状は高圧ガスを膨張させる能力に大きな影響を与えるが、地表の1気圧環境と真空中とでは最適なノズル形状が異なる。性能がノズル外の気圧に左右されないエアロスパイクノズルも存在する。

また「デトネーション」という、ガス燃料が超音速衝撃波により圧縮され、衝撃波面で燃焼が進むロケットも存在する。燃焼効率が高いこと、排気が超音速なため大掛かりなノズルが不要なこと、燃焼室圧力が低いためポンプ性能が下げやすいなどがメリットである。パルスデトネーションと回転デトネーションの2つの形態がある。

参考資料
・液体燃料ロケット(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%B2%E4%BD%93%E7%87%83%E6%96%99%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88#%E4%BA%8C%E6%B6%B2%E7%B3%BB%E6%8E%A8%E9%80%B2%E5%89%A4%E3%81%AE%E7%B5%84%E3%81%BF%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B
・ハイパーゴリック推進剤(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E6%8E%A8%E9%80%B2%E5%89%A4
・ハイパーゴリック推進薬(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Hypergolic_propellant
・圧送式サイクル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%A7%E9%80%81%E5%BC%8F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・電動ポンプサイクル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%8B%95%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・タップオフサイクル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・エキスパンダーサイクル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・ガス発生器サイクル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%82%B9%E7%99%BA%E7%94%9F%E5%99%A8%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・二段燃焼サイクル (wiki)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%AE%B5%E7%87%83%E7%84%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
・XCOR ピストンポンプ採用ロケットエンジン開発中(フリーライター 秋山文野の取材日誌) https://isetoku.wordpress.com/2013/09/28/xcor-%E3%83%94%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%97%E6%8E%A1%E7%94%A8%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3%E9%96%8B%E7%99%BA%E4%B8%AD/
・XCOR Reaches Milestone in Liquid Hydrogen Engine Program(Parabolic Arc) http://www.parabolicarc.com/2013/11/19/xcor-reaches-milestone-liquid-hydrogen-engine-program/
・ロケットエンジンノズル(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%83%8E%E3%82%BA%E3%83%AB
・エアロスパイクエンジン(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Aerospike_engine
・パルス・デトネーション・エンジン(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%88%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
・世界初!「回転デトネーションエンジン」宇宙飛行実証成功と、それを記録した大容量データ装置の回収のための新型サンプルリターンカプセル(Cosmos(ISAS広報サイト))https://cosmos.isas.jaxa.jp/ja/the-worlds-first-space-flight-for-the-rotating-detonation-engine-and-a-glimpse-at-a-new-sample-return-capsule-ja/
・JAXA・名大など開発の「デトネーションエンジン」宇宙空間での実証実験に成功(sorae) https://sorae.info/space/20210902-rotating-detonation-engine.html

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?