何処までもやせたくて(73)眠れない、眠りたい


最寄り駅から、歩いて5分ほどの距離にある、なみちゃんのマンション。
前に来たときは、けっこう近く感じたのに、今日はすごく遠かった。
最後のほうは、足がガクガク。
前に来たときは、まだ30キロ台の後半だったから、
今より、体力あったのかな。

そういえば、なみちゃんも、私のこと、心配しながら、
冷蔵庫や台所、自由に使って、って、言ってたっけ。
過食のスイッチが入りそうな気がして、怖いけど、
肉とか、脂ものが食べられない体質で、草食動物みたいななみちゃんの家なら、
スイッチが入らずに済むような、安全な食べ物が見つかるかもしれない。

そう思いながら、まず、冷蔵庫のドアを・・・
開けた瞬間、愕然。

野菜とかも入ってるけど、食べられないはずの肉関係の食材もいっぱい。
受け付けないと言ってた、炭酸飲料の大きなペットボトルまである。
冷凍庫にも、脂ものの冷凍食品がどっさり。
こんな、こってりとして、カロリーが高そうなもの、なみちゃん、食べられるのかな。

あ、そうか、カレができたのかもしれない。
そういう人に作ってあげたりするんだ、きっと。

だけど・・・

日持ちする食品が収納された棚を見て、再び愕然。
苦手なはずのポテトチップやチョコレート、カップ麺といった、ジャンクなものがあふれてる。
ポテチやカップ麺はともかく、甘いお菓子も、カレが食べるのかな。
考えれば考えるほど、わからなくなる。

いずれにせよ、私が食べていいのは、野菜とヨーグルトぐらい。
でも、これを食べると食欲に火がついて、
他の高カロリー高脂肪のものまで、食べたくなりそうだから・・・
やめておくほうが、いいだろうな。

ふと、ケータイを見ると、メールが来てる。
また、妹からだ。

「お姉ちゃん!
いつまで逃げる気?
お母さん、マジで心配してるよ。
じつは、私が帰ってきてから、いろいろあってさ。
東京の伯母さんに電話して、大ゲンカになったりして。
お姉ちゃんが前以上にやせたこと、どうして教えてくれなかったんだ、って・・・」

一瞬、意味がわからなかったけど、少し考えたら、事情が呑み込めた。

もともと、私の上京には大反対だった母を、説得してくれたのが、東京の伯母。
私がまたやせたことも、途中で知ったけど、私がいろいろ嘘をついたおかげで、
母には言わないでくれたみたいだ。

でも、そのせいで、大ゲンカだなんて・・・
いろんな人のこと、巻き込んで、関係、おかしくしちゃってるんだ、私。
どうしよう、もう、誰にも会いたくないよ。

とりあえず、今日は寝てしまおう。
そうすれば、誰とも関わらずに済むし、過食からも逃げられる。

持参したパジャマに着替え、
なみちゃんが、自由に使って、と言ってくれたベッドにもぐりこんだ。
でも、体のあちこちが痛くて、なかなか寝つけない。

大事なこと、忘れてた。
30キロを切った頃から、腰や背中のところにバスタオルを置いたりしないと、
眠りづらくなってきたんだっけ。

やっぱり、今のやせ方、異常なのかな。
体力も、情けないほど落ちてるし。
さっきも、なみちゃんに「今までで一番、顔色が悪い」って言われた。
もしかしたら、そのうち、突然、死んじゃうかもしれない。

でも・・・
いっそ、そのほうが楽かもしれない。
今日、このまま、死んでしまえば、母親とも会わずに済む。
太らされる恐怖と、闘わずに済むんだもの。

一度目をあけ、力を込めて、つぶってみる。

もう、二度とあかなくても構わないからね・・・
そんな気持ちも込めながら。


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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